マイケル・ジャクソン『This is it』 

 昨年の6月。に急死したマイケル・ジャクソン。ロンドンでの公演を1ヵ月後に控えていました。直前リハーサルの映像を集めたドキュメンタリー映画が『This is it』です。

 何とか劇場で観たいと思っていました。アンコール上映も終了間際。滑り込みで間に合いました。

 スリラーのミュージックビデオリリースが1983年。特別なファンという訳ではなかったのですが、中学生だった私も繰り返し見ました。時代は、海外の映像が頻繁に日本で紹介され始めた頃です。

 通学の電車の中。初めて買ったウォークマンで色々な洋楽を聴きました。その中にはマイケルの曲も。洋楽体験の入口に、彼の曲があったのです。

 『This is it』ツアーの監督が、この映画の監督も務めています。

 リハーサル中、序々に熱を帯びてきたマイケルのダンスパフォーマスに、競演者達が盛り上がる場面があります。それに応えるように、マイケルも更に熱の入ったパフォーマンス繰り広げます。舞台の下で、競演者達は更に熱狂します。

 監督は「まるでrock’n rollの教会だ!」と。皆に応えるマイケルは、ほとんど息が乱れていませんでした。観客の前に、世界の一流が集まったスタッフを、完全に魅了していたのです。

 高音、雄たけび、うなるような低音、天使のようなささやき。ありとあらゆるダンスのバリエーション。よろめいたり、バランスを崩す場面など一瞬もありません。細くしなやかな体は、毛先までがコントロールされているかのよう。惰性のないその動きは小気味よく、観ているだけで快感を覚えるのです。

 死因には、麻酔や睡眠導入剤などがあがっています。映像には亡くなる数日前のものもありますが、そんな事は微塵も感じさせません。それどころか、50歳とは思えない軽快でシャープな動きでした。

 晩年は様々なスキャンダルにまみれましたが、今あるのは、彼のステージは永遠に見れないという後悔だけです。同じ時代に生き、チャンスがあったにも係わらず。リハーサルであのステージ。やはり見るなら超一流だと思ったのです。

 映画の終盤、スタッフと団結する場面で、マイケルは皆に語りかけます。

 「観客は日常を忘れる体験を求めている。未知の領域へ連れていこう」 

  King of Pop

 その称号に、亡くなる前とは違う重みを感じるのです。

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