松原/脳神経外科「うえだクリニック」‐4‐現場は全てを知っている

 関西地方が梅雨入りする前日、「うえだクリニック」の建方工事がスタートしました。


 
 基礎工事、配管工事までは非常に順調に進んでいました。

 消費税の駆け込み需要もあってか、プレカットにかなりの時間を要してしまいました。

 しかし泣き言を言っている時間などありません。

 早速、建方1日目の現場へ行ってきました。

 きわめて人通りの多い長尾街道ですが、道路の使用許可もギリギリの建方工事となりました。

 安全を預かる警察としては、勿論「出来るだけ出っ張らないよう」、工事をする側は「仮歩道をつくるので、ここまでの許可を……」といった交渉になるのです。

 建築とは、人手と時間が兎に角かかるものなのです。

 1階の柱を建て終わったところで、昼休憩となったようです。

 建築現場では垂直のことを「たち」と言います。

 たちのでていない柱はまるで、枝葉の無い林のよう。

 それが微調整され、梁と繋がれた時にピリッとした景色に変わります。

 1階エントランス部は、条例によるバリアフリー対策と、重量のある医療機器を搬入するため、段差はほぼありません。

 うず高く積まれているのは羽子板ボルト。

 その数は、現代の木造建築がいかに頑丈かを視覚で証明してくれます。

 この日は、2階床の合板まで張る予定だと、顔見知りの大工が教えてくれました。

 私はここでタイムアップ。

 翌々日の梅雨入り2日目、朝一番に再訪しました。

 躯体は2階まで組みあがり、ピタリとたちもでています。

 この段階でも、この建物のポテンシャルを感じさせてくれるのです。

 先程の、段差ゼロのエントランスからクリニック内に入っていきます。

 正面に受付を見ながら、左手が待合。

 2層吹抜けの空間は、優しい光が差し込むよう設計しました。

 受付横にメイン通路があり、右に診察室、左に検査室が並んでいます。

 丁度コンクリートの道が、高度な医療機器が通っていく花道です。

 奥に掛かっていたハシゴで2階に上がります。

 2階は全てバックヤードですが、とても面白い空間構成になっているのです。

 吹抜け部にはキャットウォークのような空間があります。

 その両サイドが外部となっており、間接光を高い位置から取り込みます。

 患者の人は上がれませんが、奥まっているところがポイントで、その部分は院長が年に1、2度掃除してくれることになっているのです。

 全ての柱に「うえだクリニック」と刻印があります。

 同じく梁にも。

 枝葉の無い林が、柱、梁と役割を与えられたとき、材木から建築となって行きます。

 役割がそれぞれの価値を持たせるのは、人であれ、材であれ全く同じです。
 
 自由で居たいと反発する人を見ることがありますが、自由と怠惰をとり違えているのではと言うと、言いすぎでしょうか。

 仕事が好きそうな、若いオペレーター君。

 まだ20代だそうで、ここで昼ごはんを食べていました。

 穏やかな、熟練の大工。

 ブルーシートを日よけにしての昼食です。

 仕事が好きで、現場が好きな人と会うと、それだけで気分が良いのです。

 独立してすぐは、人など雇えないので、クライアントからの電話も、営業を断るのも、現場からの電話も、全てひとりで受けていました。

 休憩時間などと言うものは、私にはありませんでした。

 今も人手不足で、それに近い状態に逆戻りしていますが、それでも何とかやっていけます。

 楽しく、充実した人生を歩みたければ、仕事を好きになるしかないのです。特に男にとっては。

 友達が居ない私が孤独を感じないのは、家族が居ることと、仕事好きの人間と、時々会うことが出来るからだと思います。

 正直に「時々」と書いたのですが、できればそんな人とだけ、仕事がしたいものです。

 一歩一歩前に進んでいっている実感はあります。自分の仕事人生の中で、目標にどれだけ近づくことができるのか。

 現場だけが全てを知っているはずなのです。

文責:守谷 昌紀

■■■『大改造!!劇的ビフォーアフター』4月7日(日)BS朝日で「住之江の元長屋」再放送
■■■『デンタルクリニックデザイン事典vol.1』4月1日発売に「さかたファミリー歯科クリニック」掲載

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【News】
『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀
ギャラクシーブックスから2017年11月27日出版
amazon <民家・住宅論>で1位になりました
■『homify』5月7日「碧の家」掲載
『houzz』4月15日の特集記事
「中庭のある無垢な珪藻土の家」が紹介されました
「トレジャーキッズたかどの保育園」
地域情報サイトに掲載されました
大阪ガス『住まう』11月22日発行に「中庭のある無垢な珪藻土の家」掲載
『住まいの設計05・06月号』3月20日発売「回遊できる家」掲載
『homify』6月29日「回遊できる家」掲載

