カテゴリー別アーカイブ: 02 ことば・本

関西56人の建築家と家をつくる。夢を形にした60のストーリー

 7月10日の日曜日に、(社)日本建築家協会近畿支部が編集した建築家カタログVOL.6が発売されました。

 建築家協会は一般的に、JIAと呼ばれます。


 カタログということは、私も1つの商品になった訳です。題名は『関西56人の建築家と家をつくる。夢を形にした60のストーリー』

 昨日、堂島アバンザのジュンク堂に寄ると、店頭に並んでいました。作品は「加美の家」

 居室は内外ともコンクリート打ち放し仕上げで、建物と庭の関係にこだわって設計しました。

 先日も近くを通った折に見てきましたが、汚れもなく、とても美しい状態に保たれていました。

  欧米では、作家性を持つ建築家と、エンジニアとしての建築士は違う職業として区分けされます。

 日本ではJIAに「登録建築家制度」というものがあり、私も登録していますが、それらの違いを分かり易く解説してくれるのが、前JIA会長の出江寛氏です。

 「建築屋」とは本屋さんや八百屋さん、あるいは政治屋などのように『物』に携わる人。

 「建築士」とは教師や弁護士あるいは詐欺師などのように『技術』に携わる人。

 「建築家」芸術家とか音楽家など『心』に携わるの人。

 設計するという事は広い意味で建築を売っている訳ですから、私は「建築屋」です。私は一級建築士の資格を持っていますから「建築士」でもあります。

 そして私は「建築家」と呼ばれていますが、それは私の建築に対する姿勢を見て評価して頂けたものだと思っています。

 建築が単に『物』や『技術』のみで終わることなく『心』を込めた物でなければなりません。

 さて、この日記の題名には「建築家」と付けています。

 誰かがそう呼んでくれたから、加えたのではありません。事務所を始めた時から、そう名乗っています。

 出江的美意識からするとNGかもしれませんが、社会的に認知されたら建築家を名乗るなど、悠長なことは考えていなかったのです。
 

寄り添うことはできる

 昨日は夏至。

 当たり前の事ですが、一年で一番太陽が長く出ている日です。

 小学生が夏休みに育てるのは、ヒマワリとアサガオです。

 我が家でも、随分大きくなってきました。

 ヒマワリは向日葵と書きます。いつも太陽の方を見るように、私達も常に希望を見て生きて行きたいものです。

 玄関で子供が育てるのはカブトムシの幼虫。ついにサナギになりました。

 植物も、虫も明るい日の下に出るため、暗い土の中で過ごしている期間があります。

 人にとって、明るく前向きであることは一番大切な事です。しかし、反対の出来事からも学べる人が、更に奥行のある人へなって行くのかもしれません。

 作家の伊集院静が、テレビでこんなことを言っていました。

 「小説が人の人生を変えられるとは思っていない。ただ寄り添うことは出来る。誰しもこんな悲しみがあるんだな、とか。そういう小説を書きたい。なかなか書けないけどね」

 伊集院静は最後の無頼派と言われ、無類のギャンブル好きだそうです。

 ギャンブル小説の最高峰は阿佐田哲也の「麻雀放浪記」でしょう。学生の頃、もう熱中して読みました。本名の色川武大名義では「怪しい来客簿」や、直木賞作品「離婚」などの純文学も書く多才な作家でもあります。

 彼を師事し、晩年まで同じ卓を囲んでいたのが伊集院静でした。
 
 広告代理店のCMディレクターから始まり、近藤真彦の「愚か者」「ギンギラギンにさりげなく」の作詞と、多彩なキャリアを誇ります。直木賞作家でもあり、以前から気になる作家でしたが、まだ作品を読んだことは無いのです。

 前妻の夏目雅子が亡くなった時の事も語っていました。

 「金があれば海外で移植を受けさせられたかもしれない、と考えた。しかしそれは叶わなかった。それからは、金なんかに左右されない人生を、ビクともしない人生を歩んでやると決めた」

