その小説、傑作につき‐1599‐

 昨日、関西もようやく梅雨入りしました。

 ここまで遅れたことによって、私の現場は随分助かりましたが、そんな事だけを言っている訳にはいきません。

 日本が日本であるための恵みの雨。

 アジサイも待ちくたびれていたでしょうから。

 朝一番に「うえだクリニック」の現場から戻ってくると、阪神高速は通行止めの表示がでていました。

 アナウンスされていたG20の影響ですが、丁度会社のある平野からの通行止めでした。これらも現場に響かなければ良いのですが。

 池井戸潤の小説を初めて読んだのは2年前でした。

 この頃は経済小説の名手、高杉良の作品ばかり読んでいました。「ザ・ゼネコン」という小説を購入すると、amazonでお勧めにでてきたのです。

 「鉄の骨」という同じくゼネコンの話でしたが、なかなか面白かったので、長男が持っていた「アキラとあきら」も読みました。

 こちらはドラマ化されてから文庫化されたそうですが、ジェフリー・アーチャーの「ケインとアベル」よろしく、恵まれた御曹司と、ハングリー精神で上り詰めて行く2人の人生が交錯する様を描いています。

 そして、「下町ロケット」を読み終えました。

 十年に一度の傑作小説だと思います。

 ドラマ化もされているので、周知の作品なのだと思いますが、2011年直木賞受賞作品は伊達ではありません。

 楽しみを奪いたくないので、最小のあらすじだけ書いてみます。

 主人公は佃製作所という小さな精密機械工場の二代目社長です。

 佃航平は大学をでたあと宇宙科学開発機構の研究員となりますが、革新的なロケットエンジンの開発者でした。

 そのエンジンのトラブルで、ロケットの打ち上げは失敗。責任を取って佃製作所に戻ります。

 父を継ぎ経営者となるのですが、その技術を持った零細企業の屈辱と、忍耐と、努力と逆転の痛快物語です。

 ライバル関係にある上場企業から戦略的に訴えられ、耐力差からの兵糧攻めにあいます。

 国産ロケットを開発中の大企業、帝国重工業の社内のパワーゲームに翻弄され、ありとあらゆる屈辱を味わうのですが、このあたりの描き方が抜群に腹立たしい。

 それが、最後に溜飲を下げさせてくれる度合いを最大値にしてくれるのですが。

 上質なエンターテイメント映画を見た後のような読後感で、これだけページの先を急いだのはいつ以来だったかと思っていました。

 「子供の頃、アポロ計画に憧れて」という、ありふれたスタートからここまで描き切るのですから、その筆力は凄いの一言に尽きます。

 前回、日曜日にミナミへ行ったと書きました。

 高島屋の北西、御堂筋に面して建っていた歌舞伎座が、酷いことになっていました。

 元の歌舞伎座は、大阪が誇る建築家、故・村野藤吾の代表作です。

 その上に、こんなホテルを乗っけるとは!


 
 現代の法規制が厳しいのは分かりますが、村野なら絶対そこは貼りものにしません。

 もう呆れるレベルなのですが、何の発言力もない自分に腹が立つのです。

 宮本輝の代表作「道頓堀川」に、川下から愁いを秘めてミナミの街を眺めるシーンがあったと思います。

 それを読んでから、この辺りからミナミを見るのが好きになったのですが、新戎橋南詰には出世地蔵尊があります。

 頭を垂れて、成長、成功をお願いするのです。

 仕事を始めてからは、自分なりに精一杯生きてきたつもりですが、勿論のこと下に見られること、屈辱を受けることもあります。

 安藤忠雄とて、屈辱を受けることはあるでしょうが、もし私が、せめて関西で一番なら、例えば歌舞伎座上のホテルに関しても、少しは発言できたかもしれません。

 全ての結果は自分の責任で、誰のせいでもないのです。

 ただ文字の配列だけで、これだけ人に元気を与えたり、涙を流させたりできるのですから、作家はいつまでたってもの私の憧れの仕事です。

 やる気を出すのに、遅すぎるということはないはずです。もっと言えば、今が最速です。

 液体酸素と、液体水素は十分注入して貰いました。下半期のロケットスタートを確実に決めなければなりません。

■■■『大改造!!劇的ビフォーアフター』4月7日(日)BS朝日で「住之江の元長屋」再放送
■■■『デンタルクリニックデザイン事典vol.1』4月1日発売に「さかたファミリー歯科クリニック」掲載

