築80年の長屋を「碧の家 」に〈リノベーション〉‐2‐100年を紡ぐ物語り

 「碧の家 」の近所は、現在建築ラッシュです。

 基本的に閑静な住宅街なのですが、半径20m内に4件の建築現場があります。

 まさに現場銀座。

 工事中、クライアントは近くの賃貸マンションで暮らします。

 通勤前、ほぼ毎日現場に顔をだしてくれるそうです。

 そして、時々私に写真を送ってくれるのです。

 土間コンクリートの打設が終わったので、この日は現場打合せとしました。

 思いのほかしっかりした梁が残っていたり、屋根裏の空間が大きかったり。

 リノベーションは現場での対応力が全てです。

 ここから施工会社と詳細を詰めていきます。

 エントランスは南向きにあり、2階窓からも質のよい光が入ってきます。

 壁の無い状態は、高い位置から光が差し、まるで教会建築のような美しさがあるのです。

 解体前、床下は土でした。

 床下の防湿対策をしていないと、どうしても床板が柔らかくなってしまいます。

 耐震補強も兼ねて土間コンクリートを打つのですが、床下から面白いものがでてきました。

 火鉢です。

 私より一回り上の監督は、「掘りごたつの底に埋め込んだのでしょうねえ」と。

 クライアントのお母さんも「知らなかった」とのことなので、以前の住人がこうして暖をとっていたようです。

 昭和10年代から20年代、市井の人々の暮らしがイメージできる瞬間です。

 キッチンの出窓に工具箱が置いてありました。

 これは、クライアントが若い頃に亡くなった、お父さまのもの。

 引越しの際に処分するつもりだったのが、「便利なので使わせてもらっています」と監督が残しておいたそうです。

 クライアントから「 ほら工具箱役にたつやろぅと、天国の父の声が聞こえるようです。父親も家作りに一役かってるようです」とメールを貰いました。

 もし、物創りの過程に意味がないとしたら、人がここまで物に愛情を注ぐことはないと思います。

 リノベーションとはその過程を紡ぐことと考えるなら、「碧の家」は100年を超える物語りをもつことになります。

 それは創り手としても嬉しいことだし、天国のお父さまもきっと喜んでくれるに違いないと思うのです。

文責:守谷 昌紀

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「四世代で暮らす家」‐7‐焼きあがり1ヵ月

 2016年の6月に着工した「四世代で暮らす家」。

 引越しは先月の下旬でした。

 11ヵ月掛かってようやく完成したですが、外構は6月20日までかかってしまいました。

 建物向かって左に、黒いレンガ積みのエリアがあります。

 このレンガは、最も濃い色で焼いた特注品です。

 最終盤になって、上の4列分が足りないと現場が言い出しました。

 裏からみると分かりやすいのですが、透かし積みにしたうえで、隙間に小さなレンガを入れています。

 空気の動きはあるが、外部からの視線を切るよう考えたものです。このRにピタリと合うレンガはもちろんありません。

 焼きあがるのに1ヵ月掛かるという報告を受けました。

 何のための施工図なのかと激高しましたが、いくら怒っても、納期が縮まることはありません。

 ただただ施工会社と一緒に頭を下げるしかなかったのです。

 そして、ようやく外構も完成に至りました。

 度々遅れる現場。納得できないことばかり起こります。

 しかし、建築は私1人で創れるものではないので、施工会社というパートナーは常に必要です。

 厳しく、かつ愛情を持って接しているつもりですが、感じ方、反応は本当に様々なのです。

 人は弱いものです。とびきりに弱いものです。

 私も全く同じですが、そこから少しでも前に行こうとするなら、ものごとを真っすぐに見る以外に方法はありません。

 逃げ腰や半身で見ると恐れが追いかけてきますが、正面から見据えれば、何とかなりそうだと思えることが殆どだと思うのです。
 
 特注のレンガにしなければ、もう少し早く出来上がったかもしれません。

 しかし、やはりその質感は本物でした。

 多くのことを許容頂いたクライアトにはただただ感謝しかありません。

 3階から、桜並木を見下ろす景色は素晴らしいものがあります。

 引渡しが終わったあとは、豊かな暮らしが生まれることを願うだけです。

文責:守谷 昌紀

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永住したい打ち放しのマンション‐6‐「R GREY」に決定

