今日から8月。まだまだ暑い日が続きます。

 雪山を想う事は、一服の清涼剤になりえるでしょうか。

 登山を趣味にしている友人がいます。

 ホームグラウンドは八ヶ岳。

 一歩一歩、頂きに向かう喜び。その過程で目にする自然の美しさ。飲みながら聞いていると、自分もやってみたい、と思うことがしばしばあります。

 もし自分が始めたとしたら。少しでも高い山へ、果ては雪山へ……

 いらぬ危惧かもしれませんが、怖くてトライしたことはありません。

 過去に読んだ山岳ものの傑作といえば、新田次郎の「孤高の人」、夢枕獏の「神々の山嶺」。いずれも一気に読み切ってしまいましたが、その魅力と、その恐ろしさが十二分に伝わってきました。

 久し振りに読んだ山岳ものは、沢木耕太郎の「凍(とう)」。

 世界的なクライマー山野井康史と妻、妙子描いたノンフクションです。

 小規模のチームで登るスタイルをアルパイン・スタイルと言います。反対に、大規模なチームを組織し、キャンプを徐々に上に移して行きながら、少数名で山頂へアタックする登り方を極地法と言います。

 山野井康史はアルパイン・スタイルで、酸素ボンベなし、時にはたった一人で、比較的登りやすいルートではない、バリエーションルートで、その頂きを落とすことに拘ったクライマーなのです。

 ここでは、妻と共にヒマラヤの難峰ギャチュンカンにアルパイン・スタイルで挑んだ過程が、沢木の繊細なタッチで描かれています。

 山野井は何とか登頂を果たすもの、凍傷によって右足の指5本、左右の手の小指と薬指、右手の中指を失います。妻、妙子は、過去の経験も合わせて、両手の指全てと、足の指8本を失うのです。

 山野井康史と妙子は、多くの指を失った今でも、新たな挑戦を続けているのです。そこまで惹きつける山とは。

 改めて思います。限られた時間の中で、取材者との関係を築き上げる人間性。また、その人生の一場面を、鮮やかに切り取り、再現するその力量。

 「敗れざるもの」を読んではや20数年。やっぱり沢木は面白いのです。