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【News】
『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀
ギャラクシーブックスから2017年11月27日出版
amazon <民家・住宅論>で1位になりました
■『homify』5月7日「碧の家」掲載
『houzz』4月15日の特集記事
「中庭のある無垢な珪藻土の家」が紹介されました
「トレジャーキッズたかどの保育園」
地域情報サイトに掲載されました
大阪ガス『住まう』11月22日発行に「中庭のある無垢な珪藻土の家」掲載
『住まいの設計05・06月号』3月20日発売「回遊できる家」掲載
『homify』6月29日「回遊できる家」掲載

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◇一級建築士事務所 アトリエ m◇
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記

絵も心も大きな、ミナミの住人‐1598‐

 観測史上最も遅くなるという関西の梅雨入り。

 今朝も非常に良い天気でした。

 昨日は打合せ終わりで、ミナミへ出ていました。

 高島屋大阪店の7階、台湾点心の鼎泰豐(ディンタイフォン)に行っていました。

 先日、長男がクラブで頑張ったので「何か食べに行こうか?」と聞くと即答。

 言わずと知れた小籠包の有名店で人気店。

 子供達が先に並んでくれていたので、6時半から食事にありつけました。

 勿論のことですが、間違いのないお味。

 その他の料理も総合点は高く、子供達もどんどん平らげていきます。

 腸詰は少しクセがあるので、まだ無理かなと思っていましたが、長男は喜んで食べていました。

 体も舌も、どんどん大人に近づいていくのです。

 子供達に並んで貰っている間、久し振りにアメリカ村あたりを歩いてきました。

 三角公園はやはり若者の街。

 ごった返しています。

 ビッグステップの前を東に通り過ぎると、黒田征太郎の『peace on earth』が見えてきます。

 FM802のロゴもデザインしたイラストレーターですが、道頓堀の出身だと知りました。

 この作品の下部には落書きがあります。

 それが問題になった時、ビルオーナーだったかが「黒田先生の作品に失礼だ」というコメントを出しました。

 それを受けて「私の絵は、落書きしたくらいでは何も変わりませんよ」と答えたのです。
 
 この話がとても好きなのです。

 現在80歳だそうですが、ビッグステップの地下2階に、ギャラリー兼アトリエを構えたと知りました。

 ビッグステップの名の通り、大きな階段を2層下ります。

 「描場」は階段下の空間にありました。

 土日のみのオープンですが、スタッフの方が親切に案内してくれます。

 写真撮影もOKとのことで、キラキラとした素敵な空間でした。

 アクリルに閉じ込められた作品です。

 元作業台に直接描かれたアトムの絵。

 手塚プロと協力して、様々なアトムを描いているとのことでした。彼も手塚治虫になりたかったひとりだったそうです。

 スタッフの方が、色々と話してくれたのです。

 大阪に居る時は実際にここで制作をするそうです。床にはその際の絵の具でしょうか。

 直接壁に描いた作品もあります。

 現代美術に解説は不要です。

 なんだか分からないけど楽しい。美しい。

 それで十分だと思います。

 「描場」は写真撮影OKです。

 日本のギャラリーではなかなか無いので驚きましたが、スタッフの方も「大きな人です」と言っておられたのです。

 誰でも、人間を大きく見せたいものです。

 だからと言って何でも許容すれば良い訳でもありません。

 謙遜しているだけでは成長もありませんし、そういう意味では値決めがプロとしてのプライド、主張でしょうか。

 アクリルの作品のお値段も聞いたのですが、絶対無理でも、その場で買える値段でもありませんでした。

 あくまで私の財布に照らし合わせてですが。
 
 作家・沢木耕太郎とは旧知の仲で、そのエッセイの中に登場します。

 2人で出演していたラジオの公開番組でのこと。

 観覧者からの質問コーナーで、ある若者が「あなた位のイラストなら、僕でも少し練習すればすぐ描けますよ」というような発言をします。

 黒田征太郎は「じゃあ、今、ここで描いてみろ」と言い放ったという話です。
 
 壁一面のイラストも、確かに素人っぽく見えますが、私はこの話がとても好きです。

 この話も本人から聞いたとのこと。

 本を通してのまた聞きから、ひとりを介してのまた聞きに進歩しました。ご本人に聞くより、沢山のことが聞けたかもしれません。

 「いつか」と言っている人に、「今」はやってきません。
 
 いつだってトップランナーは、私に活力を与えてくれます。

 そして、自分もそんな存在になれるよう、日々を精一杯生きるしかないと、夜のミナミに誓うのです。

■■■『大改造!!劇的ビフォーアフター』4月7日(日)BS朝日で「住之江の元長屋」再放送
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私の年輪‐1597‐

