タグ別アーカイブ: 建てるための

「建てるための」土地調査‐1864‐

Webサイトのリニューアルを機に、コラムを書き始めました。

【1】どこに住もうか? 【2】「建てるため」の土地探し に続いての第3弾です。

【3】「建てるため」の土地調査

土地探しがはじまると、実際に候補地が上がってきます。「建てるための」と書いた通り、売買するための調査とは異なる部分が多くあるのです。

どのような規制があるのか?どのような費用が掛かってくるのか?これらを初期段階で把握できるかは、計画の成否を大きく左右します。
それでは、「建てるため」の土地調査について解説してみます。

1. そもそも建てられる?

まずは、都市計画法によって定められた「用途地域」の調査から始めます。建築が可能な土地であるか、どのような用途の建物なら建築可能かを調べます。

建築が可能と分かれば、ある規模以上の建築をするには、工事前に建築基準関係規定に適合するかを確認する必要があります。
建築士等が委任を受け代理業が行えるのですが、反対の言い方をすれば、建築士等による調査でなければ、見落としがでてしまう可能性が高いのです。

建築基準法だけを守ればよい訳ではありませんが、はじめにクリアすべきハードルであるのは間違いありません。まずは、建築基準法上、建築出来ない場合を説明してみます。

2. 接道の義務

建築基準法では、巾4m以上の道路に最低2m接していなければ建築ができません。

ただ、前に道路があれば接道の義務を満たしていることにはなりません。その道が「建築基準法上の」道路であるかがポイントです。

道路はいくつかに分類されていますが、2つ例をあげてみます。

■建築基準法(以下、法)42条1項1号道路

道路法による道路(高速自動車道を除く)で、幅員4メートル以上のもの。

一般的には国道、府道、市道等が該当します。

■法42条2項道路

法施行時または都市計画区域編入時に既に道として使用され、それに沿って建築物が建ち並んでいる幅員4メートル未満の道で特定行政庁が指定したもの。

これらの種別は、都道府県庁であったり、市役所等で調べれば分かりますが、最近ではWebサイトで公開しているケースも増えました。

道路幅4m以上必要ですが、1.8m以上あれば中心から2mまでセットバックすれば建築することは可能です。

これらの種別は、特定行政庁と言われる都道府県であったり、市役所で調べれば分かりますが、最近ではWebサイトで公開している 特定行政庁 がかなり増えました。

建築基準法では、巾4m以上の道路に最低2mと接していなければ建築ができませんが、道路巾が1.8m以上あれば中心から2mまでセットバックすれば建築することは可能です。


実際に、「光庭の家」道路幅が1.8mなく、新築不可でリノベーションとなりました。


3. 「道路境界明示」の要不要

左の写真のように道路境界が明確になっている場合はよいのですが、明確になっていない場合は、「道路境界明示」を求められる場合があります。

測量図面と申請業務、官民ともに立ち合いがもとめられるので、費用が少なくとも40万円程は掛かります。 「道路境界明示」の要不要も、特定行政庁や指定確認検査機関に確認しておく必要があります。

「8.8坪の家」は、道路境界明示をした上で完成しました。

敷地の右下。交差点では隅切りといわれる部分に建築することはできません。隅切りの要不要も各自治体が定めているルールがある場合があるので、先に調査しておくべき内容です。

4. 「水道の引き込み」と「最終汚水桝」は要注意

暮らす上で重要なインフラ設備ですが、水道と最終汚水桝も事前調査が必要です。

「イタウバハウス」のクライアントは、住みたい地域が決まっていたので、3年程かけて候補地をみつけました。

工場が更地になり、2つの敷地として売り出されることが分かりました。ただ当該敷地には水道の引込が無かったので、新たに敷設する必要があり、この費用が60万円程かかりました。

また、水道の引込管の太さによって設置可能な水栓の数が決まってきます。

古い設備は直径13mmのことがあり、これでは住宅レベルの水栓をまかなうことができません。水道本管からの引込管を最低でも直径20mm以上にする必要があります。

また、下水道に汚水を流すために、敷地内になる最後の桝を「最終汚水桝」と呼びます。この桝の設置工事費は、大阪市なら行政が負担してくれますが、建築主負担としている行政もあります。

5. 地盤改良の要不要は事前に分かる?