 ドリームズ・カム・トゥルーの吉田美和も今回の震災をふまえ「音楽が誰かを助けられるとは思っていない」と発言していました。

 「私の時も、そうだった。ただ、思っているほど、人は弱くない。ただ、音楽はそこにある事は出来る」と言っていたのです。

 共に、自身のパートナーを失った経験を語っています。その世界で上り詰めたと言っていい2人が、行きついた答えは同じものでした。

 仕事において「幸せのために」を追及して来たつもりですが、「寄り添える」という言葉を聞いた時、何の違和感もなく体の中に入って来ました。

 寄り添うことはできる。

なずな咲く

 今月の中旬、香川へ行った時に「なずな」が咲いていました。

 ペンペン草のほうが通りが良いでしょうか。最近あまり見かけなくなった気がします。

 よく見れば なずな花咲く 垣根かな

 芭蕉の代表作で、私の好きな句なのです。

 垣根の狭間に咲くなずな。そんなところに季節の移ろいを感じられる人でいたいと思います。

 小さい頃、大人ってタフだなと思っていました。そうなりたいと思う反面、なんと言えばよいか感覚が鈍くなっていくのは嫌だなとも思っていたのです。

 40歳になった今、12歳の頃と同じ人間なので本質は変わらないと分かります。しかし当時と比べると、その都度落ち込むことはなくなったと思います。

 タフになったのでなく、落ち込んでいても現実は寸分も変わらないと、知ったのです。悟ったように書きますが、もちろんまだ過程。そう言い聞かせている部分もありますが。

 以前、明石家さんまが「生きてるだけで丸儲け」と発言していました。素晴らしい!としか言いようのない人生観です。だからこそ彼は成果を出し続けるのでしょう。

 地震の起こった3月11日。24歳のスタッフが入所しました。彼は千葉の船橋出身。当日は情報が入るたびに不安だったと思います。

 先週末は実家に帰って家族にも会えたそうです。親御さんにも、頑張れ!と励まされ戻ってきました。

 仕事に精進し、感じられる、しかも前向きな仕事人になって欲しいと思います。その為に全力でサポートします。

 一生懸命働くことが、本人の、日本の、世界の幸せにつながると信じています。

『月刊ハウジング』に「ドタバタ広場のある家」掲載

 今日はゲツモクではありませんが、雑誌の告知です。

 3月25日、本日発売の『月刊ハウジング 05月号』「ドタバタ広場のある家」が掲載されました。

 取材は1月下旬の、1年点検の日にありました。

 ハウジングは今回が初めて。今まで数度オファーを貰ったのですが、なかなか条件が合わなかったのです。

 この住宅情報誌の魅力は、まずは価格にあるかもしれません。500円なのです。

 安いだけでは支持されません。写真、情報量、販売書店の多さも特徴です。

 今回は『ココチイイのは「光と風」が流れる住まい』という特集の、1番目で紹介されています。

 クライアントご家族の協力で、とても楽しそうな、明るい誌面になっていますが、考えてみれば、晴れなかったらどうなったのだろうと思います。

 「プロとは締切があること」と漫画家の浦沢直樹が言っていました。

 雑誌、テレビ関係の人は、いつもこのプレッシャーと向き合っているから、成長のスピードが速いのだと思います。 

 宜しければ是非手に取ってみて下さい。

一級建築士事務所 アトリエ m
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記

エルマーの冒険

 昨年のクリスマス、突然子供へプレゼントを頂きました。

 3歳の娘には「シルバニアファミリー」の人形、6歳の長男へは「エルマーの冒険」スゴロクだったのです。

 下の娘は、兄のおもちゃでばかりだったので、人形で遊ぶ姿を見て何というかホッとしたのです。

 それを機に、兄妹ともスゴロクに目覚めました。

 娘はもうひとつルールが分からず、邪魔をしたりもしますが、それでも一緒にしたいものです。

 妻はこのスゴロクに原作があると知り、早速買って来たのです。ヤフーオークションでですが。

 長男にとって、初めて絵本でない「本」でしたが、それこそむさぼるように読み始めました。
 

 内容は少年が竜の子供を助ける冒険物語。

 その地図が巻頭についており、自分も冒険している気分になれるのが楽しいようです。

 友人に聞くと有名な本らしく、やはり絵本から本への変わり目にあるものと言っていました。

 本好きの私としては、全く知らなかったのが恥ずかしいのですが、スゴロクのプレゼントには本当に感謝しています。

 私が読む面白さを知ったのは学研の「ひみつシリーズ」でしたが、絵のない「本」なら「野口英世」の伝記が記憶の一番初めです。

 「良書を読むための条件は、悪書を読まぬことである。人生は短く、時間と力には限りがあるから」-ショーペンハウワー-哲学者

 学生たちの本離れは確実に進んでいると実感しますが、解決策は簡単だと思います。どんな本が面白かったか、人に聞けば良いだけのはず。

 そういう私も、最近読書量が減っています。まず、長く鞄に入っていう「レディ・ジョーカー」を読み終えないといけません。

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建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記