 前回は、長男の試合を観に行ったあと、近鉄奈良駅に向かったところまで書きました。

 近鉄奈良ビルは、坂倉準三の設計で1970年竣工なので私と同い年です。

 駅近の商店街は、いつもながら賑わっていました。

 近鉄特急に乗るようになり、web会員になりました。

 それで、ちょこちょことポイントが貯まります。

 これが微妙な貯まり具合で、現在使えるのは難波までの特急券とのこと。

 30分、510円の贅沢です。

 ガラガラで、乗っているのは外国人旅行者ばかりでした。

 淀屋橋から京阪に乗り換えて、大きなクスノキのある萱島駅で下車。

 年に1回、OhanaでのBBQに呼んで貰いました。

 2009年の竣工で、今年は11年目を迎えます。

 元は駅の高架下で営業していましたが、写真スタジオの更なる可能性を模索するため、少しだけ離れたこの地に新築することになったのです。

 初めて相談に見えたのは2008年の2月。お父様とご一緒でした。

 共に37歳だったはずで、もう10年以上前から知っていることになります。

 昨年の台風では、シンボルツリーのオリーブが倒れてしまいました。

 再生は無理と言われたそうですが、それでも少しずつ芽がでてきています。

 生き物とは本当に逞しいものです。

 手書きの看板の横に有るエントランスを入ると、レセプションです。

 この床は、5年程前の豪雨の際に浸水し、一度やり替えています。

 建物も店主も、自然に負けないくらい逞しいのです。

 今お客さんは居ないとのことで、2階のスタジオにも上がってきました。

 床の直上に切った小さなFIX窓は、子供さんに人気。

 撮影の機材の多くは、前店舗から持ってきたもので、ミリ単位で設計したことを思い出します。

 Ohana石井さんと愉快な仲間たちは、私がパシャパシャやっている間にすでに着席。

 乾杯となりました。

 石井さんは、「守谷さんはビールが好きだから」と、いつも色々なビールを準備してくれています。

 自分が設計したお店の裏庭でこれらを頂く幸せは、何にも替えることができません。

 こんな重要なことを私が書いてよいのが分かりませんが(と言って書いているのですが)、実は府道の拡張によって、Ohanaは移転する必要がでてきました。

 私にとっての建築設計とは、唯一無二のものを創ることです。

 オーナー、店主の方々に「出来れば、○○2ndのような店づくりは避けませんか」と言ってきました。

 Ohanaは最たる建物で、2011年にはキッズデザイン賞を受賞することができました。

 あの20mm~30mmの精度で建てたH鋼35本を、もう一度建てて欲しいと言っても、建築会社は断るかもしれません。

 そのくらい、30代の私にとっては持てるものを出し切った仕事だと思っています。

 ここで写し取られた幸せの景色が、このスタジオの存在価値を何よりも雄弁に語ってくれるのです。

 こちらは奥さん作の石井さん。とっても良く似ています。

 作品は私にとっての年輪です。

 年輪は、冬の成長が遅い部分が濃く映るので、1年ずつの輪が見えます。それ故、労苦を伴う仕事こそが、年輪となるのです。

 石井さんは「出来れば次の店も守谷さんに」と言ってくれました。

 プレッシャーは正直ありますが、本当にそうなれば40代で培ったもの全てぶつけてみたいと思うのです。

