タグ別アーカイブ: 原田マハ

キネマの神様、本の神様‐1695‐

 今年度は、落ち着かない4月からスタートしました。

 一年で最も気持ちの良い時期、八十八夜も過ぎ、あっという間に5月も下旬に。

 キンカンの実を照らす日差しは、すでに初夏を感じさせます。

 本日、関西の3府県もようやく緊急事態宣言が解除されました。

 4月8日の宣言から43日。

 関東圏と北海道の方には少し気兼ねしますが、誰もがほっとした表情に見えます。

 完全に収束した訳ではありませんが、出口があるとさえ分かれば人は頑張れるものです。

 帰りが遅くなった時でも、一行でも本を読むように心掛けています。

 この自粛期間中で面白かった本は、まず恩田陸さんの『蜂蜜と遠雷』。

 ピアノコンクールを舞台に、才能ある若者が個性をぶつけ合うのですが、音楽を、更にクラッシックを、ここまで言葉で表現できることに関心しました。

 キーとなる人物、若き天才ピアニスト風間塵の扱いが少し雑なのは気になりましたが、読者を楽しませるエンターテイメントにまで仕上げるのですから、直木賞、本屋大賞を唯一W受賞の看板は伊達ではありませんでした。

 連載10年も凄いですが装丁も素晴らしい。

 もう一冊は原田マハさんの『キネマの神様』。

 亡くなった志村けんさんが主役を務めるはずだったあの映画の原作です。

 原田マハ作品は今年読み始めたばかりですが、『楽園のキャンバス』 『本日はお日柄もよく』に続いて三冊目。

 少しだけあらすじを書くと、39歳独身の女性が大手ディベロッパーの課長職を辞するところから物語は始まります。

 映画とギャンブルが大好きな彼女の父親が、傾きかけた映画雑誌社と小さな名画座を救うというハートウォーミングな物語。

 救った手法を書いてしまうと、未読の人の楽しみを奪いかねないので止めますが、ファンタジーのようでもありました。

 考えてみれば、本と模型とカタログに囲まれた半生です。

 建築設計を仕事にしてから25年経ちますが、関連の本も増える一方。

 ベースが乱読なので、小説、哲学書、写真集に実務書と、もう本に埋もれて働いてると言っても過言ではありません。

 ペーパレス時代に完全逆行していますが「物」が好きなのだと思います。

 時間を持て余していた子供達に「本と映画なら全て補助してあげる」と伝えると、彼らは日に一本ペースで映画を観ています。

 それがいつからかアメリカのテレビドラマに変わっていました。映画は大好きですが、続き物のドラマは少々苦手。

 子供にも、何故テレビドラマでなく映画を観て欲しいのか上手く説明できないのですが、本と映画にはいつも誰かの本気を感じるのです。

 勿論、ドラマも本気で作られているはずですが、限られた時間、紙面の中で描かれる人生模様を垣間見るのが好きなのだと思います。

 「キネマの神様」の帯には「本の神様ありがとう!!」とありました。

 粋なメッセージですが、神様はこの世に存在するとも、しないとも言えます。

 神様は人の良心が作り上げものだとするなら、私が垣間見たいのは誰かの良心なのかもしれません。

 神様≒良心は、ぼんやりしたところが苦手で、本気の場面でしか見掛けることが出来ない。

 そんな気がするのです。

 全て勝手な空想なので、ドラマ好きの人へはごめんなさい。

 実際、『24-TWENTY FOUR-』は寝られないくらい面白かったテレビドラマでしたし。

A photograph is wonderful.
2017年5月 青森/白神山地

■■■4月8日『Sumikata』東急リバブル発行
巻頭インタビューが掲載されました

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【News】
■5月16日『homify』(英語)の特集記事に「下町のコンクリートCUBE」掲載
■5月10日『Houzz』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載
■2月13日 『Best of Houzz』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞
■2月3日『Houzz』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載
■12月3日 『Houzzユーザーが選んだ人気写真:キッチン編』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が5位に選出
■9月30日発売『suumoリフォーム 実例&会社が見つかる本 関西版』「回遊できる家」掲載
■7月21日BS朝日『大改造!!劇的ビフォーアフター』「住之江の元長屋」再放送
「トレジャーキッズたかどの保育園」
地域情報サイトに掲載