これまでの調査と共に、土地が強固であるか軟弱であるかも分かっているに越したことはありません。

これまでにも書きましたが、建築基準法では「建物の安全」と「敷地の安全」が求められるからです。土地が軟弱な場合は、地盤改良が必要になってきます。
「柱状改良」と呼ばれる地盤改良方法が比較的安価ですが、それでも30万円を下ることはありません。場合によっては200万円程掛かることもあります。

しかし反対に、地盤が強硬であれば「改良不要」の場合もあるのです。

「Shabby House」は、地盤が非常に良好で、「改良不要」と分かりました。


大阪平野は、2000年程前まで「河内潟」と呼ばれる内海が残っていました。そこに半島のようにせり出しているのが上町台地です。
大阪城を頂点とするこの台地は、非常に地盤が良好です。これまでにも、地盤改良が不要な敷地が数軒ありました。不要とならずとも、良好な地盤が浅い位置にあるので改良費は安価で済みます。

また、地名に水を連想させる文字が入っているのは、以前そういった土地だった名残の場合があります。地名や古地図が、その敷地を知る手がかりになることも多々あるのです。

まとめ

「建てるため」の土地調査は、「何とか夢を実現したい」というクライアントと、私たちの葛藤の歴史でもあります。
不要な出費を限界まで抑え、どうしても必要なものは事前に把握しておきたい。不明確な部分があればあるほど、前に進むのが怖くなってくるからです。

これを私は「遊園地の肝試しの法則」と呼んでいます。何だか分からないから怖いのであって、良く見れば人のいいアルバイト君なのですから。
これは半分冗談ですが、課題が明確になればあとは解決する方法を模索するだけ。怖い、避けたいと思うことこそ、正面から向かいあうしか突破する方法はないと思います。

■■■ 12月6日『ESSEonline』にコラム連載を開始
第1弾は「キッチン・パントリー」■■■

■■ 8月17日『建築家・守谷昌紀TV』を開設しました ■■

■1月27日 『Best of Houzz 2021』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞
■12月28日発売『suumoリフォーム(関西版)』にインタビュー記事掲載
■10月23日『homify』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載

メディア掲載情報

◇一級建築士事務所 アトリエ m◇
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記

コラム「建てるため」の土地探し‐1853‐

通勤にコートや手袋が必要になってきました。

そろそろマフラーも準備しておいた方が良いかもしれません。

通りがかった公園で、ネコが何かを見上げています。

何か小動物でも見つけているよう。

つられて顔上げると、葉を黄色に変えた立派なイチョウが目に入りました。

この時期、日の光を受けたイチョウの美しさは格別です。

眩いばかりの金色です。

先週、Webサイトをリニューアルしましたが、COLUMNというコンテンツを追加しました。

この日記で、家を建てるにあたって注意すべき点、工夫できることは一通り書いてきたつもりでいましした。

しかし、今回で1853回目になるので、必要な記事を見つけて貰うのは至難の業です。新たにまとめ直しては?とアドバイスを貰ったのです。

第1回目は-どこに住もうか?-というタイトルで、9月末にUPしておきました。

本日-「建てるため」の土地探し - をUPする予定でしたが、まだシステムを完全に把握できておらず……

初心に帰って、こだわりの家を建てたい人に役立つ情報を、月に1本くらいのペースで書いていきたと思います。ここで先に蔵出しします。

「建てるため」の土地探し

1. この中古物件買っていいですか?

