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築80年の長屋を「碧の家 」に〈リノベーション〉‐12‐人は思い出にも、過去にも生きる

 本日、「碧の家」をwebサイトにUPしました。

 大阪の下町にある四軒長屋の一住戸を、フルリノベーションした計画です。

 サブタイトルは「 100年を紡ぐ物語」としました。

 これは、現場日記の第2回目のタイトルでもあります。

 昭和10年代に建てられたこの長屋に、ご家族は越してこられました。

 お父様は残念ながら早世されてしまい、皆さんでこの家を守ってこられたのです。

 解体の途中、床下からでてきた火鉢は、掘り炬燵の底にあったものだろうということでした。

 昭和初期の暮らしが、目の前に活き活きと蘇ってきます。

 100年前、人は家の中でも火で暖を取っていたのです。

 リノベーションブームと言って良いほど、この言葉を頻繁に聞くようになりました。

 「価値を高める」という意味ですが、古いものの価値が低いなどということは全くありません。

 人は思い出に中にも、過去にも生きます。

 創り手は、そこをよく理解していないと、ただ封をするような仕事をしてしまうのだと思うのです。

 特定の何かを非難したい訳ではありませんが、リノベーションは新築を目指すものではありません。

 オーダーが古建築の改修ならその仕事を全うしますし、新たな価値を求めたいと言われればそれを目指します。

 私たちの仕事は、クラアイアントの幸せを実現する為にあるのですから。

 その要望にどこまで応えられたのかは、分かりませんが、真っすぐに取り組んで来たつもりではあります。

 1階の階段は反対向きに付け替えました。

 奥にある、お母様の寝室に少しでも光を届けるためです。

 階段上にあるトップライトが、その価値を高めてくれます。

 奥にあった外部通路を、通り庭と解釈しました。

 横にあるトイレは、思い切った色使いになっています。

 トランプと不思議の国のアリスの物語がここに織り込まれているのです。

 通り庭をはさんである洗面・脱衣室。

 トップライトの光が落ちてきますが、お母様の寝室にも漏れ落ちるようになっています。

 長屋の北側を、どうすれば心地よい空間にできるか。

 「住之江の長屋」、「阿倍野の長屋」と、そして「碧の家」と、様々なトライをしてきました。

 2階寝室の写真を、この計画のメインカットとしました。

 ロフトに続くこの部屋は客間。

 親族が見えた時に泊まって頂く空間です。

 そこには、100年に渡ってこの家を支えてきた梁があります。

 色を塗るのではなく、汚れを丁寧に落として貰いました。

 これは監督からの提案でした。

 「折角なら、色を付けるのでなく垢を落としてあげましょう」という考えです。

 色を付けるより余程手間のかかる仕事で、物に対する敬意がなければ出てこない考えです。

 一も二もなく賛成しました。

 「作品」という言葉は、良い意味でも、悪い意味でも使われます。

 創り手のエゴを含んだ言葉として使われる場合が校後者でしょうか。

 「商品に魂を込めれば作品となる」

 私はこの言葉を支持したいし、信じています。

文責:守谷 昌紀

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築80年の長屋を「碧の家 」に〈リノベーション〉‐9‐あと一歩

