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「中庭のある無垢な珪藻土の家」‐12‐ エピローグ 有るべきものが有るべき所に

 月曜日に「中庭のある無垢な珪藻土の家」をUPしました。

 私も建築専用のレンズで撮りますが、やはりプロの仕事はプロの仕事です。

 右手の中庭をあわせた構図になっていました。

 何カットもこの方向から撮りましたが、やはり平井さんに撮って貰ったものが一番美しい。

 建物の形状は、敷地から検討して行きました。

 ワールドカップ寸前で、日本代表に返り咲いたサッカーの本田圭佑選手。

 「ゴールはケチャップみたいなもの。出るときはドバドバ出る」言っていましたが、設計も同じかもしれません。

 いくら悩んでも、出てこない時は出てきません。

 この敷地を見せて貰ったあと、すぐにプランのイメージは浮かんできました。

 そこからクライアントと修正を重ね、ここに至ったのですが、くびれの部分が真っすぐだと建ぺい率がオーバーします。

 このくびれの部分に、納戸やトイレの開口部を切り、その形状を強調しています。

 ピンチはいつもチャンスです。

 床は全て無垢の檜で、壁は全て珪藻土です。

 リビングは比較的コンパクトにまとめました。

 軒のある中庭に面しているので、暑すぎず、寒すぎない空間となっているはずです。

 一方、ダイニング、キッチン、家事スペースはゆったりと繋がります。

 特に、キッチンと家事スペースは、何を置くか、どのような視線の抜け方が適切で心地よいか。

 奥さんと入念に打合せしました。

 キッチン南にある、2畳程の和室は現代サッカー用語で言えば、ポリバレントな空間。

 (ポリバレント=複数のポジションをこなせる)

 お子さんのお昼寝、洗濯物を畳む、雨の日の物干しと、最低でも3役はこなしてくれます。

 畳んだ衣類を横の収納に。

 裏側は洗面脱衣室に開いています。

 これらは全て奥さんの勉強のたまものです。

 フルタイムで働く奥さんの仕事部屋にもなるのが家事スペース。

 モザイクタイルに拘った、洗面脱衣と隣り合います。

 エントランスからも檜の階段が続きます。

 2階の寝室とつながるクローゼットは、舳先形状の部分を利用しています。

 写真は引越し前ですが、舳先でご主人と奥さんが半分半分となりました。

 こちらはご主人の書斎。

 そして子供部屋。

 1階にもあった茶色の壁は、マグネットの付く黒板(茶番?)なのです。

 中庭にあるのはLDKのエアコンの室外機です。

 玄関上の庇の下をそのエアコンの配管が走っているのですが、ファサードにこれらの配管を通したことは、過去に一度もありませんでした。

 どうするのが一番美しいだろうかと考えに考え、このような手法をとりました。

 結果として、私たちの引き出しを増やすことになったと思います。

 ゴミ箱のサイズも詳細を聞き、蓋が開いたその上に、ストックのゴミ袋を置くスペースを設けています。

 奥さんからはスケッチまで頂きました。

 有るべきものが、有るべきところにあって欲しい。

 仕事、家事、子育てと、忙しい日々の中で、家族との時間を少しでも捻出するために、あらゆることを効率よくしたい。

 そんな純粋な本気に、いつも応えたいと思うのです。

 夜景は、その建物のシンボリックに見せてくれます。

 夕刻、そのフォルムが浮かび上がり、開口から光が漏れはじめたとき。

 いくつになってもときめくものがあります。

 これにて、「中庭のある無垢な珪藻土の家」の物語はひとまず完結。

 楽しんで頂けたでしょうか。

文責:守谷 昌紀

■■■毎日放送『住人十色』4月14日5:00pm~5:30pm
「回遊できる家」放映

■■■『住まいの設計05・06月号』3月20日発売に「回遊できる家」掲載

■■■『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀
ギャラクシーブックスから11月27日出版
amazon <民家・住宅論>で1位になりました

