タグ別アーカイブ: 憧れの家

「THE LONGING HOUSE 」‐9‐ヘリンボーンの誘惑

 現場は日々変化していきます。

 こちらの現場では、常時3人の大工が働いてくれているので最も変化が早い。

 と言いたいところですが、実はその反対で……

 その理由は床材です。

 「ヘリンボーン」はニシンの骨と言う意味から来た、フローリングの張り方。

 通常のフローリグは垂直水平が基本ですが、あばら骨ですから基本が45度。

 なんだその程度という事なかれ。

 通常なら2日で終わる床の仕上げ工事が、熟練の棟梁をもってしてもこの日で10日目だそうです。

 かつ、まだ終わっていません。
 

 形状に合わせてカットしたら、裏に木工用ボンドを塗ります。

 貼り付け。

 当て木で叩いて位置を調整。

 そして釘止め。

  ヘリンボーンはその形状上、側面にサネ(材のズレを無くすための出っ張った部分)のない箇所があります。

 そこに、1つ1つ手加工したサネを差し込み、より精度を上げています。

 動画の30秒あたりがその場面です。

 その丁寧な仕事振りが伝わったでしょうか。

 ただ45度と言うだけで、全く基準がないに等しく、削りながらの調整も必須なのです。

 金額的には全く合っていないと監督は嘆いていましたが、人の目は正直です。

 その手跡が、全く違う空間の質を演出してくれるのですから。

 ヘリンボーンの誘惑。

 その誘惑に抗うもよし、誘われるもまたよしなのです。


文責:守谷 昌紀

■■■1月27日 『Best of Houzz 2021』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞

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【News】
■12月28日発売『suumoリフォーム(関西版)』にインタビュー記事掲載
■10月23日『homify』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載
■9月11日発売『リフォームデザイン2020』「回遊できる家」掲載
■5月16日『homify』(英語)の特集記事に「下町のコンクリートCUBE」掲載
■5月10日『Houzz』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載
■4月8日『Sumikata』東急リバブル発行に巻頭インタビュー掲載

■2017年11月27日ギャラクシーブックスから出版『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀がamazon <民家・住宅論>で1位になりました

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◇一級建築士事務所 アトリエ m◇
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記

「THE LONGING HOUSE 」‐7‐明るく、素直に、前向きに

 今年の節分は2月2日で、124年振りだったそうです。

 節分はその名の通り、冬と春の境目。カレンダーで決めるものではなく、太陽と地球の関係で決まるから今年のようなケースもあるとのこと。

 宇宙のリズムが全てを内包している訳です。

 「THE LONGING HOUSE 」のファサードは東向きで、定例打合せの始まる午後2時にはあまり光が当たりません。

 道路からアプローチし、建物に入っていきます。

 道路側から見ると分からないのですが、この上部は空が見えます。

 屋根がないのです。

 その部分を2階から見下ろすと、このようになっています。

 現在まだ床はありませんが、グレーチングを取り付けると光庭となります。

 光庭を2階廊下からみると、正方形の窓越しに光が漏れているのが分かります。
 

 1階の階段から見上げると、1階廊下にも光を落としているのが伝わるでしょうか。

 バルコニーであり、光庭であり、アプローチの明かり取りであり、1階の廊下の間接照明。1粒で4度美味しいのです。

 これだけ複雑な形にすると、相応のコストも掛かりますが、東面の光環境を考えると、これが最善の案と考え提案しました。
 

 反対に、平屋棟は南を向くのでかなり恵まれた条件です。


 

 メインの開口をL字に取り、奥深くまで光を送る為のハイサイドを加えました。

 

 更に、最も深い位置に光を落とすトップライトも。

 屋根上から見ると、こうなっています。

 

