カテゴリー別アーカイブ: C53 「四世代で暮らす家」

「四世代で暮らす家」‐7‐焼きあがり1ヵ月

 2016年の6月に着工した「四世代で暮らす家」。

 引越しは先月の下旬でした。

 11ヵ月掛かってようやく完成したですが、外構は6月20日までかかってしまいました。

 建物向かって左に、黒いレンガ積みのエリアがあります。

 このレンガは、最も濃い色で焼いた特注品です。

 最終盤になって、上の4列分が足りないと現場が言い出しました。

 裏からみると分かりやすいのですが、透かし積みにしたうえで、隙間に小さなレンガを入れています。

 空気の動きはあるが、外部からの視線を切るよう考えたものです。このRにピタリと合うレンガはもちろんありません。

 焼きあがるのに1ヵ月掛かるという報告を受けました。

 何のための施工図なのかと激高しましたが、いくら怒っても、納期が縮まることはありません。

 ただただ施工会社と一緒に頭を下げるしかなかったのです。

 そして、ようやく外構も完成に至りました。

 度々遅れる現場。納得できないことばかり起こります。

 しかし、建築は私1人で創れるものではないので、施工会社というパートナーは常に必要です。

 厳しく、かつ愛情を持って接しているつもりですが、感じ方、反応は本当に様々なのです。

 人は弱いものです。とびきりに弱いものです。

 私も全く同じですが、そこから少しでも前に行こうとするなら、ものごとを真っすぐに見る以外に方法はありません。

 逃げ腰や半身で見ると恐れが追いかけてきますが、正面から見据えれば、何とかなりそうだと思えることが殆どだと思うのです。
 
 特注のレンガにしなければ、もう少し早く出来上がったかもしれません。

 しかし、やはりその質感は本物でした。

 多くのことを許容頂いたクライアトにはただただ感謝しかありません。

 3階から、桜並木を見下ろす景色は素晴らしいものがあります。

 引渡しが終わったあとは、豊かな暮らしが生まれることを願うだけです。

文責:守谷 昌紀

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「四世代で暮らす家」‐6‐常にキラキラ

 まもなく竣工を迎える「四世代で暮らす家」ですが、ようやく足場が外れました。

 御影石と左官仕上げは、ともに黒を基調としました。

 前面道路にある、桜並木もこの季節は青葉がまぶしいかぎりです。

 もちろん、ロケーションだけでなく細部にもこだわっています。

 レストルームの黒いタイル。

 クロコダイル模様で、光沢があるものが選ばれています。

 このタイルは早くから決まっており、1年半くらいはメーカーに在庫をとっておいてもらいました。

 すでに廃盤になっているので、もう代わりはありません。

 洗面には、キラキラと光沢のあるモザイクタイル。

 ペンダントライト。

 そしてスレンドグラスと、全て奥さんのセレクトです。

 計画がスタートしたのは2015年の1月なので、2年と4カ月が過ぎました。

 しかし、奥さんの「キラキラ」が好きは、常に一貫していました。

 外観は、それらをより引き立てるため、黒を基調にしたのです。

 外構も、計画のスタート時からこだわりの部分でした。

 クライアントは、すでに大手ハウスメーカーから、プラン、見積の提出を受けていまた。

 しかし、特に外構部分がしっくりきていないようで、設計事務所を探していたとのことでした。

 キラキラと真反対にある素焼きのレンガ。

 これは全て特注で、隙間をコントロールしています。

 全て積みあがると、その対比は完成します。

 引越しまであと1週間。いよいよ追い込みです。

文責:守谷 昌紀

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「四世代で暮らす家」‐5‐テイスト

 外壁の塗装がほぼ終わりました。

 黒い外壁が、ようやく見てとれるようになりました。

 こちらの住宅は四世代が暮らすので、各住戸のテイストがかなり違います。

 親世帯は、シックな感じで統一しました。

 アイランドキッチンの横には、1段上がった和室があります。

 中央にあるのは掘り炬燵です。

 こちらの住戸は、縦のスリットを全体のイメージに使っています。

 外部にも縦ルーバーの目隠しをデザインしました。

 これらは、なぜか日本を感じさせます。

 洗面は天板をクウォーツストーンとし、床はタイルとなっています。

 石など横の広がりが強いものは、やはりヨーロッパの香りを感じさせます。

 若夫婦世帯は、よりシンプルな感じでまとめました。

 モールとステンドグラスに、そのテイストが集約されています。

 『住人十色』という番組がありますが、ライフスタイルは住む人によって本当にまちまちです。

 好みと言ってしまえばそれまでですが、その中でも、一番真ん中にあるテイストを見つけたいと思います。

 黒は強い色です。

 それぞれのテイストをまとめ上げるために選択したのですが、功を奏することができるでしょうか。

 こちらの計画も、竣工まで1ヵ月をきりました。

文責:守谷 昌紀

