カテゴリー別アーカイブ: 02 ことば・本

名前と漢字

 日本語の漢字は一般的には、5万字くらいと言われているそうですが、そのうち、名前に使える漢字は1945文字の常用漢字と、2004年に新しく493文字増えた人名用漢字983文字を合わせて2928文字あります。
 私の名前は”昌紀”と書きますが、正直に言うと、すごく気に入っているというわけではありませんでした。”昌”は女性にもよく使われる文字という印象があったので、すこし女性っぽいと感じていたからです。
 名前に関する本を読んでいた時に、そういえばと思って調べてみると、
昌:勢いが盛ん。栄える。美しい。太陽が光り輝くさまを表す。
快活でエネルギッシュ。周囲を明るく照らすような子に。
 
紀:はじめ。道筋。決まり。要。年代。書き記す。柔らかい印象に。

とありました。「ん?だいぶイメージと違うな。そういえば、太陽が2つもあるんだから、明るくて、いいに決まってるじゃないか。はじめに照らす、か、そうありたいナ。」などと一人納得していました。
 私の名前は、父方の祖父母がいくつか候補を考え、そこから両親が選んだそうです。もう連れ添って34年になる、自分の名前という一生涯のパートナーの事を何も知らなかったことに、なにやら恥ずかしいような、情けないような・・・・・・。
 これから、署名をする時の気分はきっと、晴れ晴れとしたものになるだろうと思いますし、少し自分の目指す像の輪郭が見えたような気がします。

先週末の新聞に『一流の顔』という本の著者の岡野宏さんという方のお話が載っていました。
  元NHKの美粧師の岡野さんは、NHKのアート美粧部で40年間
ざっと10万人の顔をこしらえてきた。・・・中略・・・女優松たか子のお父さん松本幸四郎氏から手紙が届いた。「とにかく、つくり込まないでくれ・・・」娘を思う親心。幸四郎氏の助言を心に留めて、初々しさとさわやかさを生かそうと決めた。このとき、岡野さんは「必要以上に手を加えないことも大切である」と悟ったという。
 男の化粧に対する関心はここ数年、高まっているが、こんな意識とは裏腹な事にも時々出くわす。「先日、プロ野球の球団から金銭授受のあった今年プロ野球入りする選手が謝罪する
映像がテレビに出ていました。深く頭を下げているのに、なぜか誠意が伝わってこない。よく観察していると、あのまゆ毛がいけないと直感したんです。手入れされたまゆがかえって軽いイメ
ージをつくり、彼の謝罪する気持ちを正確に伝えていなかった」「まゆは知性、目は心、鼻筋は気質を表す」”一流の顔”と長年向き合っていた岡野さんの持論だ。

 私も松たか子さんは他の女優さんとは少し違う印象を受けていましが、自分、もしくはその周りの人々の明確な意識を持ってプロデュースしていることで納得できました。
 また、その選手の謝罪会見を見たときに、イメージが軽いかどうかは別にして、何か心に引っかかるものはありました。
 人によって感じ方はそれぞれですが、奴隷解放宣言で有名な第16代アメリカ大統領リンカーンは「男は40歳になったら、自分の顔に責任を持て」と言ったそうです。
 久しぶりに鏡に映る「顔」をマジマジと見てみました。

省みて省く

 今年の夏の話題は、オリンピック一色でしたが、新種目の女子レスリングは、金メダル有望ということもあり、かなり注目を浴びていました。
 中でも、父親が元プロレスラーの浜口京子選手は世界選手権の実績もあり、特に期待を集めていました。私はなにを隠そう、30年来のプロレス(格闘技)ファンで、京子選手とともに、TVに出てくる父親、アニマル浜口さんを見つけると、に楽しい気分になっていました。
 彼は、プロレスという一風変わったジャンルの中でも異彩を放っていました。プロレスラーとしての話は別の機会に譲るとして、昔から哲人の雰囲気があり、最近もこんな言葉を残されていました。
 「欲望ばかりが膨らむと、元に戻らないといけない。反省しなきゃ。自分を省みて(かえりみて)省いて(はぶいて)いく。人間というものは思いあがるのが本性なんですね。だから、『謙虚』という言葉は、ものすごくいい言葉だと思いますよ。
 まだまだ至らない、道至らないから学んで努力する、その人は伸びる。貪欲でなく省みて・・・。」