 この屋根の反射光も、2階の個室へ光を届ける役割をはたしています。

 光と風をいかに建物内に届けるかが、全ての計画のスタートになります。

 それを、クライアントのパーソナリティと照らし合わせてブラッシュアップして行くのが私の設計手法です。

 30代前半までは、ファーストプランに辿り着くまでかなり悩み、時間が掛かりました。

 今も簡単にでてこないことはありますが、それは法規面であったり、コスト面であったりすることが多いのです。

 それで、以前は何に悩んでいたんだろうと思うことがあります。

 しっかり敷地を見て、あとは明るく前向きに。素直に考えれば答えは必ず見つかるはずなのに。

 ただ、完成時に4度美味しいと思って貰えるかは、残り2ヵ月程の頑張りに掛かっています。

 宇宙を私がコントロールすることは出来ません。宇宙のリズム、原則を受け入れることから全ては始まるのだと思っているのです。

文責:守谷 昌紀

■■■12月28日発売『suumoリフォーム(関西版)』にインタビュー記事掲載

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■2月13日 『Best of Houzz』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞

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「THE LONGING HOUSE 」‐6‐若者は荒野を行け

 現場の風景は日々変化します。

 訪れるタイミングで随分印象が違ってくるものです。

 前回の上棟式の際、クライアントであるお母様は革靴にもかかわらず、ハシゴを途中まで登られました。

 もし何かあってはと皆で止めて、真ん中あたりまでで我慢して頂いたのです。

 監督に「お母様にも登ってもらえるハシゴってないかな」と相談していたら、仮設階段が完成していました。

 早速監督が昇ってみると「ちょっとしなるなあ」と。

 その場で、若い大工が中央に垂直部材を加えてくれた改良版です。

 お母様、奥様にも安心して2階を見てもらえたのです。

 2階の一番奥は、光が差しこんでくるのが良く分かります。

 棟梁が担当のよう。

 1階も南に面した開口はできるだけ高くまで確保しました。

 そこで更に若い大工が加工をしていました。

 聞くと、こちらの若者は棟梁の息子さんとのこと。

 現在は大学に通っていますが、ほぼ授業がないので手伝いに来ているそうなのです。

 それを聞いて、少しは話をしてみました。

 「大工を仕事にはしないの?」と聞くと、「考え中なんです」と。

 なかなかに良い表情をしており、愛嬌も感じます。

 あまり勧めすぎるのも良くないのですが「いい仕事だと思うよ」とだけ伝えたのです。

 家庭での顔は知りませんが、お父さんは「ザ・棟梁」という感じの寡黙な職人肌で、非常に好感が持てます。

 実際、親子大工は非常に多く、1階、2階と別れて仕事をしていることが多いのです。

 もし彼が大工になったなら、大卒サラブレッド大工となる訳で、この職人不足の時代、重宝されることは間違いありません。

 勝手なことを言えば、これから30年位は私も枕を高くして眠れるというものです。

 棟梁はどんな気持ちでいるのだろうと考えてしまいました。

 帰る頃には日が暮れてきました。

 職業選択の自由は、憲法によって保障されています。

 また、人生において、職業の与える影響は本当に大きいとも思います。

 私も人の親で、とても他人事とは思えませんでした。

 ただ、本当はこう思っています。

 「若者は荒野を行け」

 平坦で、行先の分かっている舗装道路は、どうせエリートで一杯ですから。

文責:守谷 昌紀

■■■12月28日発売『suumoリフォーム(関西版)』にインタビュー記事掲載

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「THE LONGING HOUSE 」‐5‐棟梁プレゼンツ、屋根の上