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アトリエmの現場日記<</

「中庭のある無垢な珪藻土の家」‐11‐守谷さんに怒られるデ

 「中庭のある無垢な珪藻土の家」の撮影でした。

 竣工は2017年の3月末なので、1年越しの撮影になりました。

 天気がもうひとつで、2度も延期していたのです。

 3度目の正直で、青空に恵まれました。

 撮影中に、中庭のチューリップが満開になるくらい、気温もぐんぐん上昇。春の陽気となったのです。

 この計画のテーマは「不自然でない家」。

 「例えばカロリーゼロって不自然じゃないですか」と言われ、心底納得したものです。

 外壁は、自然な風合いの塗り壁を選択。

 敷地形状、光のとりかた、そして中庭との関係。

 全て必然性をもとめ、模索しました。

 内部の壁は全て珪藻土塗りです。

 自然素材なので当然といえば当然ですが、やはり空間が優しいのです。

 床材も、天然の檜を選んでいますが、これはご主人のこだわりです。

 2階の子供部屋にも南から光が差しこんできます。

 南西角地の長所を存分に引き出したつもりです。

 ちなみに、こげ茶の塗装は全てマグネットペイント。こちらは奥さんのセレクト。

 午後3時にお子さんが帰宅してから、ご家族にも撮影に参加して貰いました。

 熱心にお絵かきをするお姉ちゃん。

 一心不乱に、ショベルカーで遊ぶ弟君。

 人はこれだけ何か打ち込めるのかと感心します。

 弟君は帰ってくるなり、私に向かって「もうショベルカーで壁をガリガリしません!」と宣言してくれました。

 どうやら、壁に落書きをしたりするとお姉ちゃんが「そんなことしたら、守谷さんに怒られるデ!」と言ってくれているようです。

 どんな役回りでも、覚えてくれていたなら、ただただ嬉しい限りです。

 夕景を撮り終えると、夜の7時過ぎになりました。

 ご主人は私の著書も購入して下さり、「サインをしておいて下さいね」と。

 本当に有り難いことです。

 お姉ちゃんは、覚えたての文字でこんな手紙を渡してくれました。

 こんな瞬間があると、全てを忘れて笑顔で帰宅できます。

 そんな場面に立ち会えるよう、年度末に向かってラストスパートを掛けるのです。

文責:守谷 昌紀

■■■毎日放送『住人十色』4月14日5:00pm~5:30pm
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「中庭のある無垢な珪藻土の家」‐10‐何とか引越しの改善策

