COLUMN

建築家 守谷昌紀の建築コラム

建築設計に携わって四半世紀。土地探しから設計のポイントなど。


土地【1】どこに住もうか?
土地【2】「建てるため」の土地探し
土地【3】「建てるため」の土地調査

【1】どこに住もうか?

(2021.9.28)

自分が生まれ育った土地、職場の近く、偶然訪れて気に入った街……
よくよく考えて見れば人は自由ですから、どこで暮らすかも、どこに家を建てるのかも自由です。
しかし、制約が少なければ少ない程、「どこに住むのか」を決めるのは難しいかもしれません。どのようにして、暮らす街、建てる敷地を決めたのか。
実例で紹介してみます。


1. 候補が3つ

「職場の関係で、概ね住むエリアを決めているもの、何から始めて良いのか……」
こういった悩みをもって居る人は結構居ます。制約が少なければ少ない程、土地探しは簡単でないのです。
2007年に来所した「池を望む家」のご夫妻も、職場の関係から、概ねのエリアは決めていました。
しかし、A崖の土地、B閑静な住宅地、C池のほとりと、3つの土地で迷っていました。そぞれぞれに長所があるのです。
崖の土地は何と言っても見晴らしがよい。閑静な住宅街は、土地の安全対策にはお金が掛からないので、建物にお金が掛けられる。池のほとりは、北側の大きな池をいつも眺めることができる、といったように。


2. アドバイスは『第一印象』と『響く』

それで、ご夫妻にこうアドバイスしました。
「消去法ではなく、ここに住みたい!と思った土地がいいと思います。
『第一印象』はこれまで全ての経験が導き出した貴重な情報です。
また、心に『響く』といったことも同じように大切なものだと思います」


3. 池のほとりに「池を望む家」

するとご主人は、高校生の頃、悩みがあると大阪城の堀を見ていたことを思い出したそうです。
その結果、池のほとりに「池を望む家」が建ったのです。

4. 答えはあなたの心の中、ただし会話は重要

RC打放し「高台の家」のクライアントは、ご主人が仙台、奥さんが京都の出身です。
色々な土地を見れば見るほど迷ったと言います。自分達が住みたい場所とは?
多くの敷地を見に行った後、自分達は「坂のある街」が好きなのだと分ったのです。

スティーブ・ジョブズもこう言っています。
”自分の内なる声、心、直感というのは、どうしたわけか君が本当になりたいことが何か、もうとっくの昔に知っている。だからそれ以外のことは二の次でいい。”
もし、自分達の住む場所を探している人がいたら、大いに悩み、好きを見つけて欲しいと思います。
ただ、それを探り当てるためには、誰かと会話するとこはとても役に立ちます。好みや、大切なことを整理したり、アドバイスをすることは、建築家の役割だと思います。
また、その土地なら「こんな建物が建てられる」という提案もできます。
答えはあなたの心の中にしかありませんが、専門家として出来ることは沢山あると思います。

(2021.11.17加筆)

【2】「建てるため」の土地探し

(2021.11.19)

暮らしたい街や、自分たちにとって大切なことが分かってきたなら、今度は具体的な土地探しです。
リノベーションなら古家も含めて判断しなければなりません。
何より、その土地に自分たちが思い描いた家が建つのかを含めた検討が必要になってきます。
高低差のある土地は眺めが素晴らしいのですが、特に注意が必要です。
実際に問題が起ったケースも含めて解説してみます。


1. この中古物件買っていいですか?

土地や中古物件を探すには、まずは情報が必要です。 Webサイトや、広告などで情報を探すことからスタートします。

候補をしぼり、若いご夫妻と直接現地へ向かいました。 その場で、「守谷さん、この中古物件買っていいですか?」と尋ねられました。
コンマ数秒迷いましたが「新築を視野に入れないなら、いいと思います」と答えました。
こうして「神戸の高台の家」は計画がスタートしました。