決断は真昼間に

 昨晩は雨。それもあり、今朝は随分温かく感じました。

 庭の梅もついに満開を迎えました。

 最も寒い時期に咲き始め、雪に降られ、春を迎える前に散っていく。

 この家に引っ越して2年。

 短い付き合いですが、梅とはなんと慎ましい花かと感じます。

 今週の月曜日、ようやく伊東内科クリニックのサイトをUPしました。

 公開する前、まずはクライアントへ下書きを送ります。すると院長から良ければ使って下さいと、写真が届きました。

 11月。紅葉が最盛期を迎えるほんの手前でしょうか。

 赤、橙、緑が大変美しいイロハモミジ。

 共に最も愛されてきた庭木の一つでしょう。

 変化がダイナミックで、散り際が潔いのが愛される理由でしょうか。
 
 2月に入り、プロ野球もすでにキャンプ中。

 最近、野球を見る機会はめっきり減りましたが、シーズンオフにイチローを見るのを楽しみにしています。

 彼の言葉は、いつだって爽快だからです。

 今シーズン(?)観た番組は、コピーライターの糸井重里氏との対談でした。

 2009年春のWBC(ワールド・ベースボール・クラッシク)の話しもしていたので、再放送だったのかもしれません。その中で、こう言っていました。

 僕は「寝ずに考えたんだけど」は信用しないんです。だって、そうでしょう。夜に書いたラブレターなんて翌朝見れないじゃないですか。大事な決断こそ、いつも以上に寝て、お天道様の下で!ですよ。

 ごもっとも!です。夜に仕事を引き延ばしてしまう者としては、耳の痛いところ。今後、大切な決断は必ず午前中にします。

 彼は以前、俳優としてドラマにも出演しました。その理由はこうです。

 野球でも自分がイメージ出来れば、ほぼその通りのパフォーマンスが出来る。演技もイメージさえ出来れば、何とかなると思っていました。

 彼にとって、演技も、野球も大して違いがないのです。それよりはイメージできるかのほうが重要ということです。更に言えば、イメージ出来たことを実現できると信じれるかどうかが、最も大切なことと言えます。

 糸井重里が「これ程質問にまっすぐに答えようとする人を、見たことがない」と言っていました。彼の根底にあるのは、目的に対し誰よりも純粋で真面目だと思うのです。

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建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記

前川の言葉

 先々週の2月8日、京都市は京都会館のネーミングライツ(命名権 )を売却したと発表しました。

 相手先は市内にある半導体メーカーの「ローム」で、50年52億円という破格の規模。施設として古くなった会館を改修したいという京都市の思惑と、ロームの地域貢献が一致したとありました。

