「碧の家 」の近所は、現在建築ラッシュです。
基本的に閑静な住宅街なのですが、半径20m内に4件の建築現場があります。
まさに現場銀座。
工事中、クライアントは近くの賃貸マンションで暮らします。
通勤前、ほぼ毎日現場に顔をだしてくれるそうです。
そして、時々私に写真を送ってくれるのです。
土間コンクリートの打設が終わったので、この日は現場打合せとしました。
思いのほかしっかりした梁が残っていたり、屋根裏の空間が大きかったり。
リノベーションは現場での対応力が全てです。
ここから施工会社と詳細を詰めていきます。
エントランスは南向きにあり、2階窓からも質のよい光が入ってきます。
壁の無い状態は、高い位置から光が差し、まるで教会建築のような美しさがあるのです。
解体前、床下は土でした。
床下の防湿対策をしていないと、どうしても床板が柔らかくなってしまいます。
耐震補強も兼ねて土間コンクリートを打つのですが、床下から面白いものがでてきました。
火鉢です。
私より一回り上の監督は、「掘りごたつの底に埋め込んだのでしょうねえ」と。
クライアントのお母さんも「知らなかった」とのことなので、以前の住人がこうして暖をとっていたようです。
昭和10年代から20年代、市井の人々の暮らしがイメージできる瞬間です。
キッチンの出窓に工具箱が置いてありました。
これは、クライアントが若い頃に亡くなった、お父さまのもの。
引越しの際に処分するつもりだったのが、「便利なので使わせてもらっています」と監督が残しておいたそうです。
クライアントから「 ほら工具箱役にたつやろぅと、天国の父の声が聞こえるようです。父親も家作りに一役かってるようです」とメールを貰いました。
もし、物創りの過程に意味がないとしたら、人がここまで物に愛情を注ぐことはないと思います。
リノベーションとはその過程を紡ぐことと考えるなら、「碧の家」は100年を超える物語りをもつことになります。
それは創り手としても嬉しいことだし、天国のお父さまもきっと喜んでくれるに違いないと思うのです。
文責:守谷 昌紀