 メジャーリーグも大好きですが、マイナーな世界の中でも懸命に生きている人が私は大好きです。そこには、少数派の悲哀と逞しさ、そして底抜けの明るさを感じるのです

食を書く作家

 先月は私の好きだった作家が2人お亡くなりになりました。海洋小説の第一人者、白石一郎さんと、もうひとかたが水上勉さんです。

 「飢餓海峡」、「雁の寺」などがとくに有名ですが、私は「土を喰う日々-わが精進十二カ月」が一番心に残っています。

 軽井沢で暮らす水上氏の四季の食卓を綴った本で、その日々の暮らしぶりには、幼いころを過ごした禅寺で学んだことが生かされています。自然にあわせ、野菜と相談しながら料理をする・・。食と生について深く感銘を受けた随筆です。

 幼い頃の、師の教えで、寺の畑に何もないような、寒い冬の来客に、心を砕いて「ご馳走」を用意するくだり。

 「ご馳走とは、旬の素材を探し、馳せ走ってもてなすことだ」

 とういう師のことばがあったと思います。

 精進料理の「精進」とは、精進するための料理ではなく、精進して作る料理だという考え。

 文面のいたるところから、謙虚で慈しみ深さが伝わってきました。

イチロー語録

 イチロー選手の活躍は今年に限ったことではありませんが、アメリカの国技〈ベースボール〉の158年の歴史の中で、年間最多安打記録を更新し、頂点に立った今年のことばには凄みを感じます。

 「モチベーションが落ちたことは無い」
 「目標を設定して到達してしまうと努力しなくなる。満足は求めることのなかにある」
 「第三者の評価を意識した生き方はしたく無い。自分が納得した生き方をしたい」

 そして子供たちには夢を与えてくれます。

 「体がでかいことにそんなに意味はない。僕は見てのとおり、大リーグに入ってしまえば一番ちいちゃい部類。日本では、中間クラスでしたけども、大きな体ではない。そんな体でも、大リーグでこういう記録を作ることができた。これだけは、日本の子供だけではなく、アメリカの子供にも言いたい。
『自分自身の可能性をつぶさないでほしい』――と。

 あまりにも、大きさに対するあこがれや、強さに対するあこがれが大きすぎて、自分の可能性をつぶしてしまっている人がたくさんいる。そうではなくて、自分自身の持っている能力を生かすこと、それが可能性を広げることにもつながる」

 このことばは、私達大人にも大きな希望を与えてくれます。

スポーツ選手のことば

 アメリカのメジャーリーグで、シアトルマリナーズのイチロー選手が84年ぶりに、年間最多安打記録を更新しました。
 一流のスポーツ選手のことばには、その無駄のそぎ落とされた体のように、シャープで、なお心に響くものがあります。それは成功者の説得力と、常に勝負の世界で生きる人間の、溢れ出てくる感情を併せもっているからでしょうか。
 26歳でアメリカのメジャーリーグに挑戦する初渡米前の会見での野茂英雄
 「希望はあるが、不安は無い」
 イタリアでサッカーのセリエAで活躍する中田英寿
 「失敗も成功も全ては未来の糧となる」
 元サッカーの日本代表で<Jリーグ>立ち上げの最大の功労者、川淵三郎は“抵抗勢力”を前にして
「時期尚早と言う者は100年たっても時期尚早と言う。前例がないと言う者は200年たっても前例がないと言う」

海洋小説

 先週、作家の白石一郎さんの訃報を新聞で見ました。海洋歴史小説の第一人者として高い評価を受けておられて、私も大好きな作家でした。
 1987年の直木賞受賞作品の「海狼伝」は、戦国時代に対馬で育った青年が海賊船に乗り込んで、海の男として成長する長編小説ですが、潮の流れや、風を感じることの出来る秀逸の作品でした。他の作品にも「戦鬼たちの海 織田水軍の将・九鬼嘉隆」など、素晴らしい作品がたくさんあります。
 小説はどんな時間、場所でも楽しめる、自分次第のエンターテイメントだと思います。ワクワクできる作品にめぐり合った時などは、なんとも言えない幸せな気分になりますし、その作品を書いている作家は、無条件に尊敬してしまいます。そして何より安い!
 次の作品を心待ちにしている数少ない作家が亡くなったのは大変残念ですが、多くの時間を楽しませてくれたこと、ワクワクさせてくれたことに心より感謝して、ご冥福をお祈りいたします。
 ちなみに現在読んでいる小説は、ジェフリー・アーチャー「ケインとアベル」です。