帝王を聞き入れなかった父

 さらっと読めて、とても面白かったので一冊紹介します。

 『天才は親が作る』 吉井妙子 著 (文藝春秋)

 アスリート自身ではなく、その家族のインタビューを中心に構成されているノンフィクションです。アスリートは、松坂大輔、イチロー、清水宏保、里谷多英、丸山茂樹、杉山愛、加藤陽一、武双山、井口資仁、川口能活の10人。

 人並みに子供の将来には夢を見ますが”なんとかトップアスリートに!”と思っている訳ではありません。

 しかし、強靭な体と精神力を培った過程には興味があります。家族が語る話は大変興味深いものでした。

 ほとんどの家はごく普通の家庭です。その辺りに焦点をあてた本とも言えますが、特別裕福で幼い頃から英才教育されていた訳では無いのです。

 その中で、世界のトップレベルまでたどり着いた共通点は、親が子供を良く見ている事に尽きると感じました。

 イチローの父は、小学3年から6年までは毎日一緒に練習し、高校卒業まで欠かさず練習を見に行きます。中学生の時、イチローは監督からバッティングフォームを矯正する指導を受けます。

 二人でフォームを創り上げてきた父は”バッティングフォームだけは変えないように指導していただけませんか”と監督に願い出ます。

 プロに行ってからも、同じ場面はやってきますが、今度は自らそれを拒否します。その結果2軍に落とされたりもしましたが、聞き入れていれば現在は無かったかもしれません。

 アマチュア時代から輝かしい実績を残していた、プロゴルファー丸山茂樹。中学生の頃”帝王”ジャック・ニクラウスに直接指導を受ける機会を持ちます。

 そこで非力さを補う為、父が考えたストロンググリップを直すよう言われるのです。ところが”天才の言葉はそのまま受け取ってはいけない”という父の信念のもと、それを拒否するのです。

 二人の父はその道のプロではありません。成功者の言う事を聞かないほうが良いとは思いませんが”一番見ているのは自分だ”という信念が行動の源なのだと思います。それは愛情の深さと言い換えてもよいかもしれません。

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