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青春ど真ん中‐1596‐

昨日は奈良へ行っていました。

若干雨がぱらつく時もありましたが、初夏の心地よさを十分に堪能できました。

緑、寺社仏閣、そして近代建築を楽しめるのが奈良です。

しかし主役はやはり鹿でしょうか。

天敵の少ない日本では、駆除の話がよく出ますが、鹿と最も上手く共生しているのが奈良でしょう。

近鉄奈良駅から少し北に行ったところにある奈良女子大学。

いつか見に行こうと思いながら、初めて訪れました。

1908年(明治41年)に完成した旧本館は重要文化財に指定されています。

モスグリーンの色合いも優しく、この地に馴染んでいます。

100年もこの地に建っているので、当たり前と言えば当たり前ですが。

構内に紛れ込んだのか、普段から住んでいるのか、小鹿と子供さんがあそんでいました。

2階は大空間の講堂があるようで、公開時に再訪して見たいものです。

守衛室も同じく重要文化財で、十字架型のプランが愛らしい建物でした。

奈良女子大学から更に北へ10分程歩くと、ならでんアリーナがあります。

奈良に行っていたのは、ここで長男の試合があったからです。

外観はややくたびれていますが、内部は熱気で溢れかえっています。

近頃流行のネイミング・ライツですが、奈良市は関西電力ではないのでしょうか。

ちょと気になるところです。

中学から始めた卓球ですが、本当に好きなようです。

同級生に強い選手が沢山おり、先週は皆で自主的に朝練をしていたようです。

1回戦は不戦勝で、2回戦からでてきました。

初戦は落ち着かないものですが、まあ何とか危なげなく勝利。

しかし3回戦の相手は体も大きく、かなりの強敵でした。

試合前に少し談笑していたので、後で聞くと知合いだったそうです。

フォアのドライブを決められ、かなり押し込まれていました。

卓球にはベンチコーチというシステムがあります。

プロなら勿論監督などが入るのでしょうが、選手も多いので同級生や先輩が入ります。

1セット取り返された後、チームメイトがにこやかな顔でアドバイスをしてくれていました。とても強い選手なのです。

その後、落ち着きをとりもどし、耐えに耐え、デュースもありましたが勝利を納めました。

目標は6回戦まで進むことと聞いていたのですが、4回戦も勝ち上がり、あと1勝まで勝上ってきました。

しかしこの辺りからは、実力のある選手ばかりになってきます。

シード選手を撃破することはできずで、目標の1歩手前で、この日は試合を終えることになりました。

試合の空き時間に周辺を歩いていると、スタジアムがありました。

中学生か高校生か、サッカーの試合をしており、ゴールに迫ると父兄から大きな歓声が上がります。

どこの親も一緒だもんなと、少しの間観戦していたのです。

長男は瞬発力があるタイプで、走る、ジャンプする等の能力は高い方でした。

それで、小さい頃はサッカークラブに入れてみたり、左打ちなので、一緒に野球の練習をしたりもしました。

サッカーはあまり向いていないようでしたが、野球のほうは、逆方向に強い打球を打てる俊足の左バッターです。

このタイプはかなり重宝されるので、かなり勧めましたし、テニスも向いているんじゃないかとアドバイスもしたのですが、入学してすぐに、自分で卓球をすると決めて来たのです。