■2017年11月27日ギャラクシーブックスから出版『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀がamazon <民家・住宅論>で1位になりました

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本日はお日柄もよく‐1684‐

 本日はお足元の悪い中……

 雨の日のスピーチなら、この出だしが大半でしょうか。

 雨が降る週初めとなりました。

 先週街中で撮ったものですが、この雨で桜はまた来年です。

 外出自粛要請、休業要請が出るなか、穏やかな日常が当たり前ではないことを、誰もが感じています。

 微妙なタイミングではありましたが、今年は子供達の進学もあったので、春先に墓前での報告だけはしておけばよかったと、少し悔いが残るのです。

 子供の居る家庭では、勿論のこと時間を持て余していると思います。

 「皆が頑張っているんだから勉強くらいはしなさい!」と言って勉強してくれるなら親は要りません。

 なら楽しみもセットにしようと、面白そうな本をどんどん買い与えています。

 兄妹ともに人気があったのはこのシリーズ。

 『謎解きはディナーのあとで』 東川篤哉

 私はまだ読んでいないのですが、兄は1巻、妹は3巻からと、2人で順番を入れ替えながら読むほど。

 池井戸潤は『下町ロケット』『陸王』『空飛ぶタイヤ』など。概ね好評でした。

 初めての原田マハ作品は『楽園のカンヴァス』で、最高に面白い、芸術エンターテイメント作品だったと書きました。

 好きな作家が見つかった時のご褒美感を、何と表現して良いのか。

 ある席でそのことを話すと、マハ愛読者だという方から『本日はお日柄もよく』を教えて貰いました。

 片思いをしていた幼なじみの男友達が結婚。その式で聞いたスピーチに感激します。

 その女性が伝説のスピーチライターだと知り、OLをしながら彼女に弟子入り。

 その幼なじみが、国会議員に立候補することになり、会社を辞めて彼をサポートすることを決意します。プロのスピーチライターとして成長していくという物語です。

 内容はあらすじだけにしておきます。言葉を大切にした爽やかな小説なので、良ければ読んでみて下さい。

 『予備校ブギ』以来、恋愛ドラマは観ていませんが、良質のドラマを観ているようでした。

 表現というものは、前向きになって貰えなければ、不要な物だと思っています。

 ネガティブが好きだという人も中には居るでしょうが、生きるということ自体がポジティブなことだからです。

 何かを否定するのはとても簡単です。人の悪口など、言おうと思えばいくらでも出てきますから(笑)

 もし間違っていたとしても、先に言葉を発する人を私は信用します。自分もそうでありたいと思いますし、言葉の力を信じてもいるのです。

 『本日はお日柄もよく』は我が家で言えば、兄は読まず、妹は一気読みでした。

 とても前向きになれる小説ですが、女性向きなのかもしれません。

 もうひとつ言えば、スピーチの極意も散りばめられているので、その役が待っている方には更にお勧めします。

 スピーチでは、何度も辛酸をなめてきたので、もっと早くにこの本を勧めてくれる人がいてくれたらと思うくらいですから。

■■■4月8日『Sumikata』東急リバブル発行に
巻頭インタビューが掲載されました

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【News】

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■2月3日 『Houzzの特集記事』「阿倍野の長屋」が取り上げられました
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美人の東と西‐1673‐

