受継がれていくもの、無くなっていくもの‐1951‐

少し前の新聞に、公園の遊具が減っているという記事がありました。

遊具と言えば子どもが遊ぶものですが、ブランコはかなりの運動速度になります。

昔は、球体の鉄カゴが、軸を中心にしてグルグルと回せるものもありました。

何と言う名称かは分かりませんが、本気で回せばかなりのスピードになり危険だったと思います。

こちらは最近見たことがありません。

滑り台も樹脂性が増えましたが、一様に刺激は低下傾向です。安全を求めるなら仕方ないのですが。

「警察小説の傑作」という刺激あるコピーを見て手に取ったのが「孤狼の血」。

その文字に偽りなし、でした。

僭越ながら、本を読んだあとは点数をつけていますが、98点をつけました。

著者、柚月裕子は1968年生まれで同じような年代です。女性が書く警察小説も珍しいなと思い読み始めたのですが、あっという間でした。

警察小説とありますが、ヤクザ小説でもあります。

広島を舞台に繰り広げられる暴力団抗争と、警察との関係を描いているのですが、「仁義なき戦い」を思わせる雰囲気があります。

広島弁でのセリフまわしが、とても良いのです。

ベテラン刑事と新人のコンビが、そこに割って入っていくのですが、その人間臭さと、きな臭さが読む者を惹きつけます。

巻末の解説を読むと 、深作欣二監督の映画「仁義なき戦い」がなければ、この小説が生まれることはなかったと、著者が語っていると分かりました。

一気に柚月裕子ファンになったのです。

続けて読んだのが、「蟻の菜園 ‐アントガーデン‐」。

結婚詐欺容疑で捕まった介護士の円藤冬香。

40代前半の美しい彼女は、複数の男性と付き合っていることが分かります。

そして、彼らが次々と不審死をとげていくのです。

彼女には完全なアリバイがありますが、この事件を取材していたフリーライターの今林由美が、北陸との小さな関わりを見つけました。

僅かな情報から、彼女の北陸での過去をたどっていくと……というストーリーです。

小説としては85点を付けましたが、お勧めはしません。特に娘を持つ男親には。

彼女たちが体験していた幼少期が、目を背けたくなるほどの凄まじさだったのです。

北陸の自殺の名所がでてきたり、そこでの過去に事件の背景が隠れている展開が、松本清張の「ゼロの焦点」に似ているなと感じていました。

こちらも巻末の解説を読むと、松本清張の「砂の器」へのオマージュが色濃いとありました。


確かに、登場人物の方言から北陸に行きつく「砂の器」のほうが色濃いかもしれません。

年代的には、松本清張の2作品のすぐ後になりますが、水上勉の「飢餓海峡」も同じような色合いを持った小説です。

戦後の苦しい時代に、寒村での暗い過去が次々と明らかになっていくという展開ですが、いずれ劣らぬ傑作です。

物は危険を理由に受け継がれませんが、優れた小説のモチーフは受け継がれていくんだなと考えていました。

日本では表現の自由が約束されています。内容としては、より過激になって行くでしょう。

危険でも良い、とまでは言いませんが、多少スリルがなければ子供が喜んで遊ぶことはありません。

以前読んだ本より、刺激の少ない本を読みたい人が居ないのと同じです。

責任と成長。

このあたりに、受け継がれていくもの、無くなっていく物の分水嶺があるのだと思います。

■■5月13日『住まいの設計6月号』「おいでよ House」掲載

■6月16日 『ESSE-online』「おいでよ House」掲載

■ 『ESSE-online』にコラム連載

10月11日「テレワーク時代の間取り」
9月18日「冷蔵庫の位置」
6月18日「シンボルツリー」
6月5日「擁壁のある土地」
4月11日「リビング学習」
2月27日「照明計画」
2月14日「屋根裏部屋」
2月1日「アウトドアリビング」
1月4日「土間収納」
12月6日「キッチン・パントリー」

■■1月6日『Best of Houzz 2022』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞

■6月11日『homify』の特集記事に「R Grey」掲載
■1月8日『homify』の特集記事に「光庭の家」掲載
■1月7日『homify』の特集記事に「白馬の山小屋」掲載

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