大阪を南北に貫くメインストリートは御堂筋です。
大きな筋で言えば、東に堺筋、松屋町筋そして谷町筋と並びます。
「タニマチ」は力士の後援者という意味ですが、この「谷町」に住んでいたからという説が一般的です。
谷町九丁目の交差点を少し北に行くと、パリ生まれのデザイナー、フィリップ・スタルクがデザインしたビルがあります。
1992年完成の「バロン・ベール」。
関西唯一の作品のはずです。
東京なら、1989年完成、浅草のスーパードライホールが有名です。
左のビルは泡をたたえたジョッキをモチーフとしています。モチーフと言っても、かなり直喩的な表現ですが。
2008年9月、この時点で「バロン・ベール」には7~8年、テナントが付いていないと書いていました。
テナント募集の広告がとれ、現在は埋まっているよう。
スタルクは建築家でもありますが、どちらかと言えばデザイナーのほうに軸足を置いているでしょうか。
「White eaves」でも、スタルクがデザインしたシャワーを採用しました。
何年か前、セブンイレブンでも、スタルクデザインの文房具が販売されていました。
しかし、その執着心は凄いの一言に付きます。
薄目を開けたような開口部に、赤い▽マークが僅かに見えます。
下にある四角い扉は、非常時に消防隊が侵入する為のもので、その位置を示すもの。
限界まで、目立たないようにしているのでしょう。
1階は不動産会社が入っていました。
横のエレベーターホールをのぞくと、各テナントのプレートがあり、一様に「18歳以下禁止」となっています。
ビル全体が、風俗店を誘致しているよう。
これは望ましいことか、望ましくないことか。スタルクに聞けばどう答えるでしょうか。
近隣住民の風紀を考えると嬉しいことではないような気がします。しかし、ずっと空室のままなら何れ取り壊されるでしょう。
「バロン・ベール」はフランス語で、イタリア人のマルコに聞くと「緑の男爵」という意味だと。
どことなく、行く末を案じたくなるような……
スタルクが、優れたデザイナーであることは疑うべくもありません。
未来を完全に予測することは不可能です。しかし「バロン・ベール」がそう簡単にテナントが埋まらないのは想像できます。
自分が表現したいことと、社会、クライアントが求めていることにずれがあると、無理や不幸が生じます。
建築は、使われていなければ、地球最大の粗大ごみ。壊すよりは使われる方が良いは、消極的肯定と言えるでしょう。
芸術と暮らしの中間にあるのが建築だという真理を、分かっている者が建築家だと思いたいのです。
そして、積極的肯定を求めなければなりません。