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「四世代で暮らす家」‐4‐ガラスの魅力

 今年は記録的にインフルエンザがはやっているとのこと。

 現場でも風邪気味の人が結構います。

 と思っていたら、うちの娘も、スタッフの田辺さんもかかってしまいました。

 小学校は強制的に1週間休みだそうですが、さすがに当社の規模では休ませてあげることができず……

 大板のガラスがはいりだし、感じがでてきました。

 いままでベニヤで塞がれていた、開口部にガラスが入ると、内部の雰囲気は一変します。

 不透明のガラス。これは拡散光を期待したものです。

 開口部にはいろいろな種類あります。

 ここは、FIXの窓とオーニング窓を組み合わせています。

 ガラスほど建築を変えた素材はないかもしれません。

 前回、ある部分のおさまりを、棟梁と相談していました。

 柱を割って加工し、ガラスを挟むというアイデアです。

 これなら、無駄なパーツがなく、極めてスッキリと美しいでしょう。

 この提案には感激しました。

 「いや~、このくらい大したことないッスよ」と謙遜していましたが、木は目地方向なら割り易く、継ぎ目もほとんど目立たないという、特性を熟知していなければ出来ない提案です。

 アサヒガラスのサイトに、ガラスの起源が載っていました。

 焚火の周りに置いた岩塩が溶け、砂と反応してできたというガラス。

 その魅力は間違いなく透明性です。

 いかに光を遮らないか。

 単純極まりない課題ですが、そんなことの積み重ねが、空間の質を引き上げてくれるはずなのです。

文責:守谷 昌紀

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「四世代で暮らす家」‐3‐非効率な物創りに一生を捧ぐ

 こちらの敷地は、2車線歩道付きの道路に面しています。

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 街は建築の集合体ですから、建築とは街づくりの一端を担っていることになります。

 建築家・槙文彦は「道は街の断面」と言いました。

 美しい建築を創ることは、地域への貢献だと思っています。

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 美しいの解釈はそれぞれ違うもの。

 「それぞれ」を、諦めの言葉にしないことが、物創りにおいて重要なことだとも思っています。

 また、実物は1つしか創れないので、模型をつくり、様々な角度から検討するのです。

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 これは玄関からアプローチを見返したところ。

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 右に積んでいるのは素焼きレンガです。

 実際はもう少し奥に積むのですが、透けかたを検討するため、仮に積んでくれました。

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 左下にあるのは、ガレージの床の試し塗りです。

 インナーガレージの床材なので、発色を見るためにつくったもの。

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 LDKの間接照明とカーテンBOXも、実物大模型を作成してくれました。

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 構造体との隙間を検討するために、棟梁がつくってくれたものですが、実物大模型を「モックアップ」と言います。

 設計事務所がこれを制作するのは難しいのです。

 実物大を作ろうと思うと、それなりの強度のある材(例えば木や鉄)が必要になります。

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 加工する技術、専門の工具が必要になってきます。

 私達がつくれるのは、スチレンボードというカッターで切れる、模型専用の材までなのです。

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 木を削る道具はノミ。

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 技術も、体重の乗せ方も、これはプロの技術です。

 近ごろ、こうして実際に物をつくる人への敬意が、少なすぎると感じているのは私だけでしょうか。

 量産できるものや、コピーできるシステムを構築するほうが、ビジネスとしては、展開が大きくなります。

 そして、時代の寵児ともてはやされます。

 その技術革新、ビジネスセンスは素晴らしいと思いますが、対極にあるのが建築だと思います。

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 頑丈であるということは「重い、硬い」が基本で、量産化、工場生産には向きません。

