掘り炬燵のある平屋「下北山村の古民家〈リノベーション〉」‐1‐プロローグ

奈良県南部にある下北山村で、古民家のリノベーション計画の工事がスタートする。

奈良県は南北に長く、その南東端にあるのが下北山村。随分道路が良くなり、大阪から車で2時間強といった距離感だ。

この平屋の古民家は、大正末期か昭和初期に建てられたものだと思う。

築100年程となるが、建物の状態は非常に良かった。

玄関土間あたりには何度か手が入っているようだった。

鴨居の高さはおそらく5尺6寸。

昔の住宅に多い高さだが、170cmを少し切ることになり、現代の住宅としてはやはり低い。

できれば現状を活かしたいところだが、大きく間取りを変える必要もあり、泣く泣くフルリノベーションとなった。

計画については、追々書いていくが、初回はなぜこの地で仕事をすることになったかを書いてみようと思う。

この魚が私の人生を変えたと言ってもよい。

1996年5月4日、下北山村にある池原ダムで64cm、5.1kgのブラックバスを釣りあげた。

小学生の頃にしていたルアーフィッシングを社会人になって再開。池原ダムへ通い始めて2年目だった。当時は道も悪く4時間近く掛かっていたと思う。

現在では外来魚として悪者の象徴となってしまったが、元は大正末期に食用として北米から輸入された。初めは芦ノ湖、その後いくつかの湖に移植される。

下北山村では重要な観光資源と考え、1988年にフロリダバスという非常に大きくなる種を輸入して放流。釣り人は、遊漁料を払い大自然の中で釣りを楽しむ。池原ダムが「バスフィッシングの聖地」と言われる所以だ。

1996年は放流から10年近くが経ち、60cmオーバーの大物が釣れ始めた年で、幸運にもその中の1匹が私のルアーに食いついてくれたのだ。

一緒に行っていた仲間と写真を撮ったりして盛り上がっていると、人が集まってきて「浜松さんのところに持って行った方がいい」と言われ、翌日伺った。

日本記録級かもしれないと、釣り業界に顔が広いこの方が、釣り雑誌、釣り新聞などに声をかけてくれた。

これは『Basser』。

これは『釣場速報』で、裏面TOP記事だったと思う。色々な釣り雑誌に掲載して貰った。

「日本記録級」という言葉を聞き、なんだか偉くなった気がした。アマチュアボクサーがラッキーパンチで日本ランカーになってしまったような感じだろうか。

休み明け、当時アルバイトで雇って貰っていた若い所長と口論になり、勢い余ってその設計事務所を辞めることになった。

それが、25歳で独立することになった顛末だ。

多分、池原ダムであの魚と出会っていなければ、これ程早く独立することはなかったと思う。

説明は難しいが、日本一になれるかもと根拠のない自信が沸いてきたのだ。

下北山村の大自然に背中を押して貰い、現場監理の経験無しで創業したが後悔は全くない。

新緑の二連滝。

エメラルドグリーンの真夏の備後筋。

けあらし立ち込める晩秋。

秋口に熊と遭遇したこともある。

家族と何度も訪れた。

大雪の大晦日も。

大自然はいつも変わらずにそこにある。

目一杯働き、休みができるとこの地に飛んで行く。それが私の休日だ。

そして、約束しなくても友達がここにいる。会えない時もあるが……

30年間この地に通った縁でクライアントと知り合い、この計画の相談を受けた。

下北山村で仕事ができるのは、建築家として誇らしいが、その分プレッシャーもある。

プロローグは、私と下北山村の話に終始してしまったが、兎にも角にも工事はスタートした。

次回からは通常運転に戻し、このリノベーション計画をお伝えしていきたいと思う。


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患者さんでなくても立ち寄ってほしい「尼崎園田えぐち内科・内視鏡クリニック」‐1‐プロローグ

「ビル診」とは、「ビル診療所」の略で、テナントビルなどの中で開業するクリニックのことを指す。

テナントを借りるので面積的には制約ができるが、この計画は約80坪あり「ビル診」としてはかなり広い面積を確保できている。

2階までのアプローチにはエスカレーターもあり、気軽に訪れることができる。

院長は、医師人生を3つに分けた時、最後の期間をどう働くか考えた。その結果、3つのことを実現したいという考えに至った。

① 地域の方の健康を、生涯管理できるかかりつけ医になる

② 訪問診療の充実

③ 専門性を活かした予防医療

また、患者さんでなくても気軽に立ち寄って貰えるクリニックを実現したいとも考えた。

何と言っても、特徴は開かれた待合室だ。

「いろいろ待合室」はそれらを具現化する、ゆったりとした大きな空間。13mを越える曲面状の本棚には、旅行ガイドブック、芸術雑誌、コミック、小説と多種多様な書籍が並ぶ予定だ。

旅行先を決める時、コミック好きな学生、そして待ち時間と、多様な人達が利用してくれればと考えている。

地域との関わりが増すにしたがって、少しずつ蔵書が増えていけば良いなとも思う。

診察エリア内も、できる限りリラックスして貰えるよう、2.7m以上の天井高を確保。

希望者には個室の待合室も備えている。

患者さんの動線と、医療動線が交錯しないように配慮している。

また、広い待合室を活かし、地域の方々へ健康について啓蒙活動ができればとも考えている。

これらを実現できるクリニックを、院長と模索し、開院を目指したのが「(仮称)あまがさき ずっと元気クリニック」だ。

「ずっと元気」は、患者さんは勿論だが、院長の「すごく元気」も含まれている。本当にいつも元気で、明るい院長が、地域の皆さんの健康を管理し、ずっと元気にしてくれるはずだ。

開業を今年の9月に見据え、間もなく工事がスタートする予定。

スケジュールは非常にタイトだが、真の意味での開かれたクリニックを作り上げるというミッションを必ず完遂したいと思う。

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