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日本一を‐1706‐

 私の人生は、建築、野外、旅の3本立てです。

 梅雨の晴れ間に、再び湖上の人となっていました。

 朝靄のたつ池原ダム。

 ため息が出るほど美しい景色を見せてくれます。

 山上湖ゆえ、水が澄んでいる時は、6、7mの湖底がはっきり見えます。

 この時期は、浅場まで産卵に上がってくる大型のメスを狙って釣れる可能性があり、全国からデカバスハンターが「聖地」と言われるこの地に集まってくるのです。

 私が最も好きな場所はここ。

 名物、二連滝です。

 動画も撮ってみました。

 今回は訳あって、本気で大物を狙っていたのですが、残念ながら40cmのやせ形君どまりでした。

 お土産は、初めて見た奈良産のイノシシくらい。

 ガサガサッと生物らしき音聞こえ、慌ててカメラをだすとそそくさと森へ消えて行きました。

 一瞬振り返ったのがこの写真。

 スロープに戻り、店主に聞いて初めてイノシシだと分かったのですが、この時は得体のしれない生物にドキドキしていたのです。

 私が池原に通うようになったのは、1996年5月に64cm、5.1kgの大物を偶然釣ってしまってからです。

 道具こそ持っていましたが、ルアーフィッシングはキャンプのついでといった感じでした。

 この時も、東京から帰ってきていた友人カップルと、当時の彼女とで、湖畔でキャンプをしていました。

 この日は大雨でしたが「こんな日は釣りに行くと大物が釣れる」という予感もあり、友人と2人でボートを降ろしました。

 リールとロッドを合せて5千円くらのタックルと、ワゴンセールで売っていたルアーで、いきなりこの魚が釣れたのです。

 近くに居た人達が「これは浜松さんのところに持って行ったほうがいい!」というので、翌日訪ねて行った時の写真が以下のものです。

 浜松さんは、作家・開高健が『オーパ、オーパ!!』の番外編で池原ダムを訪れた際、ガイドをした方です。
 
 確か「アブアンバサダーでワームを操る達人」として登場します。

 その浜松さんが、『Basser』という老舗雑誌で、紹介してくれたのです。

 上記は「釣り場速報」ですが、日本記録かもという扱いで、軒並みルアーフィッシングの雑誌には取り上げて貰いました。

 同年の9月だったかに66cm、続いて68cmが釣れ、あっさりと抜かれてしまったのですが、私が人生で初めて日本一を意識した瞬間でもありました。

 この2ヵ月後、私はアトリエmを設立することになります。

 1件目の設計事務所をクビになってすぐ、拾って貰った事務所の所長とささいなことで言い争いになりました。

 「それなら辞めます!」と言ったら、「じゃあそうしたら」と言われ引っ込みが付かず独立したというのが実情です。

 今まで誰にも言ったことがないのですが「僕は日本一だぞ」といった、勘違いの思い上がりがあったと思います。何とも青い、25歳の春のことでした。

 独立して3年、経験不足を埋めるため、もう我武者羅に働きましたが、それだけで成功できる程現実は甘くなく、鬱病と診断されます。

 3年弱、本当にこの考え方の病気に苦しみましたが、1年間休業し、海外放浪の旅もあり、無事仕事に復帰できたのです。

 2002年の3月に仕事を再開したのですが、その秋、池原の神様はまた私にロクマルを釣らせてくれました。

 60cm以上のサイズを「ロクマル」と呼ぶのですが、この時期なら、上手い人なら年に数本釣る人も居ます。

 ですので、私が特別上手いと言うことはないのですが、どこかで、記録級の大物が釣れるかも、という気持ちがあることも否めません。

 前回の釣行の際、ボートから見て丸太ん棒のような魚を見つけました。

 この時期なので狙って釣るのですが、目算63cm、4.5kgといったところです。

 自分でも釣れれば18年振りということは分かっていたので、掛けたあとすぐ、慎重にやり取りしようと、ドラグをかなり緩めに設定しました。

 ですが、ユルユルにし過ぎて、まったくスプールが回らなくなり、さらに焦りでどちらに回せばよいかさえ分からなくなってしまい……

 冗談のような話しですが、もうラインを直接手で引っ張ってでも取り込もうとしました。

 しかし、水面を割ってのエラ洗い一閃、ルアーは弾き飛ばされ(首を左右に振るスズキ科の魚、独特の動き)、その巨体は湖底へと消えていったのです。

 年に数本のロクマルを釣り上げる達人に、その秘訣は何ですかと聞いてみました。

 「距離感と旬」だと。

 どの世界でも、トップレベルに居る人の言葉は含蓄があります。もしくは、その結果が言葉に含蓄を与えるのか……

 何故だか分かりませんが、私の人生の節目節目で、ロクマルが現れます。

 今年がその時かもと思い、本気で狙いましたが、今年の「旬」はほぼ終わりを迎えました。

 開高健はこう書いていたと思います。

 魚は湖に返してあげなさい。そうすればあなたの心を一生泳ぎ続けてくれる。

 食べる訳でなく、釣っても誰がか褒めてくれる訳でもないのに、往復5時間もかけて訪れる理由を、上手く説明することができません。

 ただ、初めて日本一を意識した日から、私の人生は大きく動き出しました。

 独立して、またバス釣りを始めて四半世紀。

 未だ日本一には届いていませんが、この命が尽きるまで、本気で目指し続けたいと思っているのです。

■■■4月8日『Sumikata』東急リバブル発行
巻頭インタビューが掲載されました

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■2月3日『Houzz』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載■12月3日 『Houzzユーザーが選んだ人気写真:キッチン編』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が5位に選出
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■7月21日BS朝日『大改造!!劇的ビフォーアフター』「住之江の元長屋」再放送
「トレジャーキッズたかどの保育園」
地域情報サイトに掲載

■2017年11月27日ギャラクシーブックスから出版『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀がamazon <民家・住宅論>で1位になりました

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