同級生は更に上まで行った選手が4人居り、本人は悔しかったでしょうが、よく頑張ったと思います。

勉強もクラブも優秀であるに越したことはありませんが、全力で打ち込めるものを見つけてくれたことが一番の収穫です。

本気で打ち込み、負ける。

この経験をしていないと、「やればできる」という言い訳ばかりの人生になってしまうからです。

また、成長を目指すよい仲間に恵まれたことが、彼を目標1歩手前まで成長させてくれたのだと思います。

青春ど真ん中の時間を、謳歌してほしいと思うのです。

長男が負けた頃、丁度時間となり、清々しい気持ちで次の目的地に向かいました。

おまけですが、鹿センベイを買ったなら、すぐに鹿にあげないと追い回されることになります。

彼女のように。

見た目は可愛い動物ですが、勿論獣ですので、怖がって手に持っていると、普通に噛んできますので。

まあ、それも思い出と言う場合は何の問題もないのですが。

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目指せ、下町のプリンス‐1595‐

 昨年の夏季休暇は、広島県の尾道愛媛県の大三島を回りました。

 大三島は大学時代の後輩の家を訪ねたのですが、先日、第一子が誕生したと聞き、ささやかなお祝いを送ったのです。

 不要だと伝えていましたが、内祝いが返ってきました。

 本人曰く「和歌山人の魂の味」抹茶アイスでした。

 和歌山、吹田、京都、鹿児島、ハワイを渡り歩いた彼が選んだものなので間違いないはず。

 早速、コーヒーブレイクに頂きましたが、和歌山人の魂を、ひしと感じたのです。

 大変美味しゅうございました。

 彼らが暮らす大三島の周辺環境は、素晴らしいの一言に尽きます。

 私なら毎日釣りをして、仕事にならないでしょうが、子供さんはのびのびと育つでしょう。

 あまり小さい時は負担になると思うので、3歳くらいになった時を狙って、また押しかけてみたいと思います。

 我が町「平野」は間もなく夏祭りシーズンです。

 私は海外へ出かけるのも大好きですが、働き、暮らす場所としての下町は気にいっています。

 アーケードのある商店街。

 肉屋の手造りコロッケ。

 細々とですが(失礼!)、まだ釣具屋も残っています。

 

