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シンシンの夜は チクチク飲んで ‐1752‐

 市内を流れる川は、護岸をされているものが殆どです。

 平野川に合流し、大阪城あたりで第二寝屋川に注ぐこの今川もそう。

 普段なら、無粋な矢板鋼板が目につきますが、これだけ色があれば全く気になりません。

 むしろ引き立て役かなというくらい。

 桜は春も見事ですが、紅葉もそれに負けていないのです。

 近鉄南大阪線の今川駅から少し西へ行くと、地下鉄田辺駅があります。

 その駅前にある須田画廊で「生誕90年開高健特別展」が9日(水)13時まで催されています。

 1958年に「裸の王様」で芥川賞を受賞した開高健は、天王寺区に生まれました。

 7歳の時に現在の東住吉区北田辺に引っ越してきます。

 その縁で発足した「北田辺開高健の会」がこの展示会を主催しているのです。

開高は1989年に58歳で病没展示しました。

 亡くなる1年前、これまで記録に無かった大阪での講演原稿が発見され、今回展示されています。

 これは「北田辺開高健の会」の世話人を務める、こちらの白髪の方、吉村さんのもとに持ち込まれたものでした。

 1978年11月、母校である天王寺高校での講演の音声も聞くことができました。

 「講演は嫌いだけど、20数年振りに引き受けた」とあり、小、中、高を過ごしたこの北田辺界隈や母校への愛情を感じます。

 開高が暮らした昭和初期の長屋を、実測して復元した模型も展示されていました。

 現在はもうないのですが、吉村さんに聞くと、近鉄北田辺駅のすぐそばだったと教えてくれました。

 近鉄今川駅のひとつ北が北田辺駅です。

 駅のすぐ西側に記念碑がありました。

 「耳の物語」から、昭和13年に北田辺に引っ越してきた行が碑となっていました。

 「耳の物語」は大阪で過ごした青春時代を「音」によってたどる自伝的小説です。

 詳細までは思い出せませんが、面白かったことは覚えています。

 これは私の好みですが、開高健は小説も良いのですが、エッセイは更に素晴らしいと思っているのです。

 吉村さんに聞いた場所を訪ねてみました。

 この昭和初期に建った四軒長屋の向こう側に、先程の模型が建っていたそうです。

 文字で、大人やお酒や遊びを教えて貰った、大好きな作家、開高健がここで暮らしたという景色をしばらく眺めていました。

 すぐ近くの商店街はこの通り。

 まっすぐ南に下った駒川商店街の活気と比べると、寂しい感は否めません。

 開高が作家として成功する前は、壽屋(現サントリー)の宣伝部に在籍していました。

 そこで、コピーライターとしてその才能を開花させます。

 「屋台にハイボールが並ぶまで、書いて、書いて、書きまくる」と言ったように、行動を起こし続ける以外に、持続も反映も無いのです。

 展示にあったパネルは何度か見たことがあるので「どこに保存してあるのですか」と世話役の吉村さんに尋ねてみました。

 母校である大阪市大の倉庫に保管されているそうです。

 そのパネルから一節抜粋してみます。

 シンシンの夜は
 チクチク飲んで

 オレはオレに
 優しくしてやる

 そうすることに
 してある

 チクチクとな
 トリスでナ

(1967年1月 トリスウィスキー広告)

 その事実に、何故か開高健の偉業を強く感じますし、このコピーに哀愁と、優しさと、お酒への愛情を感じるのです。

 私の何かが、母校に保存されるのか……

 ふたつの意味を込めて「まだ、まだ!」と自分に言い聞かせるのです。

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■5月16日『homify』(英語)の特集記事に「下町のコンクリートCUBE」掲載
■5月10日『Houzz』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載
■4月8日『Sumikata』東急リバブル発行に巻頭インタビュー掲載
■2月13日 『Best of Houzz』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞

■2017年11月27日ギャラクシーブックスから出版『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀がamazon <民家・住宅論>で1位になりました

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小さな水路も、やがて大河と変わり海へとそそぐ‐1576‐

 明け方まで降っていた雨が嘘のような快晴になりました。

 子供達も今日から学校です。

 会社近くにある、今川の桜は毎年早咲です。

 季節は早まる一方ですが、何とか桜のある始業式になったようです。

 今川は平野川と名を変えて、城北川に合流します。さらに寝屋川と合流し、大阪城の北で大川に注ぎます。

 反対の言い方をすればこれらを堀として利用するために、大阪城はあの地に築かれました。

 大川の桜も満開でした。

 地下鉄天満橋駅からのアクセスもよく、多くの人が訪れていました。

 大川と谷町筋の交点が天満橋です。

 天満橋の上から西をみれば、下流の中之島を望みます。

 東の上流を見れば、左に大川、右に寝屋川と、その合流点が見えます。

 先程の平野川もここに注ぎ込んでいるのです。

 OBPの高層ビルを背景にして、大阪でも最も美しい桜の名所と言えるでしょう。

 やはり、水辺の桜は美しさもひとしお。

 淡い桜を、緑、青の背景が引き立てます。

 この春だけに限らず、何人ものスタッフの入退社を見てきました。

 まずは私の力量不足を反省しなければなりません。

 その上で、退路のあるなしが、その忍耐強さに大きく影響するのは間違いないと思います。

 しかし、それだけでは説明のつかないことが沢山あるようにも感じます。

 今、目の前にある仕事は、自分の夢と一直線につながっている。

 もしそうでないなら、すぐに仕事、職場を変えればよいと思いますが、おそらく繋がっているはずです。

 小さな水路を見ていると、どこかで消えてなくなりそうですが、最後は大河となって大阪湾にそそぐのです。

 手元にある仕事は、地味で、かつ大変です。

 しかし、確実に夢と繋がっているからこそ、頑張りもきくのです。

 満開の花を咲かせるか、寂しく散りゆくか。

 勿論、満開の花を咲かせるしかありません。

 信じるものは救われる。

 そういうことなのだと思うのです。

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