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水と日影を南国大阪に‐1408‐

 まだまだ厳しい残暑が続きます。

 土曜日の明け方、雨音で目が覚めました。雨が上がったあと外にでてみると肌寒いくらい。

 雨の力は凄いものです。

 天満橋あたりから中之島をみる景色は、大川越しで涼しげです。

 見た目だけでなく、水上を通る風は冷やされ、若干温度を下げています。

 北浜にある「SEIUNDO」。内装のデザインをさせてもらいました。

 2016年3月に完成しましたが、大川沿いの最新のオフィスビルの中にあります。
 
 北に川のある立地を活かし、ビル自体がその涼風を取り込もうというコンセプトで設計されているのです。

 楕円のカウンターを中心にすえ「隔てず、導き、繋ぐ」をコンセプトに設計しました。

 実際に川側窓からの風はかなり涼しいようで、結構な時期までエアコンを使っていないとのことでした。

 日本は南北に3500kmある国ですが、大阪なら北緯34度です。

 日差しが強いイメージのあるバルセロナで北緯43度。函館とほぼ同じ緯度なのです。

 北緯35度前後といえば、ヨーロッパ大陸を南下し、アフリカ大陸北端のモロッコあたり。もう南国の趣きです。

 ニューヨークは北緯40度、ロンドンにいたっては北緯55度。北緯45度の稚内よりはるかに北です。

 世界の大都市の多くは大阪、東京と比べるともっと北にあることが分かります。

 にもかかわらず、何とかこの気温で済んでいるのは、日本が海に囲まれた島国だからです。

 温暖化が進む中、海の気温も上がっていることを考えると、日本の都心部は、本気で夏の気温、日射対策をしなければなりません。
 
 建築にまず出来ることがあるとすれば、日影をつくることでしょうか。近年は特に重要なテーマとして取り組んできたつもりです。

 深すぎず、浅すぎず、価値ある美しい日影をつくりたいと思っているのです。

 「高台の家」は、各居室南に庇を設けました。

 「さかたファミリー歯科クリニック」は建物全体を庇で覆い、外壁にあたる光の量も軽減しました。

 庇と日影が主役の建物です。

 「R Grey」は、9月1日から入居が始まる賃貸住宅ですが、限られた開口部を最大限に活かせるよう考えました。

 緯度が決まると、夏至、冬至の南中高度が分かるため、庇の設計がより正確にできます。

 バルセロナで設計するなら、庇の位置を変えなければなりません。

 庇が開口部前に日影をつくり、その部分の気温を下げます。

 また、内部空間の床を温めないので、室内への熱負荷がかなり小さくすむのです。

 私の初期の仕事で、庇が無い建物があります。

 それが「R Grey」の隣に建つ「平野西の家」です。1階は当社のアトリエです。

 正面の大開口に対して、もっと日射の検討が必要だったと思います。

 この家は弟の家で、申し訳なく思うのですが、なにかしらの対策をしなければと思っています。

 光と風の導き方が、現代建築における要点あるのは間違いありません。

 元建築家協会会長の出江寛は作品の評論をする際「軒のない建築は駄目だ」と一刀両断だったといいます。

 必ずしも軒である必要はないと思いますが、現代建築において、その意味がなお強いものになってきたと実感するのです。