湖底でキュウリを刻むように

 夏休みを終えてから、何組かの方が建築相談に来所しました。

 詳細は控えますが、ある夫妻は関東から車で。片道8時間を、交代で運転しながらとの事でした。今後の事は別にしても、感動すら覚えます。

 先週の土曜日、その夫妻は3時間程の打合せの後、夕方に大阪を発ちました。見送った後、車が止まっていた下に、茶色の液体が少し落ちていました。スタッフに「流しておいて」と頼み、次の打合せの準備を始めたのです。

 全ての仕事が終わり、帰宅しようと事務所を出ると、先程流したところに、少し雨が浮いていたのです。もしかすると車のオイルかなと思ったのですが、その時は、次回会った時に伝えないと、位に思っていました。

 翌日メールがあり、あれはエンジンオイルで、ディーラーが点検の際に蓋を閉め忘れていたとの事。それで噴出していたのです。

 帰路の高速道路でエンジンから異音が聞こえだし、サービスエリアに入ってその事実が分かりました。自宅まであと100kmで、本当に事故等にならずに良かったと思います。

 自宅に戻ったのは日曜日の朝だったそうです。

 先週も事務所に見えました。今度は新幹線で来て、帰りは飛行機にしましたと笑っていました。

 気を遣って貰い、お土産を2つ頂いたのです。ひとつはハチミツ。

 加えて、原宿焼きショコラ。
 
 「こんなトラブルも、家を建て終ったあと、あんな事もあったなあ、という思い出になればいいなあ、と思っているんです」と。

 そうです、そのくらい前向きな感じで考えられると、とっても良い家になりますよ、と話していたのです。

 家に大切なのはストーリーですから。

 この出来事から思う事があったので、少し書いてみたいと思います。

 私は釣りが好きで、若い頃はかなりのめり込んでいました。今江克隆というプロアングラーが居るのですが、彼の本にこんな事が書いてあったと思います。

 重いルアー(疑似餌)で底の魚を狙う時。湖底をトントンと叩きながら、丁度キュウリを刻むようなイメージで動かしてくる。すると、僅かにフッと軽くなったり、反対に重くなったりする瞬間がある。そんな時、魚はルアーに対して何らかのリアクションを起こしている。

 大切なのは一定のリズムで。同じリズムをキープしていれば、その違和感を感じやすい。

 この記述で、釣り方が想像できる人は、かなりの釣りマニアですが、伝えたいのは釣りの話ではありません。

 いつも掃除をしているから、駐車場の床の変化に気付けたと思います。また、折角その違和感を感じていたなら、先に何らかの連絡を入れれば、もしかすると、エンジンオイルが無くなっていくという事故は防げたかもしれません。ジョブズの言う「直観を信じる勇気を持て」です。

 家を建てるという事は、非日常の行為と言えます。しかし、私達にとっては日常の積み重ね。

 毎日やるべきこと、例えば、掃除を、高い意識で、同じようにする事は、非常に重要な事だと、改めて感じたのです。出なければ、クライアントの心の機微を感じる事などできません。

 若い頃は、大きな夢を持ちます。今、それが目の前にある日常と直結している、と解ります。

 今日はカラッと気持ち良い朝。しっかりトイレ掃除します。

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■■■『大改造!!劇的ビフォーアフター』■■■ 7月8日(日)「匠」として出演しました

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