6千年前、大阪は生駒山の麓までが海でした。
その海の中に、事務所のある平野から、大阪城辺りを頂点とする半島がせり出していました。これが上町台地です。
徐々に陸地は広がり、現在の地形に近づいて行きます。
海辺にあった土地にはその名残があります。西の海岸線にあたるのが「粉浜」。天王寺の東にある「桑津」。津と言う文字は船着き場を指します。
今回の計画地も、上町台地の東海岸線にあり、波の浸食もあって出来た地形ではないかと思います。谷と付く通り、起伏が激しいのです。
計画地は元長屋で、端の住戸部分を取り壊し、新たに家を建てることになりました。
東西13m、南北3mで、敷地面積は約12坪。しかも隅切りに2㎡(0.6坪)とられます。
建ぺい率は70%に緩和されますが、容積率は160%。いわゆる狭小住宅と言えます。
更に元長屋の為、敷地境界線に壁があります。よって施工可能なラインまで後退せざる得ません。
2方の道路からも、道路斜線によって厳しく高さが制限されます。
これは天空率の比較によって、高さの限界値を探りました。
非常に厳しかった高さ関係を解決すべく、駐車場の天井高は1.95mまで抑えました。
それを利用してスキップフロアとしたのです。
また、間口3m側から車を入れなければ、車が道にはみ出してしまいます。
これらの条件を満たすプランを探りました。
結果、1階をRC造の壁式構造にするしかかないという結論に至ったのです。
当初から聞いている予算も、過去最高の厳しさ。その中で、木造とRC造の混構造という選択をしました。
クライアントにも我慢できるところは、本当に限界まで我慢して貰いました。
始めてクライアントが来所したのが、2011年の8月。1年掛かって、何とか着工までこぎつけたのです。
現在は、海辺の街を想像させるものはありません。
全ての条件を受け入れると、自然に黒船のような建物が立ち上がってきました。
年内完成を目指し、新年はクライアント家族の新しい船出を迎える予定です。
文責:守谷 昌紀