タグ別アーカイブ: フローリング

「THE LONGING HOUSE 」‐12‐「井戸」のようなもの

 ゴールデンウィーク明けの定例打合せは「The Longing House」からです。

 正面のガラスがようやく全て入りました。

 室内から見るとこのような景色。

 なかなかに開放的な空間ですが、使い方はまた追々。

 LDKの床養生がとれ、ヘリンボーン貼りが見えてきました。

 キッチンとアプローチの配置は、こういった関係にあります。

 リビング階段ではないものの、お母さんと子供が必ず顔を合わせるような動線になっています。

 またこの階段は、2階からの光を落とす役割も担います。

 何か手を打たなければ、このエリアは真っ暗になってしまうのです。

 トイレのタイル貼りも完了。

 後は手洗いの設置を待つのみです。

 こういったアクセントクロスを採用している部屋がいくつかあります。

 こちらはウォークインクローゼットの最奥ですが、輸入物を支給して貰いました。

 服で言うなら、裏地にまで拘っているといった感じでしょうか。

 1階の北端にある和室には、前庭があります。

 この小さな外部が、室内をとても豊かにしてくれるはずです。

 前庭の背景になっているのがPC版の擁壁ですが、建物を守るように敷地南端まで連続しています。

 高低差のある隣地に対して考えたものですが、支柱を建てる際もかなり苦労しました。

 PC版を吊り込むのも一仕事ですが、微調整をするのに現場はさらに知恵を絞りました。 

 まずはジャッキアップ。

 正しい高さになるようかまし物を入れ替えて、今度はジャッキダウン。

 これらの工事の際、地下に水脈があるようでそれなりの水が噴出してきました。

 折角なら非常時に使えるようにしたいという相談を、クライアントから貰っていたのです。

 そして出来上がったものがこれ。

 本格的な井戸を掘ると100万円では納まりませんが、下水道に使われるヒューム管を使い、深い溜め桝のようなものを作りました。

 私も建築会社もその名と通り建築を専門としていますが、今回は小さな土木工事のようでもありました。

 「餅屋は餅屋」という言葉もあります。また「境界線を越えて行ける人が結果を残す」と聞いたこともあります。

 どちらも正しい警句ですが、その間にある答えを模索したのが、この「井戸」のようなものです。

 プロには最大限の敬意を払いますが、高すぎると実現する可能性は減ります。
 
 金額と言う物差しは、常に大きな決定権限を持っていると知る者が職業建築家だと思っています。 

文責:守谷 昌紀

■■■1月27日 『Best of Houzz 2021』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【News】
■12月28日発売『suumoリフォーム(関西版)』にインタビュー記事掲載
■10月23日『homify』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載
■9月11日発売『リフォームデザイン2020』「回遊できる家」掲載

■2017年11月27日ギャラクシーブックスから出版『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀がamazon <民家・住宅論>で1位になりました

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「THE LONGING HOUSE 」‐9‐ヘリンボーンの誘惑

 現場は日々変化していきます。

 こちらの現場では、常時3人の大工が働いてくれているので最も変化が早い。

 と言いたいところですが、実はその反対で……

 その理由は床材です。

 「ヘリンボーン」はニシンの骨と言う意味から来た、フローリングの張り方。

 通常のフローリグは垂直水平が基本ですが、あばら骨ですから基本が45度。

 なんだその程度という事なかれ。

 通常なら2日で終わる床の仕上げ工事が、熟練の棟梁をもってしてもこの日で10日目だそうです。

 かつ、まだ終わっていません。
 

 形状に合わせてカットしたら、裏に木工用ボンドを塗ります。

 貼り付け。

 当て木で叩いて位置を調整。

 そして釘止め。

  ヘリンボーンはその形状上、側面にサネ(材のズレを無くすための出っ張った部分)のない箇所があります。

 そこに、1つ1つ手加工したサネを差し込み、より精度を上げています。

 動画の30秒あたりがその場面です。

 その丁寧な仕事振りが伝わったでしょうか。

 ただ45度と言うだけで、全く基準がないに等しく、削りながらの調整も必須なのです。

 金額的には全く合っていないと監督は嘆いていましたが、人の目は正直です。

 その手跡が、全く違う空間の質を演出してくれるのですから。

 ヘリンボーンの誘惑。

 その誘惑に抗うもよし、誘われるもまたよしなのです。


文責:守谷 昌紀

■■■1月27日 『Best of Houzz 2021』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞

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【News】
■12月28日発売『suumoリフォーム(関西版)』にインタビュー記事掲載
■10月23日『homify』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載
■9月11日発売『リフォームデザイン2020』「回遊できる家」掲載
■5月16日『homify』(英語)の特集記事に「下町のコンクリートCUBE」掲載
■5月10日『Houzz』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載
■4月8日『Sumikata』東急リバブル発行に巻頭インタビュー掲載

■2017年11月27日ギャラクシーブックスから出版『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀がamazon <民家・住宅論>で1位になりました

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「中庭のある無垢な珪藻土の家」‐12‐ エピローグ 有るべきものが有るべき所に

 月曜日に「中庭のある無垢な珪藻土の家」をUPしました。

 私も建築専用のレンズで撮りますが、やはりプロの仕事はプロの仕事です。

 右手の中庭をあわせた構図になっていました。

 何カットもこの方向から撮りましたが、やはり平井さんに撮って貰ったものが一番美しい。

 建物の形状は、敷地から検討して行きました。

 ワールドカップ寸前で、日本代表に返り咲いたサッカーの本田圭佑選手。

 「ゴールはケチャップみたいなもの。出るときはドバドバ出る」言っていましたが、設計も同じかもしれません。

 いくら悩んでも、出てこない時は出てきません。

 この敷地を見せて貰ったあと、すぐにプランのイメージは浮かんできました。

 そこからクライアントと修正を重ね、ここに至ったのですが、くびれの部分が真っすぐだと建ぺい率がオーバーします。

 このくびれの部分に、納戸やトイレの開口部を切り、その形状を強調しています。

 ピンチはいつもチャンスです。

 床は全て無垢の檜で、壁は全て珪藻土です。

 リビングは比較的コンパクトにまとめました。

 軒のある中庭に面しているので、暑すぎず、寒すぎない空間となっているはずです。

 一方、ダイニング、キッチン、家事スペースはゆったりと繋がります。

 特に、キッチンと家事スペースは、何を置くか、どのような視線の抜け方が適切で心地よいか。

 奥さんと入念に打合せしました。

 キッチン南にある、2畳程の和室は現代サッカー用語で言えば、ポリバレントな空間。

 (ポリバレント=複数のポジションをこなせる)

 お子さんのお昼寝、洗濯物を畳む、雨の日の物干しと、最低でも3役はこなしてくれます。

 畳んだ衣類を横の収納に。

 裏側は洗面脱衣室に開いています。

 これらは全て奥さんの勉強のたまものです。

 フルタイムで働く奥さんの仕事部屋にもなるのが家事スペース。

 モザイクタイルに拘った、洗面脱衣と隣り合います。

 エントランスからも檜の階段が続きます。

 2階の寝室とつながるクローゼットは、舳先形状の部分を利用しています。

 写真は引越し前ですが、舳先でご主人と奥さんが半分半分となりました。

 こちらはご主人の書斎。

 そして子供部屋。

 1階にもあった茶色の壁は、マグネットの付く黒板(茶番?)なのです。

 中庭にあるのはLDKのエアコンの室外機です。

 玄関上の庇の下をそのエアコンの配管が走っているのですが、ファサードにこれらの配管を通したことは、過去に一度もありませんでした。

 どうするのが一番美しいだろうかと考えに考え、このような手法をとりました。

 結果として、私たちの引き出しを増やすことになったと思います。

 ゴミ箱のサイズも詳細を聞き、蓋が開いたその上に、ストックのゴミ袋を置くスペースを設けています。

 奥さんからはスケッチまで頂きました。

 有るべきものが、有るべきところにあって欲しい。

 仕事、家事、子育てと、忙しい日々の中で、家族との時間を少しでも捻出するために、あらゆることを効率よくしたい。

 そんな純粋な本気に、いつも応えたいと思うのです。

 夜景は、その建物のシンボリックに見せてくれます。

 夕刻、そのフォルムが浮かび上がり、開口から光が漏れはじめたとき。

 いくつになってもときめくものがあります。

 これにて、「中庭のある無垢な珪藻土の家」の物語はひとまず完結。

 楽しんで頂けたでしょうか。

文責:守谷 昌紀

■■■毎日放送『住人十色』4月14日5:00pm~5:30pm
「回遊できる家」放映

■■■『住まいの設計05・06月号』3月20日発売に「回遊できる家」掲載

■■■『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀
ギャラクシーブックスから11月27日出版
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