 先週末に上棟式を迎えた「The Longing House 」。

 横断幕を揚げてみました。

 何とかここまでやってきたのですが、敷地の課題をどう解決したかを昨日の日記にまとめてみました。

 横断幕のある東面こそ細身ですが、T字の敷地だけに中は流石に広い。

 工務店が祭壇と御幣を準備してくれています。

 ご家族が見えると、お子さん達は早速端材を手にとって遊んでいました。

 「トゲだけは気を付けてね」と声を掛けましたが、勿論現場は格好の遊び場。

 ご家族は気が気ではないと思いますが、お子さん達の気持ちは良く分かるのです。

 監督の進行のもと、式典が開始。

 まずは四方を清めてまわります。

 そして御幣が棟梁に託されました。

 2階の一番高い所に掲げ、皆で二礼・二拍・一礼。

 式典が終わるとどこのお子さんもソワソワし始めるもの。

 「2階に上がりたい!」となりました。

 更に「屋根の上にも上ってみたい!」と。

 棟梁の言うことを聞いて貰うという約束で、屋根の上のなかよし兄妹という構図です。

 お兄ちゃんが慎重に匍匐(ほふく)前進する横を、妹さんはスイスイと。

 さらに「ジャンプしてもいい?」と。

 棟梁にOKを貰い、ピョンピョンと。

 こんな所は、女の子の方が案外平気なのでしょうか。

 この日は土曜日だったので、一旦手を止めての式典でした。

 大工4人が、忙しく動き回っている姿を見て貰うのはとても良いことだと思います。

 米と言う字は「八十八もの手間をかけて作られるもの。一粒も残しては駄目」と祖母に言われたことがあります。

 家を建てるには、ざっと20業種くらいの職方が入り、5カ月くらいは掛かります。

 平均3人として延べ2,700人。仮に一日33手間とすれば89,100手間。

 クライアントの奥様が「おそらく人生で一度であろう場面に毎回ワクワクしています」と言ってくれました。

 また「子供たちも、建築中の自宅の屋根に登ったのは強烈な思い出になったことでしょう」とも言って貰いました。

 八万九千百手間。

 稲作より大変というニュアンスではありませんが、現場の過程を見て頂ければ、多くの方は納得してくれると思うのです。

文責:守谷 昌紀

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「THE LONGING HOUSE 」‐4‐PC板素敵

 建物を建てるためには最低4m幅の道路に、2m以上接している必要と法が定めています。

 これを接道義務と言います。

 「The Longing House」の接道は東側。

 Tの足先が、僅かに接しているという感じです。

 北を見ると、この敷地が住宅地に囲まれていることが良く分かります。

 Tの頭側。西側隣地が一段高くなっています。

 ここにどういった対処をするかは、計画開始時からの課題でした。

 どういった提案をし、どういった苦労があったか。

 そして柱を建てる所ことになった経緯は、前々回に詳しく書きました。

 外構計画の目玉。

 ようやく柱の間にPC板が設置されました。

PC=プレキャスト・コンクリート

 読んで字のごとく、工場で生産された鉄筋コンクリートです。

 工場で作るため条件をコントロールしやすく、安定した品質が確保できるとされています。

 言わば、工場生まれの打ち放しコンクリート板。

 コンクリート素地の肌合いは滑らかで、何とも素敵なのです。

 今回のPC板は1枚が約600kg。下部には少し隙間を開けています。

 理由はまた書くのですが、現在は仮置きの状態で24cmあります。

 最終的には、これをもう少し狭めるのです。

 監督から「大きな木槌で、だるま落としみたいに抜きますか!」という冗談も出ました。

 実際には3枚乗っているので1.8tonあるのでそれは無理。

 じわじわと下げて行き、どこかで止めなければなりません。

 その工法を聞いて、なるほどと思いました。

 「初めての事ばかりなので、さぐりさぐりやってます」と言っていたのですが、そのストーリーがこの塀を、全く違う次元へと導いてくれるのです。

 これは前回の帰り道。阪神高速池田線から見える、大阪湾に沈む夕日です。

 昨日から環状線南行き10日間通行止めで、下道で会社まで戻りました。

 普段よりも混んでいたのだと思いますが、普段なら30分の道程が2時間弱掛かりました。

 当たり前にあるものが無くなった時、初めてその価値が分かるものです。

 心しておかなければと思ったのです。

文責:守谷 昌紀

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「The Longing House 」‐3‐ほぼガンタンク

