尾道をでて、ようやくしまなみ海道をめぐります。
向島、因島と渡りますが、橋がそれぞれを地続きにしてくれました。
一昨年、「村上海賊の娘」を読みました。
その舞台を見て回りたいと思ったのもきっかけにあります。
村上海賊の資料館、因島水軍城に立ち寄りました。
その潮流の早さに驚き、島並の美しさに息をのみます。
この豊かで、温暖な島々を牛耳っていたのが村上海賊でした。
しまなみ海道の丁度真ん中あたり、大三島(おおみしま)に入りました。
小さな集落の最奥。
後輩が暮らす、築50年の民家は小高い丘の上にありました。
この島で奥さんも迎えたと聞いたので、そのお祝いもしたかったのです。
ただ、お祝いの品を家内が全て家に忘れてくるという大失態でしたが。
チワワを飼っていることも聞いていました。
イヌと暮らしてみたいという娘の希望も叶えることができたのです。
両親の郷里が岡山と香川で、小さい頃、夏休みは田舎で過ごしました。
その経験は、私にとって大きな価値があったと思います。
決して豊かではないけれど、ゆったりした時間の中で、人にとって何が大切なのかを、私なりに体感していました。
夕食は、瀬戸内海を望むカフェを予約して貰いました。
新婚夫婦の写真を1枚。
しかし、ちょっとふざけたこの写真が、彼の本質をよく表しています。
アコウ、アジ、イカ、タコ。
魚にはうるさい娘も大満足です。
大人に一番人気だったのは、ハモシャブ。
軽く皮を浸し、さっとダシをくぐらせるのがよいそう。
美味しく、楽しい時間はあっという間に過ぎて行きます。
遅くまで、久し振りの会話を楽しんだのです。
翌朝、島豆腐などと一緒に、ミカンジュースが食卓に並びました。
奥さんが生産したもので、皮は一緒に絞らないタイプで、甘く、とても柔らかい味わいでした。
様々な職業を経験した移住組の穏やかな奥さん。美味しいミカンを沢山生産されることを楽しみにしています。
ようやく仲良くなった頃、帰路につかなければならないのが旅の理です。
最後の昼食は、「ファミリーレストランよし川」へ。
大阪のファミリーレストランとは、随分趣きが異なります。
海鮮丼を頼み、もう思い残すことはありません。
大三島と言えば、伊東豊雄ミュージアムもあります。
スティールハットの隣に建つのは、氏の自邸を再現したシルバーハット。
大三島の美しさに惚れこんでこの地を選んだそうですが、今回はほぼ素通り。
その訳は、私が多くの仕事を持ちこんでいたからです。
昨年の夏季休暇、仕事が追いつかずで全ての旅行をキャンセルしました。
しかし今年は「滞在中に仕事をしていても、彼なら許容してくれるだろう」という気持ちもありました。
食事以外の時間は、奥さんの書斎を借りて仕事をさせて貰いました。
2人と別れてから、子供たちにはちょっと海に浸かってもらい、海を望む図書館で仕事。
旅先図書館も、我が家では定番です。
夕刻になり、大三島を後にしました。
愛媛の東予港を夜に発ち、月曜日の早朝、大阪南港に帰ってきました。
船旅の終わりにはいつも思います。
少し海は汚れているけれど、ここが私の戦う場所だと。
2学年下の彼は、私が結婚したと知り、お祝いに湯飲み茶わんを持ってきてくれました。
もう10年以上前のことです。
私は、手土産はできるだけ食べ物など、無くなるものにしています。
人の好みは様々だし、押しつけがましいのは嫌だなと思うからです。
しかし、この湯飲み茶わんは絶妙でした。
適度な厚み、風合い、品格を備え、そしてそこまで主張が強くない。
ひとことで言えば「センスがよい」となるのですが、その審美眼を常に磨いていると感じるのです。
彼は、日本各地、また海外でも、自分の職能で生計を立ててきました。
この大三島で暮らすにあたって、日本各地をめぐった上で、人の温かいこの地を選んだそうです。
ひなびた温泉地なども回っていましたが、そんな観光資源に恵まれた地は、総じて斜陽の雰囲気をもっていたそうです。
聞けば納得できますが、本質を見抜くのは簡単ではありません。この話は妻越しに聞いたのですが、彼らしい選択だと感じました。
人間は自由なものとして生まれたが、いたるところで鎖につながれている。
フランスの哲学者ジャン・ジャック・ルソーの言葉ですが、人は自由を求める一方で、アンカーのようなものも求めています。
そのアンカーとは、家族だったり、仕事だったり、人それぞれです。
逆説的に言えば、だからこそ自由を求めるのだと思います。
そういえば、母方のルーツを探っていくと、愛媛県にたどり着きます。私の中のDNAには、この海が含まれているかもしれません。
祖父母が皆亡くなった今、勝手ながらこの地を第三の故郷とすることにしました。
私は自由をこよなく愛すると書きましたが、彼ほど自由の風を感じさせる人はいません。
矢付き、槍折れた時は、自由の風と、潮風に吹かれに行きたいと思います。
何より、この地なら娘が喜んでついてきてくれるのです。
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■『関西の建築家とつくる家 Vol.2』2月1日発売に「阿倍野の長家」掲載
■『homify』6月29日に「回遊できる家」掲載
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■『houzz』5月28日の特集記事に「あちこちでお茶できる家」掲載