この計画の敷地は形状にかなり特徴があります。
旗竿敷地は経験がありますが、T字型は私も初めてです。
平面的な形状を活かすのは勿論ですが、現実は2次元ではありません。
T字の頭の部分に面する隣地が一段高くなっているのです。
計画がスタートした際、クライアントはこの隣地に対しての安全対策も合せて提案して欲しいとのことでした。
建物の設計も簡単ではありませんでしたが、これらは建築から少し下がって、土木の世界の話とも言えます。
そこは、普段山奥の湖へ通っている経験が活きました。
山道で土砂崩れがあった時、このような方法で土留め壁を構成し、復旧工事を進めて行きます。
これなら応用できるかもと考えたのです。
当初は鉄筋コンクリートの擁壁を計画していました。
さあ基礎工事となった際に「掘り方のことを考えた時、隣地が崩れてこないか心配で……」と監督から相談があったのです。
正直、参ったなと思いましたが、京セラ名誉会長の稲盛さんからこう教えて貰いました。
もうダメだというときが仕事のはじまり
それならと、この方法を提案したのです。
監督も「それなら何とかなるかも」と再度工法を練り直し、ようやくここまでこぎつけました。
ドリルで2mの穴を掘りますが、擁壁の地中部分があたりなかなかうまく行きません。
できるだけ擁壁に近い場所を、文字通り手探りで探します。
何とか2mまで到達すると、今度はセメントミルクを注入しながら攪拌です。
ドリルを上に移動させながら、全体にセメントミルクを練り込んでいくのです。
そして今度はH鋼を吊り下げ、セメントミルクで満たされた穴に差し込みます。
この鋼材を手仕事で微調整。
そしてH鋼を設置。
セメントが固まればもう動かすことは出来ないので、今しか調整は出来ません。
監督が「んっ!ちょっとずれてる?」。
慌てて押したり、クサビを打ち込んだり。
もうコントみたいですが、何とかなったようです。
何とかならなかったとしても、何とかするしかないのですが。
建築においての精度は、通常0.5mmくらいでしょうか。
しかし土木となるとそこまでは求められません。この現場を見れば一目瞭然です。
図面ではどう描けても無理なものは無理なのです。
どこは厳しく、どこは許容するか。
現場に足を運び、対話をしなければその判断はずれてしまい、裸の王様になってしまうのです。
文責:守谷 昌紀
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