 そんな事もあり、昨日は京都へ。

 京都会館は京都市左京区、平安神宮も近い岡崎にあります。

 日本の近代建築化に大きく貢献した、前川國男の代表作で、完成は1960年。築50年を超えました。

 疎水沿いに建つその姿は、古めかしく映るかもしれません。

 この日は、ブラスバンド大会があったようで、結構賑わっていました。

 前川の代表作としては、上野の東京文化会館などがあります。

 いずれも鉄筋コンクリート造ですが、その重量感を適切なものにするため、前川は腐心していたと思います。

 木造であるかのような、細やかなデザインが細部に行き届いているのです。

 手摺もRC(鉄筋コンクリート造)ならではの造形を、軽やかに楽しく仕上げられています。

 質感の違う素材の組み合わせも巧み。コルビュジエに師事し、丹下健三を育てた彼の言葉が、私は好きです。

 「建築で一番大切なものは永遠性だよ」

 「人間は、はかない存在である。頼れる確固たる存在が必要だ。それに建築は応える必要がある」
  
 「一本の鋲を用いるにも 一握のセメントを用いるにも 国家を 社会を 農村を思わねばならない」

 「自然は美しいね。なぜだと思う。自らに責任を持っているからだよ」

 ホテルフジタ京都は鴨川沿いに建つ名門ホテルで、同じく近代建築の巨匠、吉村順三の設計です。

 先月末、経営難も有り閉館されるとニュースにありました。今年で40年目。近くで見ると、解体の準備か、バリケードがはられていました。

 対比を書きたいのではありませんが、その建築の運命を決めるのは、根底に流れる哲学が影響すると思います。

 責任を果たすため、懸命に生きるからこそ自然、人は美しいのです。

暮れは元気にご挨拶

 今日で2010年のゲツモク日記も終わり。

 長野県の木曽福島まで来ています。

 弟家族、父と母を合わせた親族11人で3泊4日のスキー旅行。子供達は着いた途端大騒ぎです。

 キリッと引き締まった冬山の空気、白銀の世界。大人でも心躍るもの。ある人からこんな話を聞きました。

 どのあたりから、人は人を信用し始めるのか。「今までに関わった人間のうちで、この人が一番深く関わってくれていると感じた時から」だそうです。

 これは簡単と考えるか、大変と思うのか。勿論前者のはず。

 分かってくれない、信じて貰えないという前に、ただ深く関わるだけで良いのですから。

 来年は、アトリエmを設立して15年目を迎えます。クライアントに求められる、信用される建築家で有りたいと心から願います。そして、そうあれるよう精進したいと思います。

 今年も1年、この日記、または現場日記にお付き合い頂き、本当に有難うございました。

 皆さんにとって、来年も素晴らしい1年となりますよう、心からお祈りしています。

 2010年12月30日 守谷昌紀

コラム 第2章

 『住まいの設計』は扶桑社が出版する住宅雑誌。

 今までには、「光庭の家」「サロンのある家」を掲載して貰いました。

 そのweb版が『住まいの設計プラス』

 こちらでは、4月から「伊東内科クリニック」の現場日記をコラムとして取り上げて貰いました。

 クリニックが先頃竣工したので、編集部から引き続きコラムを書かないかと、オファーを貰ったのです。 

 どの計画にするかは、私が決めて良いと言われ、これから始まる「四丁目の家」にしました。今回は、工事に入る一歩手前。見積り調整から始めてみます。

 TOPページにも告知があり、嬉しい限りですが、何より嬉しいのは、引き続き書かないかと言われたこと。はやり継続は力なりでしょうか。

 計画地が東京なので、現場監理の回数は限られますが、コツコツUPして行くのでまたのぞいてください。

 禅宗のお坊さんは、生活の全てが修行だと考えます。ただし、集中して取り組む、というのが条件。そう考えると、文章を書くことも、物創りの修行であると言えますし、実感もしています。

 今日は12月に入って2日目。今年も最終章に入りました。今年も頑張った、と言えるかはこれからに掛かっています。

 終わりよければ全てよしなのです。

細部に

 甥っ子が幼稚園で竹馬をするらしく、父に頼んでいました。

 弟には竹を買ってくるよう言ったそうですが「なかな買ってこないから、店にある材料で作った」と。

 店とは、実家のガラス屋のこと。厳密に言うと竹馬ではない竹馬です。

 

 以前は、若干つめの甘いところが有りました。

 しかし、孫のものを作るようになり、精度が上がった気がします。

 馬の足先には、馬蹄が付いていました。

 God is in the details 「神は細部に宿る」

 これは、ミース・ファンデルローエが好んで使っていた言葉。

 ミースは、ル・コルビュジエ、フランク・ロイド・ライトと共に、近代建築の三代巨匠と呼ばれる建築家。彼の言葉は想像力を掻き立てます。

 Less is more 「少なきことは豊かなこと」

 言葉自体が「少なき」で、様々な解釈が可能。それこそが、豊かな事とも言えるのです。

 結論に大して意味はありません。しかし、仮説を立て、考えるのは過程であり、意味のあることだと思います。

 「神」を良心と仮定します。良き心、正しい心は、細部、最も複雑で難解な部分に現れてくる。

 これが私の解釈です。