土地や中古物件を探すには、まずは情報が必要です。
Webサイトや、広告などで情報を探すことからスタートします。

候補をしぼり、若いご夫妻と直接現地へ向かいました。
その場で、「守谷さん、この中古物件買っていいですか?」と尋ねられました。

コンマ数秒迷いましたが「新築を視野に入れないなら、いいと思います」と答えました。

こうして「神戸の高台の家」は計画がスタートしました。

2. 「リノベーション一択なら」

裏手に擁壁があり、現行法規の下で建替えをするなら、その部分を全てやり替える必要があります。数百万は掛かると考えたので、「リノベーション一択なら」と答えたのです。 

後にも書きますが、擁壁や高低差のある土地は、特に事前調査が大切なのです。

何千万もの買物を左右するアドバイスなので、重圧を感じなくはありません。
しかし、それを実務で経験させて貰ったからこそ私も鍛えられます。

建築基準法において、建物と土地の両方の安全を担保することを求められます。

上物だけに意識がいってしまうと、土地の調査がおろそかになり、「新築なら非常にコストが掛かる」または「建てられない」という最悪のケースまで起こり得るのです。

3. この土地買ったのですが

関西では北側に山が多く、南から日を受けるゆるやかな斜面地が多くあります。

南に向かって土地が下がっていくので、隣地の陰にならず、光環境は非常に恵まれます。

しかし、擁壁があったり、傾斜がきつかったりする場合には、土地の安全を担保しなければならないのは先の話の通りです。

バギーを押して、小さなお子さんと3人で見えたご家族は、すでに北摂の南斜面にある土地を購入されていました。

(写真と本文は関係ありません)

擁壁の上にあるとても見晴らしの良い土地で、不動産仲介会社からは「このくらいの家が建てれます」という、簡単な間取り図を貰っていました。

(写真と本文は関係ありません)

ただその擁壁の高さが5m以上あったので、「土地の安全ついての説明は受けましたか?」と尋ねると、「受けていません」と。

「プランの提案をして貰えますか?」という相談だったので、「まずはこの土地にこの大きさの建物が建つかの調査から始めてみます」とお答えしました。

写真で見る限り、擁壁の質があまり良さそうではなかったので、気になっていたのですが、調べていくと、完全にプライベートな擁壁だと分かりました。

4. 擁壁のメリットと絶対に気をつけるべきポイント

プライベートな擁壁とは何かを説明します。

例えば、山の斜面を住宅地として開発する場合は、半分を削り、半分を埋めたてることが殆どで、少なからず擁壁部ができます。

この擁壁が安全なものであるという、公的な照明書があれば問題なく建てることがで出来ます。しかし、これがなければこの擁壁に全く圧を掛けないように離して建てるか、荷重を掛けないような対処策を施さなければなりません。

先のご家族が購入されていた土地は、調査をしても安全を照明書できるものはなく、何かしらの対処をしなければ、予定していた建物が建たないことが分かりました。

出来るだけ安く地盤を補強する方法は見つけたのですが、それでも300万円程掛かります。それでは聞いていた話と違うということで、結局仲介会社と裁判をすることになってしまいました。

その為に資料を、できるだけ安価で製作することしか私には出来なかったのです。

反対に、「高台の家」ではこの擁壁が安全だという資料が役所に保管されていました。

それで、擁壁ぎりぎりまで建てることができたのです。

土地を売ることが専門の人と、土地に建てるのが専門の人の知識や意見が同じということはありません。

それは仕方がないのですが、さあこれからという、若いご家族がこのような目に会うケースを見るのは本当に忍びないものです。

私は「もし候補のひとつと思って下さるなら、遠慮なく相談下さい」と伝えます。

土地探しから新居を建てるという計画がスタートし、完成、そして生活が始まるまでは、夢の島を目指す長い航海のようなものです。

航海図を描いたり、船員を選んだり、舵を切ったりして、航海を成功させるのが、建築家の仕事だと思っているのです。


というのが、第2回目のコラムです。

バギーを押してこられたご家族から、その後の連絡はありません。

他の建築家と建てられたのか、注文住宅はやめたのか、そもそも一戸建てを諦めたのかは分かりません。

傾斜地が候補になった時、今でもあのご家族を思い出します。

そんなこともあり、初期調査にはかなり時間を掛けるようになったのです。


■■■ 8月17日『建築家・守谷昌紀TV』を開設しました ■■■

■1月27日 『Best of Houzz 2021』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞

■12月28日発売『suumoリフォーム(関西版)』にインタビュー記事掲載
■10月23日『homify』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載

メディア掲載情報

◇一級建築士事務所 アトリエ m◇
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記