2. 「リノベーション一択なら」

裏手に擁壁があり、現行法規の下で建替えをするなら、その部分を全てやり替える必要があります。数百万は掛かると考えたので、「リノベーション一択なら」と答えたのです。 
後にも書きますが、擁壁や高低差のある土地は、特に事前調査が大切なのです。 何千万もの買物を左右するアドバイスなので、重圧を感じなくはありません。 しかし、それを実務で経験させて貰ったからこそ私も鍛えられます。
建築基準法において、建物と土地の両方の安全を担保することを求められます。
上物だけに意識がいってしまうと、土地の調査がおろそかになり、「新築なら非常にコストが掛かる」または「建てられない」という最悪のケースまで起こり得るのです。


3. この土地買ったのですが

関西では北側に山が多く、南から日を受けるゆるやかな斜面地が多くあります。
南に向かって土地が下がっていくので、隣地の陰にはならず、光環境は非常に恵まれます。

ただその擁壁の高さが5m以上あったので、「土地の安全ついての説明は受けましたか?」と尋ねると、「受けていません」と。
「プランの提案をして貰えますか?」という相談だったので、「まずはこの土地にこの大きさの建物が建つかの調査から始めてみます」とお答えしました。
写真で見る限り、擁壁の質があまり良さそうではなかったので、気になっていたのですが、調べていくと、完全にプライベートな擁壁だと分かりました。


4. 擁壁のメリットと絶対に気をつけるべきポイント

プライベートな擁壁とは何かを説明します。
例えば、山の斜面を住宅地として開発する場合は、半分を削り、半分を埋めたてることが殆どで、少なからず擁壁部ができます。
この擁壁が安全なものであるという、公的な照明書があれば問題なく建てることが出来ます。しかし、これがなければこの擁壁に全く圧を掛けないように離して建てるか、荷重を掛けないような対処策を施さなければなりません。
先のご家族が購入されていた土地は、調査をしても安全を照明書できるものはなく、何かしらの対処をしなければ、予定していた建物が建たないことが分かりました。
出来るだけ安く地盤を補強する方法は見つけたのですが、それでも300万円程掛かります。それでは聞いていた話と違うということで、結局仲介会社と裁判をすることになってしまいました。
その為に資料を、できるだけ安価で製作することしか私には出来なかったのです。 反対に、「高台の家」ではこの擁壁が安全だという資料が役所に保管されていました。

それで、擁壁ぎりぎりまで建てることができたのです。
土地を売ることが専門の人と、土地に建てるのが専門の人の知識や意見が同じということはありません。
それは仕方がないのですが、さあこれからという、若いご家族がこのような目に会うケースを見るのは本当に忍びないものです。
私は「もし候補のひとつと思って下さるなら、遠慮なく相談下さい」と伝えます。
土地探しから新居を建てるという計画がスタートし、完成、そして生活が始まるまでは、夢の島を目指す長い航海のようなものです。
航海図を描いたり、船員を選んだり、舵を切ったりして、航海を成功させるのが、建築家の仕事だと思っているのです。


【3】「建てるため」の土地調査


(2021.12.28)

土地探しがはじまると、実際に候補地が上がってきます。
「建てるための」と書いた通り、売買するための調査とは異なる部分が多くあるのです。
どのような規制があるのか?どのような費用が掛かってくるのか?
これらを初期段階で把握できるかは、計画の成否を大きく左右します。 それでは、「建てるため」の土地調査について解説してみます。


1. そもそも建てられる?

まずは、都市計画法によって定められた「用途地域」の調査から始めます。
建築が可能な土地であるか、どのような用途の建物なら建築可能かを調べます。
建築が可能と分かれば、ある規模以上の建築をするには、工事前に建築基準関係規定に適合するかを確認する必要があります。
建築士等が委任を受け代理業が行えるのですが、反対の言い方をすれば、建築士等による調査でなければ、見落としがでてしまう可能性が高いのです。
建築基準法だけを守ればよい訳ではありませんが、はじめにクリアすべきハードルであるのは間違いありません。
まずは、建築基準法上、建築出来ない場合を説明してみます。


2. 接道の義務

建築基準法では、巾4m以上の道路に最低2m接していなければ建築ができません。
ただ、前に道路があれば接道の義務を満たしていることにはなりません。
その道が「建築基準法上の」道路であるかがポイントです。
道路はいくつかに分類されていますが、2つ例をあげてみます。