 こちらの模型屋さんは、シャッターを見ると微妙な感じ。

 こんなショーウィンドウに張り付き、お年玉でプラモデルを買ったものです。

 下町の特徴を一言で表せば「外に開いている」ということでしょうか。

 職住一体となっている場合が多いので、町行く人にアピールしなければならないからです。

 大学時代の後輩が、芦屋の六麓荘に住んでいました。

 家に泊めて貰ったことがあるのですが、六麓荘の中でも一番山手の方で、間違いなく関西一の高級住宅地です。

 広い庭があり、塀で囲まれ、プライバシーが確保されていますが、高台なので各住宅からの眺望も申し分ありません。

 竹中工務店出身の建築家・永田祐三さん設計の煉瓦造りの作品がすぐそばにありました。当たり前ですが、建築雑誌で見た街並みそのままだったのです。

 それに比べると、町工場まで混在し、同じ日本かと訝りたくなりますが、職と住が近い良さもあります。

 働く姿を真近でみれるのは、最も良い点でしょう。

 閑静な住宅街では普通ないものが、道端に転がっています。

 これは車軸でしょうか。

 こんな車の部品でも使えるのか。

 何しろ工場があると重機があるので、閑静な住宅街にはないことが起るのです。街に動きがあるのも下町の特徴でしょう。

 離島が良い、閑静な住宅街が良い、下町が良いという単純な話ではありませんが、子供は環境を受け入れ、活かし、成長していかなければなりません。

 そして、自分が大人になった時、どこで暮らすのかを決める時がやってきます。

 そう考えると、私もこの下町を離れる選択肢もありました。

 子供が小さい時は両親の助けが必要でしたし、現在のように急にスタッフが足りなくなると、妻にも店番をして貰わなければなりません。

 また、遅い時間まで仕事をしたければ、家が近いに越したことはありません。

 創業は天王寺だったのですが、会社を平野に移転したことで、多少下に見られることは理解しています。

 大メーカーの営業マンなどの応対を見れば明らかです。

 しかし、それでも多くのクライアントがこの下町まで足を運んでくれたことが、私のプライドなのです。

 おそらく子供が独立するまではこの地で暮らすでしょうが、会社は市内の中心へ出ていく気持ちはあります。
 

 かなり年老いたネコに見えますが、何故ここに暮らしているのだろうかと考えます。

 首輪がないところを見ると、どこで暮らしても良いはずです。

 もし話すことができたらこう言うに違いありません。

 「住めば都だニャア」と。

 今、自分が暮らす場所こそが、自分にとっての都そのもの。それ以外の人生は、今現在ありません。

 何と深く、前向きな言葉だったのかということが理解できました。

 積極的理由ではないにしても、下町で暮らすという選択をしたことに悔いはありません。

 名コメディアン東八郎の次男、東孝之はTake2のボケ担当。相方が女優・田中美佐子の旦那さんと言った方が分かりやすいでしょうか。

 東孝之の「下町のプリンス」というニックネームが私は大好きです。

 我が家の長男にも、下町のバイタリティは吸収し、かといって下品でない「下町のプリンス」を目指して欲しいと思っているのです。

 これは私の目標でもあったのですが。

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偏差値50の呪縛‐1594‐

 晴れたり雨だったりと、目まぐるしく天気が変わる時期です。

 今週のどこかで、「住吉区歯科医師会館」の撮影をしたいと思い天気を見ていると、サイトによって結構違うものです。

 6月13日(木)は、Yahoo天気予報では「曇り時々晴れ」、気象庁のサイトでは「晴れ時々雲り」となっています。

「信頼度A」の表示もあり、この日に決めました。ここは気象庁の、メンツに掛けて、是非晴れでお願いしたいと思います。

 6月7日(金)は「北摂のリノベーション」の現場へ行っていました。

 この日は煙立つような激しい雨でした。

 その中に、葺きあがったばかりの白い屋根が見てとれます。

 その前週に行った際はまだ下地の状態だったので黒。

 ご家族でも印象が分かれていましたが、私としてはとても楽しみにしています。

 雨が降ると、一気に気温が下がり涼しい風が流れ込んできました。

 緑もより鮮やかに。天気が同じ景色を何通りにも楽しませてくれるのです。

 先週は良い知らせが2つ続きました。

 長男の定期考査が、これまでで最高の成績。また、娘は模擬テストの結果にA判定もあり、これまた過去最高。

 まさに、盆と正月がやってきました。

 私は中学2年生以降の成績で偏差値50以上を見たことがありません。

 赤点もしょっちゅうでした。特に数学はひどいもので、偏差値30台もありました。

 よって、単純に偏差値という言葉が嫌いですが、子供達が受験をすることになり見ていると、面白い点もあります。

 例えば、算数、国語、理科、社会の全て偏差値が50.5だったとします。

 4教科トータルなら、偏差値50.5とはなりません。

 分布にもよると思いますが、53、54くらいまで行くのではないでしょうか。

 「50」という数字が丁度真ん中になるように表現したこのシステムは、概略を捕まえるには非常に優れていると思います。

 しかし、得意があったり、不得意があったりするのが当たり前で、「50を割ってしまうと並より下」という認識を持ってしまうのが、一番のデメリットではないかと思うのです。

