脳の鍛え方

 先週末、webで見て釘付けになった記事がありました。バンクーバー五輪の開幕に合せて、再掲載されたようで、北島康介選手に関するものでした。

 彼に脳のしくみを教え、アドバイスをした脳科学者、林成之氏の記事で、その著書もすぐ買いました。「勝負脳の鍛え方」は2006年初版となっていますが、北京五輪の試合後、北島選手は「勝負脳を鍛えたおかげ」と発言しているのです。

 林氏の記事を要約するとこうでした。テーマは-「集中力」が増す3つの仕かけ-。五輪選考会を見に来て欲しいと言われた場面から始まります。 

 北島選手は五輪選考会で、ラスト10mまで世界記録を体半分上回っていた。結果は0.43秒及ばず。脳は「ゴール間近だ」と思った瞬間に機能が低下し、運動機能も低下する。「自分へのごほうび」をモチベーションに働く部位があり、ここが活発に働かないと脳は活性化しない。

 重要なのは、ごほうびが得られそうだという「期待」によって起こる点で、結果を手にしたと思うと、むしろ機能は低下してしまう。

 それを伝えると、平井コーチと北島選手は、壁にタッチした後、振り向いて電光掲示板を見た瞬間をゴールだと考える訓練を重ねた。このアドバイスから1カ月後、見事世界記録を塗り替える。

 一流のスポーツ選手は「まだまだ努力が足りない」「たくさんの課題がある」という。一流になればなるほど、謙虚というより自然に口にする。彼らは、コツコツ努力するとは決して言わない。

 根源的な脳の3つの本能に「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」がある。「生きたい」から派生する、第二の本能と言うべきものに「自分を守りたい」がある。コツコツ努力するという言葉の背後には、「失敗しないよう慎重に事を運ぼう」という意識が隠れている。「失敗するかもしれない」という否定語は、この第二の本能を過剰反応させ、脳の働きにブレーキをかける。それゆえ、コツコツやるという人は、自分が現在持っている以上の力を発揮することが難しい。

 反対に、長距離走の場合でも、短距離走のつもりで全力疾走を繰り返すことで、あるところから人間の能力はぐーっと伸びる。ふと気付くと、到底超えられそうもなかった壁を突破しているものなのだ。

 アドバイスで難しかったのは、ブレンダン・ハンセン選手について。ハンセンは当時の世界記録保持者で、最大のライバル。人間は結果を求めると、持てる能力を十分に発揮出来ない。スポーツで言えば、「敵に勝とう」と思った瞬間、能力にブレーキがかかる。

 根源的な本能に逆らうと、脳のパフォーマンスは落ちる。「敵に勝つ」は、「仲間になりたい」という本能に真っ向から逆らう考え方。地球の歴史の中で絶滅した生物の共通点は、周囲にいる仲間とうまくやっていけなかったことである。

 「ハンセンをライバルだと思うな。自分を高めるためのツールだと思へ。そして、最後の10mをKゾーン(北島ゾーン)と名づけ、水と仲間になり、ぶっちぎりの、感動的な泳ぎを見せる舞台だと思いなさい」ハンセンとも水とも「仲間になれ」とアドバイスした。結果は北島は金メダル、ハンセンは4位に沈んだ。

 結果を求めるあまり能力を発揮できない愚を避けるには、目標達成の「仕方」にこだわるのがいい。勝負でなく、達成の仕方に勝負を懸ける。そして、損得抜きの全力投球をする。そんな時、人間は信じられない集中力を発揮する。損得勘定とは、結果を求める気持ちにほかならないからである。

●point 1:ゴールを決めない
●point 2:コツコツやらない
●point 3:結果を求めない

 最近ゴシップで騒がせたタイガー・ウッズ。このパットを決められれば自分が負けるという場面でも、ボールがカップに近づいた瞬間「入れ!」と心の中で叫ぶそうです。

 北島選手も、否定的な言葉を使わない、自己ベストを3割上回ることだけを考えたとありました。

 ウッズはその考え方を経験で得たのか、アドバイスでそうなったのか。一流選手は、考え方が一流なのです。

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