 1つとして同じものがないので、飛行機のように大きな工場があればよい訳でもないのです。

 こんな非効率な物創りに、一生を捧げる変わり者が集まるのが、建築の現場です。

 頑固、ヘンコ、変わり者。

 褒め言葉とは言えませんが、この時代において、それほど悪い言葉でもない気もします。

文責:守谷 昌紀

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「四世代で暮らすの家」‐2‐西の桜

 秋晴れの中、昨日は上棟式でした。

 地鎮祭から、一気に上棟へ。規模が規模だけに、相応の時間を要しました。

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 延べ面積500㎡以上、170坪を超えるとさすがに大きいなという印象です。

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 1階は4台をゆったり収納できるインナーガレージ。

 かなり格好いいスポーツカーが入るので、この空間も楽しみです。

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 この敷地は西側接道につき、西に開いています。

 夏の午後、強い西日をどうコントロールするかは、建物にとって非常に重要です。

 道路の向こうに、高さ10m近い桜並木が植わっているのですが、これらがとても良い光環境をもたらしてくれるはずなのです。

 春の桜が散った後、夏に向かって青々とした若葉を茂らせていきます。これによって、夏の日差しは心地よい木漏れ日に変わるでしょう。

 また、秋には紅葉が始まり、最も光の欲しい冬には全て葉を落とします。

 テクノロジーに頼らずとも、それらを上回る価値をこの家にもたらしてくれるはず。
 
 西の桜はとても良いのです。

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 更に眺めの良い3階は、桜並木の効果が若干落ちる為、少しセットバックして、深め目の庇をかけています。

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 南西角にあるタワーは、ご主人の為に考えたもの。

 これはまた工事の進行と共に。

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 模型、奉献酒を備え工事の安全を祈願しました。

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 ご家族に、四隅を清めて貰い上棟式は終了。

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 ここから竣工に向けては、現場の頑張りに掛かってきます。

 とっても期待しておりますので。

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 並木の向こうには学校のグランドがあります。

 3階から見えた、イワシ雲を照らす夕焼け。

 やはり自然の恵みに適うものはないと思うのです。

文責:守谷 昌紀

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「四世代で暮らす家」‐1‐プロローグ

 クライアントと一番初めに相談するのは「テーマ」である。

 何に幸せを感じるかは、住まい手によってそれぞれ。

 テーマとは、それを表現するキーワードのようなものだろうか。 

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 この計画も「暖かい」「耐震性」「かっこいい」「ゴージャス」など色々なキーワードが上がった。

 それらをまとめたり、離してみたりしながら計画は進んで行くのだが、言葉には上がらなかったキーワードがある。

 「大きい」である。

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 敷地は約360㎡で110坪ほどある。

 1、2、3階に各居住空間があるのだが、この家は1歳から80代まで、四世代が住むのである。

 大きな空間というのは常に憧れだ。

 2階のLDKは40畳以上ある。それが大味にならないよう、空間構成には特に気を付けた。

 既存建物も相当な規模で、かなりの盛り土をしていた。その分、解体作業にはかなりの時間を要したのだ。

35 - コピー 

 打合せには第一世代の長男君も何度が参加してくれた。

 一番下のお子さんは1歳。第四世代の「曾祖母が見てくれているんです」ということも多々あった。

 昔の日本ならごく普通だったのかもしれないが、最近では稀なケースかもしれない。

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 そういった規模だけに、工期も8ヶ月みている。

 全ての世代が幸せだと思えるような家を目指し、工事はスタートする。

文責:守谷 昌紀


『住まいの設計07・08月号』5月21日発売「松虫の長屋」掲載■

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【Events】
■5月21日~5月29日曽根崎地下歩道PRコーナー(大阪市北区梅田1丁目)「宝塚の家」「松虫の家」のパネル、「宝塚の家」の模型展示
■5月30日~6月30日住まい情報センター4階
「宝塚の家」のパネル展示

【News】
『住まいの設計05・06月号』3月19日発売に「野洲の家」掲載
『homify(アラビア語)』5月20日「加美の家」掲載
『homify(韓国版)』5月18日「宝塚の家」掲載
『日刊住まい』「野洲の家」掲載
■『関西ウォーカー別冊「大阪ライフウォーカー」』3月22日発売に
「住之江の元長屋」掲載
■3月23日フジテレビ『みんなのニュース』「灘の高台の家」紹介
■2月23日フジテレビ『みんなのニュース』「松虫の長屋」紹介
『月刊ハウジング4月号』2月20日発売「野洲の家」掲載

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