 着工して3ヵ月半が経過した、「平野西アパートメントハウス」。

 正式名称が決定しました。

 「R Grey」

 フォントは仮決定ですが、オーナーである弟も気に入っています。

 Rは鉄筋コンクリート(reinforced concrete)の略、Greyはそのままでグレイ。

 コンクリートは人がつくる石のようなもの。よって単純な色ではありません。

 しかし、木の手摺もグレイとするので、キーワードとしました。
 
 紅茶のアールグレイとかけたのですが、紅茶のほうは”Earl Grey” と書き「グレイ伯爵」の意味だそうです。

 私が色々候補をだし、最終的にはオーナーである弟が決めました。以下がその他の候補です。

<スペイン語>

Casa Gris (カーサ  グリス)→ 灰色の家

Techo Gris (テコ  グリス)→ 灰色の天井

Pared gris (パレド グリス)→ 灰色の壁

<イタリア語>

Muro grigio(ムーロ グリジオ)→ 灰色の壁

<英語>

Grey Box → 灰色の箱

Grey  Cube → グレイの立方体)

 永住したいと思って貰うためには、名前も響きも大切です。

 しかし、必然性のない名前は避けたいと思っていました。

 ここで暮らす人が、この建物を好きになって貰えるよう、本気で考えたつもりです。

 名は体をあらわすといいます。

 イギリス貴族の名をかりたこのマンションで、豊かな暮らしが生れることを心から願います。

文責:守谷 昌紀

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築80年の長屋を「碧の家 」に〈リノベーション〉‐1‐プロローグ

 敷地は上町台地の西端に位置する。

 海からの玄関口でもあり、早くから多くの人々が居住していた。

 古くからの住人が多く、クライアントはご近所とお互いの家の鍵を持ちあっていたという。

 今回は、昭和10年代に建った四軒長屋の1住戸をフルリノベーションする計画だ。

 まずは内部壁の撤去から工事は始まる。

 この年代の階段の角度はかなり急だ。

 後ろの柱をみると柱2本分、1間(約1.8m)で登りきっていることが分かる。

 私が設計するなら、3mほどかけて登りきるので倍近い勾配となっている。

 1階はLDKと水回り、そして個室が1部屋。

 2階は個室、客間が1部屋ずつとなるのだが、奥の腰窓の外にバルコニーがある。

 ここが洗濯干場となっていたのだがクライアントのお母様は、踏み台を置いて外にでていたそうだ。

 バルコニーは後付けなので、やむを得ないとも言えるが、こういった上下移動の障害がリノベーションの動機になることは多い。

 人は重力には抗えないのだ。

 瓦屋根の下に隠れる空間は、やはり大きく気持ちよい。

 よく見ると、野地板の上には檜皮が敷かれているのか。

 クライアントは、まとまった休みにあちこちと海外へ出掛ける。

 特に北欧が好きだという。その中でも青に惹かれるというのだ。

 青というのは奥行きの深い色だ。この計画が目指すのは「碧(あお)の家」。

 テーマカラーとなった濃い青が随所にちりばめられている。

 設計期間1年8ヶ月。

 この秋には、醸成された「碧(あお)の家」を見てもらうことができると思う。

文責:守谷 昌紀

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緑を囲む京都のオフィス「山本合同事務所」‐1‐プロローグ

