築80年の長屋を「碧の家 」に〈リノベーション〉‐11‐リノベーションに失敗なし

 「碧の家」3月の点検で、現場日記は一区切りとしました。

 しかし、4月中旬の撮影で気付いたことが色々ありました。

 今回も2回延期でやっとの晴れ空。

 クライアントには無理なお願いばかりで……

 実は、3月に伺ったあと正面の花が枯れてしまったそうです。

 しかし、この日に合わせて再度植えていただきました。今回は根付いてくれると良いのですが。

 長屋の場合、必然的に1階の開口が少なくなり、光の取り方に工夫が必要となります。

 一番南にあるキッチンは何度か紹介しました。

 機能が集中し、1階で一番明るいところです。

 最奥の家電置場も何度か紹介しましたが、なかなかの力作です。

 トースター台がスライドするだけならともかく、買い替えた時に合わせて、スライド台が上下に位置を動かせます。

 監督と各担当者のアイデアに救われることが多々あるのです。

 洗面はトップライトから光をとっています。

 腰上は、日の光に映える水色のクロスになりました。

 壁にあるランプは施主支給。

 スイッチも同じくそうですが、焼き物には量産品にない味わいがあります。

 そして苦心に苦心を重ねたトイレの窓。

 中が透けすぎないガラスを探し、トランプのマークを四隅に張りました。

 中からみてもおかしくないよう、接着面も黒、赤となっています。

 ここがトランプである理由は、中に入れば分かるしかけです。

 不思議の国のアリスにでてくるウサギと、トランプの兵隊をイメージしたものなのです。

 2階は更に撮りどころが満載。

 写真の仕上がりが楽しみですが、ロフトは自分で撮影してきました。

 ヤコブセンデザインのドロップに座れば、南に開けた景色が楽しめます。

 その背面には本専用のニッチ。

 サン=テグジュペリの「星の王子さま」が立てかけられているのです。

 2階バルコニーで干している洗濯物を、急な雨の際に持って入れる室内干しエリア。

 この家の特徴のひとつです。

 ここは洗面と逆で、腰下を水色としました。

 収納スペースの中は可動棚を組み合わせ、PCスペースもあります。

 これは、家具レベルの細やかな大工仕事。

 もっとはっきり言えば、大工仕事の中で、家具を作って貰ったものなので、金額もかなり抑えられているのです。

 ビフォーの写真があまりなく、クライアントのタブレットのバックアップファイルをコピーさせて貰いました。

 「リノベーションに失敗なし」は私の信念です。

 今あるものに、設計料と1千万円以上の工事費をかけさせてもらって、失敗などありえません。

 しかし、それは綿密な調査と、れそれの担当者が、自身の責任を果たすことが絶対条件です。

 クライアントに信頼して貰えるまで考え、描き、仕事好きな監督、職人さえいれば、他は何も必要ないのです。

 少し力が入ってしまいました。

 この当たり前が、だんだん困難な時代になりつつあると思うのは私の思い過ごしでしょうか……

 懸命に働くこと以上に尊い行いはありません。この言葉が通じる国であって欲しいと心から願うのです。

文責:守谷 昌紀

■■■毎日放送『住人十色』4月14日5:00pm~5:30pm
「回遊できる家」放映

■■■『住まいの設計05・06月号』3月20日発売に「回遊できる家」掲載

■■■『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀
ギャラクシーブックスから11月27日出版
amazon <民家・住宅論>で1位になりました

メディア掲載情報

◇一級建築士事務所 アトリエ m◇
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記<</

「どこにもない箱」の家‐1‐プロローグ

 クライアントは、ピアニストとバレエダンサーとそのご両親だ。

 よって、ピアノ練習室とバレエのトレーニングルームがある。それらを中心に、プランは練られた。

 姉妹は、ともに留学も含めて、その才能、技術を磨いてこられた。

 ピアニストのお姉さんはパリで3年間、バレエダンサーの妹さんは、ロシア、イギリス、フランスで。

 本場での勉強、暮らしは、何にも代えがたい経験だろうと思う。

 要望は色々あったが、建物に直喩として取り入れたのが、タイトルとした「どこにもない箱」だった。

 3つのボックスを組み合わせた形状と共に、特徴あるのがその色彩だ。

 白、エメラルドグリーン、グレーを採用したのだが、エメラルドグリーンはパリのオペラ・ガルニエをモチーフとしている。

 屋根は緑青がふいているのが、エメラルドグリーンと映るのだ。

 私が始めて訪れた海外もパリだった。

 1995年、24歳の時のことだが、1番初めに行くなら、やはり芸術の都パリだと思っていたのだ。

 残念ながら、24歳の私は1人でオペラ・ガルニエでオペラを観る勇気がなく、今となっては口惜しい限りである。

 このエメラルドグリーンを、手仕事の塗り壁でどこまで再現できるのか。

 この計画にとって重要なポイントだ。

 「家は家族の未来の幸せの形」だと考えている。

 何を幸せと感じるかは、誰もが違うので、ひとつとして同じ家はない。

 新たに生まれるこの家は、ご家族にとっての原風景となる。

 「どこにもない箱」を実現したいと思うのだ。

文責:守谷 昌紀

■■■毎日放送『住人十色』4月14日5:00pm~5:30pm
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