 気持ち良い秋晴れの下、定例打合せ前の現場に立ち寄ります。

 この計画はT字の敷地が特徴ですが、頭の棒線の左から敷地を見てみます。

 南側から見ることになり、日の当たり方が良く分かります。

 今度は反対の北側から。

 敷地環境は人の手ではどうすることもできないので、この紐解きが建築設計の始まりとなるのです。

 T字の縦線の下。東から見てみます。

 敷地をよく見れば、どの空間をどの場所に配置するかは自然に決まって行くものなのです。

 前回「もうダメだ、が仕事のはじまり」と書きました。

 何とか擁壁の件を解決したのですが、一難去ってまた一難。

 またまた歯ごたえのある課題がでてきていたのですが、それも何とか解決の糸口が見えてきました。

 びっくりするくらい色々な課題がでてくるのが建築です。

 全く問題がなく、簡単に解決できることに、お代を払ってくれる人など居るはずもありません。

 困難こそが仕事の本質なのです。

 そんな中、スーパーパイロットが助けに来てくれました。

 トラックから手際よく一人で地面に降りたち、さっと仕事を始めます。

 いつ見ていても鮮やかなもの。

 もう完全にガンタンクを操るリュウ・ホセイなのです。

 定例打合せを終え、阪神高速で会社に戻ります。

 現場や打合せはエンターテイメントです。

 大変を楽しく。

 これが私のモットーなのです。

文責:守谷 昌紀

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「The Longing House 」‐2‐「もうダメだ」が仕事のはじまり

 この計画の敷地は形状にかなり特徴があります。

 旗竿敷地は経験がありますが、T字型は私も初めてです。

 平面的な形状を活かすのは勿論ですが、現実は2次元ではありません。

 T字の頭の部分に面する隣地が一段高くなっているのです。

 計画がスタートした際、クライアントはこの隣地に対しての安全対策も合せて提案して欲しいとのことでした。

 建物の設計も簡単ではありませんでしたが、これらは建築から少し下がって、土木の世界の話とも言えます。

 そこは、普段山奥の湖へ通っている経験が活きました。

 山道で土砂崩れがあった時、このような方法で土留め壁を構成し、復旧工事を進めて行きます。

 これなら応用できるかもと考えたのです。

 当初は鉄筋コンクリートの擁壁を計画していました。

 さあ基礎工事となった際に「掘り方のことを考えた時、隣地が崩れてこないか心配で……」と監督から相談があったのです。

 正直、参ったなと思いましたが、京セラ名誉会長の稲盛さんからこう教えて貰いました。

 もうダメだというときが仕事のはじまり

 それならと、この方法を提案したのです。

 監督も「それなら何とかなるかも」と再度工法を練り直し、ようやくここまでこぎつけました。

 ドリルで2mの穴を掘りますが、擁壁の地中部分があたりなかなかうまく行きません。

 できるだけ擁壁に近い場所を、文字通り手探りで探します。

 何とか2mまで到達すると、今度はセメントミルクを注入しながら攪拌です。

 ドリルを上に移動させながら、全体にセメントミルクを練り込んでいくのです。

 そして今度はH鋼を吊り下げ、セメントミルクで満たされた穴に差し込みます。

 この鋼材を手仕事で微調整。

 そしてH鋼を設置。

 セメントが固まればもう動かすことは出来ないので、今しか調整は出来ません。

 監督が「んっ!ちょっとずれてる?」。

 慌てて押したり、クサビを打ち込んだり。

 もうコントみたいですが、何とかなったようです。

 何とかならなかったとしても、何とかするしかないのですが。

 建築においての精度は、通常0.5mmくらいでしょうか。

 しかし土木となるとそこまでは求められません。この現場を見れば一目瞭然です。

 図面ではどう描けても無理なものは無理なのです。

 どこは厳しく、どこは許容するか。

 現場に足を運び、対話をしなければその判断はずれてしまい、裸の王様になってしまうのです。
「The Longing House 」‐2‐「もうダメだ」が仕事のはじまり
文責:守谷 昌紀

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