 働く人にとって、仕事場は人生で最も長い時間を過ごす場所だ。

 クライアントは、そこを「最も心地よく、緑あふれる空間にしたい」と言った。

 「山本司法書士事務所」から「(仮称)司法書士・土地家屋調査士 山本合同事務所」へと業務拡大にともない、オフィスの建て替えを考えるようになった。

 敷地は京都の北部。

 ウナギの寝床とまでは言わないまでも、敷地の間口は6m弱。南北は14mという細長い敷地だ。

 旧オフィスは大正時代に建てられたという木造2階建てで、天井はかなり低かった。

 それでも創業者の父が手をいれながら使ってきたその建物を、皆で大切にしていたのだ。

 しかし、隣地との等価交換があったり、仕事の幅をより広げて行きたいという気持ちから、建て替えを決断したのだ。

 新しいオフィスは鉄骨3階建て。

 1階は全て駐車場で、2、3階がワークスペースとなる。

 3階は応接室であり、休憩室でもある。

 リビングのような空間をイメージしているが、吹抜けを介して2階ともつながる。

 2階には天窓へ向かって伸びるシンボルツリーがある。

 それを囲むオーバルカウンターには、葉の間を通り抜け、木漏れ日がおち、高低差のある開口部からは、穏やかに風が流れる。

 働く時間の中で、「心地よい」や「幸せ」とは何かを考えた、ひとつの答えだ。

 創り手は、常にクライアントの期待に応えなければならない。

文責:守谷 昌紀

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永住したい打ち放しのマンション「R Grey」‐5‐コンクリート打ち放しの本当の魅力

 「平野西アパートメントハウス」は、全てのコンクリート打設が終わりました。

 強度が十分にでているということで、概ね型枠が取り払われました。

 1階から順に、内装工事がスタートしています。

 2階、3階と階を登っていくイメージ。

 各住戸の壁は、断熱材が吹き付けられるので、残念ながらコンクリートは見えません。

 しかし、天井面は全てコンクリート打ち放しのまま。

 また、外観、階段ホールは全てコンクリート打ち放しです。

 では、なぜコンクリート打ち放しに拘るのか。

 先日「高台の家」へ、内観の撮影にいったのですが、ほぼ一日滞在させてもらいました。

 変な話ですが、トイレを借りた際、「やっぱり打ち放しはいいな」と思ったのです。

 実写映画の背景を意識することは少なくても、アニメの背景を意識することは結構あります。

 例えて言うなら、それが打ち放しの魅力でしょうか。

 工業製品でなく、手作りの壁や天井は見ていて飽きないのです。

 「高台の家」のご主人は、学生時代を沖縄で過ごしましたが、その際のマンションがコンクリート打ち放しでした。

 壁に光が当たるさまをみて、その美しさを知ったといいます。

 寝室でうとうとと眠りにつこうとするとき、天井に目がいきます。

 そんな時に打ち放しの魅力が最も伝わるはず……

 9月からの入居開始ですが、ご希望の方はお知らせ下さい。

文責:守谷 昌紀

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枚方「さかたファミリー歯科クリニック」‐5‐庇にスポットライトを

 「さかたファミリー歯科クリニック」はようやく足場がとれました。

 できれば青空で見たかったところですが、梅雨入り後につきいたしかたありません。

 外観の特徴は、4段になって全体を覆う庇です。

 日本における木造建築は、軒と庇の建築と言っても過言ではありません。

 高温多湿の気候のなか、躯体である木をそれらが守ってきました。

 庇は主従の関係でいえば「従」にあたります。

 従の存在である庇を、「主」の存在にしてみたいと考えました。そこに強烈なスポットライトを当ててみたいと考えたのです。

 庇は外壁へ当たる直射を抑え、夏のエネルギー使用料を抑制してくれます。

 また、木造建築の深い軒のように、建物を守る役目も果たします。

 自生する木にとっての「葉」の役割と非常に似ています。このクリニックを一本の大木と見立てることができるのです。

 しかし内部の工事は遅れ気味。

 職人たちは、懸命に働いてくれてはいるのですが……

 7月のオープンに向けて最後の頑張りどころです。

 建築とはディティールの積み重ねです。

 間接照明が収まる部分も、美しく仕上がっています。

 この庇のディティールは、「平野西の家」、「あちこちでお茶できる家」と、積み重ねてきました。

 「あちこちでお茶できる家」の際は、先端をそろえるために少し「折れ」をつけました。

 しかし「さかたファミリー歯科クリニック」で、「折れ」は採用しませんでした。

 この庇は葉のような存在です。葉は折れていないし、少し動きがあっても構わないと考えたのです。

 建築とは夢や希望を形にしたものです。

 私たちの夢と希望が、街の人たちへ届くかどうか……

 内覧会を開催する予定なので、また告知したいと思います。

文責:守谷 昌紀

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