■建築基準法(以下、法)42条1項1号道路 道路法による道路(高速自動車道を除く)で、幅員4メートル以上のもの。
一般的には国道、府道、市道等が該当します。


■法42条2項道路
法施行時または都市計画区域編入時に既に道として使用され、それに沿って建築物が建ち並んでいる幅員4メートル未満の道で特定行政庁が指定したもの。


これらの種別は、都道府県庁であったり、市役所等で調べれば分かりますが、最近ではWebサイトで公開しているケースも増えました。
道路幅4m以上必要ですが、1.8m以上あれば中心から2mまでセットバックすれば建築することは可能です。

実際に、「光庭の家」道路幅が1.8mなく、新築不可でリノベーションとなりました。


3. 「道路境界明示」の要不要

左の写真のように道路境界が明確になっている場合はよいのですが、明確になっていない場合は、「道路境界明示」を求められる場合があります。
測量図面と申請業務、官民ともに立ち合いがもとめられるので、費用が少なくとも40万円程は掛かります。 「道路境界明示」の要不要も、特定行政庁や指定確認検査機関に確認しておく必要があります。

「8.8坪の家」は、道路境界明示をした上で完成しました。
敷地の右下。交差点では隅切りといわれる部分に建築することはできません。
隅切りの要不要も各自治体が定めているルールがある場合があるので、先に調査しておくべき内容です。


4. 「水道の引き込み」と「最終汚水桝」は要注意

暮らす上で重要なインフラ設備ですが、水道と最終汚水桝も事前調査が必要です。

「イタウバハウス」のクライアントは、住みたい地域が決まっていたので、3年程かけて候補地をみつけました。
工場が更地になり、2つの敷地として売り出されることが分かりました。
ただ当該敷地には水道の引込が無かったので、新たに敷設する必要があり、この費用が60万円程かかりました。

また、水道の引込管の太さによって設置可能な水栓の数が決まってきます。
古い設備は直径13mmのことがあり、これでは住宅レベルの水栓をまかなうことができません。水道本管からの引込管を最低でも直径20mm以上にする必要があります。

また、下水道に汚水を流すために、敷地内になる最後の桝を「最終汚水桝」と呼びます。この桝の設置工事費は、大阪市なら行政が負担してくれますが、建築主負担としている行政もあります。
これらの情報は、土地の購入前に是非調査しておきたいところです。


5. 地盤改良の要不要は事前に分かる?

これまでの調査と共に、土地が強固であるか軟弱であるかも分かっているに越したことはありません。
これまでにも書きましたが、建築基準法では「建物の安全」と「敷地の安全」が求められるからです。
土地が軟弱な場合は、地盤改良が必要になってきます。
「柱状改良」と呼ばれる地盤改良方法が比較的安価ですが、それでも30万円を下ることはありません。場合によっては200万円程掛かることもあります。
しかし反対に、地盤が強硬であれば「改良不要」の場合もあるのです。

「Shabby House」は、地盤が非常に良好で、「改良不要」と分かりました。

大阪平野は、2000年程前まで「河内潟」と呼ばれる内海が残っていました。そこに半島のようにせり出しているのが上町台地です。
大阪城を頂点とするこの台地は、非常に地盤が良好です。これまでにも、地盤改良が不要な敷地が数軒ありました。
不要とならずとも、良好な地盤が浅い位置にあるので改良費は安価で済みます。
また、地名に水を連想させる文字が入っているのは、以前そういった土地だった名残の場合があります。
地名や古地図が、その敷地を知る手がかりになることも多々あるのです。


まとめ

「建てるため」の土地調査は、「何とか夢を実現したい」というクライアントと、私たちの葛藤の歴史でもあります。 不要な出費を限界まで抑え、どうしても必要なものは事前に把握しておきたい。
不明確な部分があればあるほど、前に進むのが怖くなってくるからです。
これを私は「遊園地の肝試しの法則」と呼んでいます。
何だか分からないから怖いのであって、良く見れば人のいいアルバイト君なのですから。
これは半分冗談ですが、課題が明確になればあとは解決する方法を模索するだけ。
怖い、避けたいと思うことこそ、正面から向かいあうしか突破する方法はないと思います。

(2021.12.28)

【4】


(2022.1.22  更新予定)