 日曜日に北野天満宮を参った帰りに、嵐山へ寄ってきました。

 渡月橋を渡る人影は若干少な目でしょうか。

 桂川のせせらぎが、春の日差しにキラキラと輝きます。

 普段よりは少ないのでしょうが、思ったよりは人出がありました。

 屋形船は営業しているのか、移動しているだけなのか。

 こういったサービスは打撃が大きいでしょう。

 新聞で「美人のすべて」という展覧会が、福田美術館であると知り、のぞいてみたかったのです。

 福田美術館は昨年の10月に竣工したばかりで、桂川のほとりに建っています。

 和の外観とは異なり、内部はクールでシャープな印象です。

 新型肺炎の影響で、展覧会はこの日までに短縮されることになりました。

 ポスターにもある、松園の「雪女」の実物を見てみたいと思い滑り込みでやって来ました。

 案内にはこうあります。

 京都を代表する日本画家・上村松園(1875-1949)は、女性が画家を職業として生きることが困難だった時代に、独自の美人画で道を切り開いた功績により、女性初の文化勲章を受章しました。本展では理想的な「美」を追求した松園作品を中心に展示いたします。

 この「雪女」の原画が発見され、公開されるのは初めてともありました。

 なら余計に観たくなるものです。

 松園の作品の中でも異彩を放つというこの作品。

 正直言えば新聞で初めてみたインパクトの方が大きかったかなという感じ。

 これも実物を見たから持てる感想ですが。

 娘に『雪女』の事を話すと、観るのをやめておくと。

 アートを楽しんで貰うのは、なかなかにハードルが高いものです。

 しかし原田マハの『楽園のカンヴァス』は最高に面白い、芸術エンターテイメント作品でした。

 ニューヨーク近代美術館のキュレーターと、現在は岡山の大原美術館で監視員をする、元アンリ・ルソーの研究者、早川織絵が、ルソーの名作『夢』に酷似した作品の真贋判定を依頼されます。

 その手掛かりとなる古書を、2人が読み進めながら物語は展開して行くのですが、同時代を生きたピカソも登場し、絵の秘密が明かされて行きます。

 ピカソにも影響を与えたと言わるアンリ・ルソー。

 彼はパリの入市税関の役人として働いていたのですが、49歳の時退職して絵に専念することになります。

 生前、アカデミックなところからの評価は全く得られず。

 しかし、ピカソやゴーギャン、詩人アポリネールといった、当時の前衛芸術家からは一目置かれる存在となっいました。

 またお金には苦労していたようですが、天真爛漫な性格で、画家仲間には愛されていたようです。

 このあたりがゴッホと大きく違う点でしょう。

 幼稚ともとれるその作風が、なかなか世間には評価されなかったのですが、『蛇使いの女』は1907年の作品。

 ほぼ緑で描かれたこの作品は、当時の評論家が理解できない程、新しい絵画だったのです。

 『楽園のカンヴァス』の表紙にある『夢』は1910年、ルソー最晩年の傑作と言われます。

 そこ描かれる裸婦はヤドヴィガ。

 ルソーが添えた詩によって語られているのですが、このポーランド人女性は小説にも登場してきます。

 『雪女』は大正末期の作品と考えられているそうなので、これらはほぼ同じ時代の作品です。

 松園の描く美、そしてルソーが描く美が、これ程までに違うことがとても面白いのです。

 消えてしまいそうな幽霊にも美を求め、東欧の女性の肉感溢れる裸体にも美を求め、人の美への探求心は枯れることがないでしょう。

 これで東と西の美人が分かったとはなりませんが、ジェンダーフリーの時代であっても、男女の区別をなくして美を語ることは難しいと思うのです。

■■■2月13日 『Best of Houzz』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞

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■2月3日 『Houzzの特集記事』「阿倍野の長屋」が取り上げられました
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■9月30日発売『suumoリフォーム 実例&会社が見つかる本 関西版』「回遊できる家」掲載
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■4月1日発売『デンタルクリニックデザイン事典vol.1』「さかたファミリー歯科クリニック」掲載
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