 偏差値70台、60台をだしている人から見れば、あまりにも低いレベルだと思いますが、ここは子供に繰り返し伝えている点です。

 私、長男、娘の3人とも算数が苦手。苦手と書いては克服できないので書きたくないのですが、これだけ揃うと、もう遺伝レベルかもしれません。

 それで長男にはこう伝えています。

 「授業を聞いてて、全く分からなくなると退屈でしょうがないから、何とか理解できるところまではくらいついていくようにな」

 全くついて行けずで、居眠りばかりしていた私が、どの口で言うのかと思いながら言っているのですが。

 喜びも悲しみも丁度同じで平均すれば偏差値50。それなら、山も谷も無い方がよい。

 そう望んだとしても、残念ながらそんな人生はありません。

 サン・テグジュペリ は『星の王子さま』の中でこう書いています。

 おとなは数字が好きだから。新しい友だちのことを話しても、おとなは、いちばんたいせつなことはなにも聞かない。

 私も大人なので、数字好きなのでしょうか。

 そうなのか、そうでないのかは分かりませんが、一番大切なことが何かを分かりたいとは思っているのです。

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桑名でくわな‐1593‐

 前回、6月2日(日)に養老を訪れたところまで書きました。

 昼前、孝子伝説と瓢箪の街をでて桑名に戻りました。

 養老鉄道で45分程です。

 朝一番の近鉄特急で桑名に到着したので、一度ここで乗り換えをしています。

 この駅は、近鉄、JR、養老鉄道が同じ駅舎の中にあります。

 通路の端々に、乗り換え用の改札があるのが見えるでしょうか。

 ここにタッチするだけで乗り換え出来るのです。

 桑名の街は、関西で言えば枚方くらいの雰囲気でしょうか。

 乗り継ぎ駅なのでぶらぶらしようと思っていましたが、「六華苑」という近代建築があることだけ分かっていました。

 鹿鳴館の設計でも知られる、イギリス人建築家、ジョサイア・コンドルの設計です。

 駅から20分程掛けて歩いていくと「本日イベントの為休業」とあります。

 聞くと映画の撮影だそう。

 仕方なしに六華苑と隣り合う庭園、「諸戸氏庭園」だけのぞいてきました。

 諸戸家は、米の仲買で財を成し、明治にこの庭園を手に入れました。

 目の前で揖斐川と長良川が合流し、東海道唯一の海路、七里の渡し跡も残っています。

 交通と流通の要所だったことが分かります。

 この煉瓦造りの米蔵も明治期のもので、文化財に指定されています。

 菖蒲池を中心とした回遊型の庭園で、その名の菖蒲が満開です。

 白に淡い紫。

 濃い紫と、緑のスラッとした葉に良く映えます。

 推敲亭という草庵がポツンと建っています。

 この時代の豪商は、何とセンスが良いのかと思います。

 現代なら、秀吉よろしく2、3割は金ピカになっていそうなものですが。

 横にある織部灯篭は古田織部考案と言われ、下部に見える人型の彫が見てとれます。

 キリシタン禁制の時代、信者が用いたものが、茶庭の趣のひとつとして残ったとも言われているそうです。

 昼を少し回りましたが、駅前まで戻り昼食をとることに。

 満席の餃子屋があり、かなりいい感じだったのでのぞいてみると「今、満席」と、とりつくにべもなし。

 いくら美味しくても、その感じはノーサンキューなので他の店をのぞきます。

 懐かしのドムドムがありました。

 昔、近所にあったので良く行きました。しかしハンバーガーもパス。

 客入りの差がかなり激しく、一番入っている店にしました。

 蕎麦と中華そばがメニューにあり、若干いぶかりながら入ったのですが、これが大正解でした。

 ラーメンではなく中華そば。

 出汁がしっかり効いており、あっさりにも関わらず味はしっかりで、とても美味しかったのです。

 無駄なお金を使いたい人は居ません。客の入りとはつくずく正直なものです。

 名物という「安永餅(やすながもち)」も頂きました。

 寛永の時代につくられた旅人のお菓子ということで、餡子入りの餅。

 江戸時代から売れ続けている訳で、間違いのない味でした。

 電車で出掛ける時は、ジョギング用のスニーカーを履き、歩きに歩きます。

 一日歩きまわって、行き帰りの電車で本を読んで、ちょっと美味しいものを食べて。

 昔仕事を一緒にしたコピーライターの人が、「趣味はお出掛け」と書いていました。

 私の場合は「遠出」でしょうか。遠ければ遠い程、ときめくのです。

 大阪もインバウンド効果で潤っています。その時に、一番心象を左右するのは、人だということは、肝に銘じておいた方が良いと思います。

 観光客がお金にしか見えていない店主のあなた。

 ばれていないと思っているのは、本人だけなのですよ。

■■■『大改造!!劇的ビフォーアフター』4月7日(日)BS朝日で「住之江の元長屋」再放送
■■■『デンタルクリニックデザイン事典vol.1』4月1日発売に「さかたファミリー歯科クリニック」掲載

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『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀
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大阪ガス『住まう』11月22日発行に「中庭のある無垢な珪藻土の家」掲載
『住まいの設計05・06月号』3月20日発売「回遊できる家」掲載
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建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
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養老の滝‐1592‐