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◇一級建築士事務所 アトリエ m◇
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記

「住吉区歯科医師会館」‐9‐トラブルはネタにする

 6月は、撮影においては最も気を使う季節です。

 ギリギリまで悩んで決めた6月13日(木)は、快晴となってくれました。

 これからは気象庁の予報を最重要視すると決めました。

 道中、長居公園の外周は多くのランナーがアップをしているようでした。

 何かの大会が催されているようです。

 長居公園が快晴なら、住吉区歯科医師会館も勿論晴れ。

 写真家の平井美行さんにお願いしていました。

 竣工時より、ジューンベリーの葉が青々としています。

 まさに撮影日和です。

 この建物のプランの中心は、2階の北東にある光庭です。

 この部分の工事は難易度が高く、ようやく最終形を載せることができました。

 奥と右の壁下部にあるのが、視線は遮り、風は通すルーバーです。

 そして中央には3つのトップライトが並びます。

 光庭の周りに、会長室、事務室、小会議室が並びますが、会長室の執務机横から、光が差し込んでくるようプランしました。

 仕事の合い間をぬって公務をこなす姿をいつも見ていたので、少しでも良い空間を提供したいと考えたものです。

 1階の大会議室には机と椅子が入っています。

 トップライトの真下に入るとこのような景色。

 先月末、すでに一度公演があったのですが、プロジェクターを使う際、ブラインドを閉じても少し明るいとのこと。

 明るいことは喜んで貰っているのですが、この点は課題です。

 絵の正面に入るとこんな景色です。

 marianeさんの絵も、前回より活き活きと見えるのは、私の気分からでしょうか。

 エントランス右に、館のロゴも取りつきました。

 この竣工写真の撮影まで終えて、私の仕事はワンクールなのです。

 しかし若干のトラブルが発生し、夕景の撮影だけが持ち越しになりました。

 間違いなく防げた問題で、かなり腑に落ちていなかったのですが、平井さんには梅雨が明けた頃を狙って、再度来て貰うことになりました。

 撮影においては天の気分に影響されます。

 その意味で、昼景の撮影は120点だったので、良しとなければなりません。

 トラブルをネタにする。

 これはいつも心掛けてきたつもりです。

 しかしこの日は、正直久し振りにカリカリきていたのです。まだまだ修行の日々は続きます。

文責:守谷 昌紀

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朝テンションがあがる「北摂のリノベーション」‐6‐夏を制するものが一年を制す

 6月にも関わらず、暑い日が続きます。

 しかし天気予報を見ると、関西もそろそろ梅雨入りでしょうか。

 LDK南のサッシ枠が取りつきました。

 開口部が景色を切り取りますが、南に広がる田園風景は、想像を上回る爽快さです。

 田んぼには水が張られ、さながら平等院のようと言えば少し言い過ぎでしょうか。

 打合せは、作業台とアウトドアチェアの仮設リビングで。

 この景色を堪能してもらいたいので、クライアントの席は北側に準備します。

 ご主人は「これからの季節、カエルが煩いんですよ」と、やはり環境には無頓着でしたが、それでもこの大開口を体感して貰いたかったのです。

 階段を上がった2階のホールにあるハイサイド。

 緑を切り取る、まさにピクチャーウィンドウです。

 その下に、下屋がぶつかってくるの壁があります。

 壁をめくってみて、大工の技を感じることが出来るのです。

 寝室、子供部屋の南にあるバルコニーについては、前回触れました。

 環境には無頓着だったご主人も、広いバルコニーには納得でした。

 この日課題は、スイッチ・コンセントの位置決め。

 結構時間が掛かってしまい、1階は次回に持ち越しとなりました。

 朝来た時、前の水田に苗が置いてあるなと思っていました。

 昼頃から、トラクターで田植えがスタート。

 帰る頃にはすっかり景色が変わり、私にとっては、一日限りの平等院となりました。

 「バカの壁」の作者、養老猛司は「ヨーロッパと比べて、東南アジアの自然は強い」と書いていたと思います。

 強い日差し、長い雨、すぐに生えてくる雑草、そして蚊。

 自然が強い分、扱いにくいところもあります。それをどこまでコントロールし、室内に質の良い光と風を取り込めるか。それこそが建築にとっての命題だと思っています。

 温暖化が進む中、夏を制するものが一年を制すと言っても過言ではないのです。

 暑い時期に目の前に水盤があれば、風は冷やされます。

 藤原頼道は水面に映る鳳凰堂を愛でたのですが、その涼やかさも分かっていたのかもしれません。

文責:守谷 昌紀

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