 昨年の10月末にスタートしたこの計画ですが、ついにというかようやくというか、引越しの朝をむかえました。

 朝一番にのぞきにいくと、中庭のルーバーがまだ施工中。

 職人の人たちに罪はありませんが、何とかお昼までには仕上げてもらいたいところです。

 本格的な荷入れは午後からですが、家具の荷受けにクライアントのお父様が見えていたので、ご挨拶とお詫びを。

 こちらの奥様はとてもお忙しので、家事動線や、空間の使い方を、初めから明確にもっておられました。

それが、最もよく分かるのが、キッチンの並びにある2畳ほどの和室です。

 キッチン立ちながら、お子さんが昼寝をしていても見える位置にあります。

 壁にある扉を開けると、洗面脱衣室に抜ける棚があります。

 こちらには扉がなく、右端に棚が見えています。

 和室側を見返すとこんな感じ。

 これも、何とか日々のくらしを楽しく、効率よくしたいという強い気持ちが、このプランを実現しました。

 洗面脱衣のタイルもそうですが、1階トイレの壁のなかなかかわいいセレクトです。

 この壁が斜行しているのは正面の舳先部分の裏にあるからです。

 2階は寝室部分ですが、舳先裏にクローゼットを配置してあります。

 中に入るとその形がよく分かります。

 サイドのスリットもこの建物の特性を考えデザインしました。

 本当に何とかかんとか、引っ越しを終えてもらいました。

 常にギリギリになってしまうのは、何とか改善してもらわなければと思います。

 改善にむかう動機は反省しかないと思います。

 「あの時、こんな手を打っておけば、もっと早く、精度のよい仕事ができたのでは……」

 言い訳せず、そんな反省の気持ちを持ち続けるしか、進歩の道はありません。

 人は誰しも弱いのです。しかし、奥歯がすり減るくらい歯噛みしたことがある人なら、次こそはと思うのでしょう。

 人生は、後悔、後悔、また後悔。反省、反省、また反省。そして、ちょっと進歩。

 そんな感じだと思います。

 同じ結果でも、その時間軸で評価は全く変わることを、プロは認識しておかなければなりません。

文責:守谷 昌紀

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「中庭のある無垢な珪藻土の家」‐9‐一点を射抜く

 タイトルにあげながら、ここまであまり触れてこなかったのが中庭です。

 外構工事が始まり、ようやく形状が見えてきました。

 LDKへの日差しは遮らず、外部からの目線は切りたい。

 中庭に要求される機能は、多くの場合変わりません。

 外構工事は別というケースもありますが、間違いなく一体のもの。

 「服はコーディネートしますが、帽子と靴は他の人に見てもらってください」とはなりません。

 外部に木製建具をつかわせてもらったのは、1999年の「紫竹の家」以来です。

 庇、シャッターの雨対策。防火設備から外れる位置にもってくるという法規対策。そしてクライアントの熱意が、実現に導いてくれました。

 やはり、木は職人が手加工できるため、こまかなところまで、こだわることができます。

 LDKの床養生もとれ、ようやくあらわれた節無しの檜。

 最後の最後まで、悩んでもらった箇所です。

 もちろん安価ということはなく、最終的にはクライアントが直接webで購入。支給してもらいました。

 階段の1段目にある引出し収納も、総檜づくりで家具職人の力作です。

 キッチン前のカウンターのニッチも、珪藻土が塗りまわされています。

 キッチン横にある和室に日がさしこむと、珪藻土のコテあとがより鮮明になります。

 よい素材や、職人の技量が問われる工事は、やはり金額がはります。

 しかし、クライントはただ安ければよいと思っている訳ではありません。

 素材、大きさ、形状と無限の選択肢があるなかで、最も総合点の高い一点を射抜かなければなりません。

 それが建築設計という仕事です。

 この難しさが面白さに変わったのは、自分の決断にクライアントが心から喜んでくれたときから。

 はじめに勇気、そして決断ありきなのです。

文責:守谷 昌紀

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「中庭のある無垢な珪藻土の家」‐8‐「リスク」か「 可能性」か

月末の引っ越しまで10日をきりました。

現場は、壁仕上げに入っています。

この計画はタイトルにあるとおり、壁は珪藻土塗。

これらは全て左官職人の手で塗りあげられます。

くるっとコテの上にネタを乗せる動きは、やはり職人技。

まずは大きなコテで塗り付けます。

そして、場所にあったコテに持ち替え、仕上げていくのです。


これは、壁と壁が90度でぶつかってくる入隅(いりすみ)を塗るコテ。

出隅(ですみ)なら逆形状のコテを使います。

昔は「ペンキ塗り立て」などの看板をよくみました。

しかし最近では、人の手が出来を左右する仕上げは減る一方なのです。

タイル工事もその部類に入るでしょうか。

洗面台もいい感じに仕上がってきました。

これはマグネットが付く塗料で塗られた子供部屋の壁。

塗料に砂鉄が含まれています。

これらは左官工事と似ていますが、タイル工事、塗装工事と、全て別の業種なのです。

ご夫妻と内部を回りますが、壁をみるだけでも楽しそうです。

自然素材の中で暮らしたいという強い思いが、無垢の床、珪藻土の壁を実現するに至りました。

建物に入った時、いわゆる新築の家の匂いはしません。土の匂いというか、非常に優しいのです。

左官工事、タイル工事、塗装工事と人の手が出来を左右すると書きました。

建築家との家創りも全く同じです。自由がゆえ、互いの考え方がその成否に大きく影響を与えます。

それらをリスクと呼ぶのか、可能性と呼ぶのか。

「可能性」と思った人とだけ仕事をすることになるので、クライアントは皆ポジティブな人ばかり。

課題、問題ももちろん噴出してきますが、基本、現場打合せは楽しいものです。

それは可能性に満ちているからに他ならないのです。

文責:守谷 昌紀

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「中庭のある無垢な珪藻土の家」‐7‐マラソンは終わってからでは走れない