 昨日は、朝一番の近鉄特急に乗って、養老へ。

 桑名まで2時間程。ここで養老鉄道に乗り換えます。

 ローカル線のひとり旅は、何より贅沢な時間。

 のんびりと本でも読みながら……

 と思っていると、縦揺れがかなり凄いのです。

 検札に来た車掌に聞くと「いやあ、赤字路線なので済みませんねえ」と。

 線路の下に敷く砂利は、定期的に突き固めればしっかりするが、その予算がないとのこと。

 また線路幅が狭いのもその理由だそうです。

 もとは近鉄電車の一部だったのが、10年前くらいに切り離されたとも言っていました。何とも微妙な感じもするのですが。

 それでも、のんびりした風景を眺めながら45分程で養老駅に到着しました。

 駅のホームにも瓢箪。

 店先にも瓢箪でしたが、その理由は後で触れてみます。

 一番の目的は、養老天命反転地

 一説によると日本一危険とも言われるこのがこの公園です。

 荒川修作+マドリン・ギンズの作品ですが、プリツカー賞を受賞した磯崎新との共作、奈義美術館は紹介しました。

 案内にはこうあります。

 荒川修作+マドリン・ギンズは現在の世界の絶望的な状況を希望有る未来へ転換させるようとしています。
  
 そのためには「死」を前提とした消極的な生き方を改め、古い常識を覆すことが必要だと言っています。この死へいたる「宿命(天命)」を反転することを使命として荒川+ギンズは活動を続けてきたのです。

 現在が絶望的で、死を前提とした生き方が消極的かは置いておいたとして、「身体感覚の変革により意識の変革が可能だと考えた」という論理には納得できます。

 水平垂直を極力排除し、人のもつ平衡感覚や遠近感に揺さぶりを掛けるという目的は、完全に達成されていました。

 団体で来ていた一行のリーダーが「皆が歩けるルートを探さないと……」と困っていました。

 しかしよくこの大胆な試みが実現したなと思います。

 子連れの若い夫妻は、子供を制するのに懸命でした。

 それはよく分かります。大人の私が、正直、身の危険を感じるくらいの斜面でしたから。

 すりばち状の園の底にあるのは「宿命の家」。

 床のガラス部をのぞくとイスがありました。

 そしてこれは「もののあわれ変容器」。

 正直、何が何だかさっぱり分かりませんが、平衡感覚が乱れるのは事実だし、転んでしまう人が続出という記事も読んだこともあります。

 なかなか機会がなかったので、訪れておいて良かったと思います。

 できれば晴天で写真を撮ってみたかったという悔いはありますが。

 こちらは天命反転地の手前にある「極限で似るものの家」。

 立体迷路になっています。

 エントランスに最も近い位置にあるのが「養老天命反転地記念館」。

 一番初めに入った時は、面白いなあと思いましたが、それが序の口だったと後で分かったのです。

 ここの面白さを、写真と文章で伝えるのはかなり難しいので、気になる人は是非訪れてみて下さい。

 小学校くらいのお子さんが居る家庭には、かなりお勧めします。

 「養老の滝」と聞けば、私の世代なら「養老乃瀧」を思い出すと思います。

 私が18歳の頃、初めて行った居酒屋は「養老乃瀧」十三店だったと思います。

 もしかすると京都の「百番」だったかもしれませんが、あまり自慢できた話ではないので、このくらいでスルーさせて下さい。

 なぜ「養老の滝」からその屋号を取ってきたのか、行ってから知りました。

 源丞内(げんじょうない)という貧しい若者が山で薪を拾い、それを売って目の悪い老父に米や酒を買っていました。

 ある時苔むした岩から滑り落ち、気が付くと酒の香りが。泉から酒が湧いているようです。

 これを瓢箪に入れて持ち帰り、父に飲ませると目が見えるようになりました。

 717年、この話が時の天皇の耳に入り、天が親孝行な若者を助けたのだろうと褒めたたえたというのが、養老の滝、孝子伝説です。

 現在も名水百選に選ばれている菊水泉。養老神社脇にあります。

 大変美味しかったのですが、少し持って帰り、視力が落ち気味の娘に飲ませれば良かったと思いましたが後の祭りでした。

 源丞内が瓢箪に入れて持ち帰ったことから、この地のシンボルとなったようです。

 大量に消費されるペットボトル問題の解決法がここにありました。

 まさか、今の時代に簡単に瓢箪に戻れるとは思いませんが、方法としては「無し」ではないかもしれません。

 「瓢箪から駒」のことわざ通り、何かコミカルで可愛げです。

 人ごととしてでなく、ちょっと奮発して瓢箪を買い、菊水泉を詰めて持って帰るくらいのユーモアと余裕を持たねばと思ったのです。

 帰りに寄った桑名編はまた次回に。

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