 3月も中旬に入り、ようやく足場が外れました。

 虫も這いだす啓蟄をすぎ、南西からの日差しがファサードを照らします。

 この建物が、街を明るくしてくれるのではと期待します。

 今日はご夫妻に加え、長女さん、奥さんのお母さま、ご主人のご両親と、順に現場へ足を運んでもらいました。

 皆さんに「外壁の表情がいいね」「かわいいお家ね」と喜んでいただき、現場一同嬉しい限りです。

 月末の引っ越しを目指して、内部も活気がでてきました。

 一番奥にキッチンも据え付けられています。

 キッチンの並びにある和室、そしてキッチン後ろにあるワークスペースは、このお家にとって重要な意味をもっています。

 ワークスペースからは、キッチン越しにLDKを見ることができ、洗面、そして和室とつながります。

 和室は、お子さんのお昼寝や、洗濯ものを畳む空間として使えるようにという要望を受けてのものです。

 西側ファサードにあるスリットは、舳先のようになった外壁をより美しく見せるはずです。

 これは、ぎりぎりの建ぺい率をクリアするための苦肉の策でもありました。

 必要は発明の母と言います。

 共働きで忙しいご夫妻にとって、何が最も大切なのかというところから設計を進めて行きました。

 よって、迷いはほぼ無かったと思います。

 今回の打合せが32回目。うち、現場打合せは12回目です。

 昼の1時にスタートして、結局3時半まで屋外での打合せをお願いすることになりました。

 夕方になるとやはり冷え込んできます。

 それでも、打合せに付き合ってもらえるのは、クライアントが本気だからに他なりません。

 次回打合せが、概ね最終打合せになるでしょうか。

 マラソンは試合が終わってからでは走れません。

 走るなら今。

 自分達にも、現場にも、同じ言葉をかけるしかできないのです。

文責:守谷 昌紀

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「中庭のある無垢な珪藻土の家」‐6‐現場訪問大歓迎

 暦の上では春ですが、やはり寒い日が続きます。

 大人でも寒いので、お子さんはなお寒いはず。

 この日は、お子さん2人とご両親、ご兄妹も遊びにきてきくれました。

 現場で2時間も、3時間もご夫妻を拘束するので、その間の子守りも含めて、皆さんで遊びにきてくれたのです。

 テンションの上がった3歳のお姉ちゃんは、かなり薄着でした。

 やはり子供は風の子でした。

 ハシゴを降りる時は、おじいちゃんの抱っこで。

 1歳半の弟君は、お母さんの抱っこで。

 何とも幸せそうな笑顔です。

 そして、姪っ子さんも遊びにきてくれました。

 仲良し女の子組は、記念に壁へお絵かきしてもらいました。

 壁内で見えなくなりますが、ここい確かに成長の手跡が残っています。

 これはスタッフの田辺さんからのプレゼント。

 断熱材で出来たお人形です。

 私達が一番お会いするのは、クライアントであるご夫妻です。

 クライアントのご両親からすれば、お子さん、お孫さんが暮らす家が、どんなものになるのか、期待半分、不安半分だと思います。

 私達、また施工会社への思いも、期待半分、不安半分。

 もう少し正直に言えば、不安のほうが大きいと思います。

 知らない、分からないは、不安を大きくこそすれ、信用側には転びません。

 不安を小さくする、解消する方法は1つだけ。お会いする、みていただく。これに尽きるのです。

 よって、どんな時でも現場訪問は大歓迎なのです。

 お孫さんを抱っこするおじいちゃん。これ程微笑ましい光景は、そうありません。

 家創りは、親族をあげてのまさに総力戦なのです。

文責:守谷 昌紀

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