 2017年も間もなく12月に入ります。

 引越しを間近に迎え、「碧の家」も追い込み段階に。

 玄関横の自転車置場スペースの屋根が出来上がってきました。

 1階ダイニングスペースから奥にみえるのは通り庭。

 ここは、最後の最後にチョコレート色と白のタイル貼りへと変更になりました。

 ダイニングからエントランスを見返すと、追い込み感が伝わるでしょうか。

 階段を上がると、2階の中央は客間を兼ねた空間です。

 奥にある、南に面した部屋は主寝室。

 収納の一部をパソコンスペースとしました。

 南面する窓の下枠を大きくし、碧にしています。小さなカウンターのイメージです。

 チェアは今回購入した、アイブルーのセブンチェア。

 階段横にあるハシゴでロフトに上がります。

 このハシゴのディティールもかなりこだわりました。

 建物すべてで碧がテーマになっている通り、ロフトにも碧。

 ここから南の空を望めるのです。

 設計を始めるとき、「今回の計画で、必ず叶えたいことは何でしょうか」と尋ねます。

 その中に「月を見ながらくつろげる、勉強できる」がありました。ロフトはそれを具現化したものです。

 建築は未来の幸せの形。

 の実現まであと一歩のところまでやってきました。

文責:守谷 昌紀

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築80年の長屋を「碧の家 」に〈リノベーション〉‐6‐トランプとうさぎ

 現場の写真を撮る私にとって、青空は最高のキャンパスです。

 やはり快晴が最も気持ちのよいもの。

 養生シートの後ろに、碧の壁が透けてみえるでしょうか。

 外壁工事も、着々と進んでいます。

 玄関ドアもつき、エントランス部分の空間が出来上がってきました。

 軒先の碧も見えます。

 エントランス右側の外部は、屋根を設けて自転車置場となります。

 この日は、内部仕上の確認でした。

 様々な色がでてくるので、それらをクライアント、監督と全て整理しました。

 2階にあるニッチですが、ああでもない、こうでもないと詰めています。

 この細かな打合せが、空間の質へと反映されるはずです。

 この計画には多くの施主支給品があります。

 これらは、スペイン旅行の際に買ったという室名札。上がトイレで、下が浴室だそうです。

 スチール枠の中にタイルが入っていますが、1点物なので、壊したらバルセロナまで買いに行かなければなりません。

 監督も緊張感をもって養生していました。

 黒いスチール製のウサギは、ある有る部分に使う金物です。

 これも施主支給してもらいました。

 そしてこれは私がつくったデータ。

 まだ検討中ですが、これらはある空間において一連の物語となっています。

 表現には、暗喩と直喩があります。

 空間は語らないので暗喩が多いのですが、これはまさに直喩。

 しかし直喩だからといって簡単には紐解けないかもしれません。

 訪問された方が、立ち止まってくれると嬉しいのですが。

文責:守谷 昌紀

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アトリエmの現場日

築80年の長屋を「碧の家 」に〈リノベーション〉‐5‐アドリブあってこそ

 屋根工事も終わり、内装工事が本格化してきました。

 2階屋根裏に隠れていた小屋梁が見えています。

 最近なら、自然木の形状をそのまま使うことはないので、なかなかの存在感です。

 この梁の反対側は階段室。

 その上部にあるのがロフトです。

 ロフトではハイサイド、階段室はトップライトを採用しました。

 長屋であったり、密集した市街地ではトップライトの力を借りることが多々あります。

 この窓が、階段を通して1階のリビングに光を届けてくれるでしょう。

 この日は、照明やスイッチコンセントの位置決めでした。

 クライアントお気に入りのブラケット照明です。

 ご自身にも、動き方を確認してもらい、綿密に位置を決めました。

 壁にあてがっているのは、壁紙がラミネートされたもの。

 A4ほどのサンプルをお渡ししましたが、全てラミネートして持ってきてくれたのです。

 基本は青森ヒバの無垢フローリングに、白い壁ですが、ポイントポイントに「碧」を中心とした色を取り入れました。

 それらを現場で確認しやすいよう、また汚れないようにラミネートして持ってきてくれたのです。

 ここまで大切にしてもらったなら、サンプルも浮かばれるというものです。

 ちょっと感激しました。

 リノベーションは、元の躯体と新たな部材のジャムセッションです。

 建築現場においても、クライアント、設計者、施工者のジャムセッションといえます。

 私はこの仕事を20年以上続けてきたので、失敗のない選択肢なら、確実に提案できます。

 しかし、完成した建物で、ここは素敵だなと思った部分は、そのような箇所ではありません。

 セオリーなら選ばないような選択肢を、クライアントがとても好きだと言ったとします。

 初めからは選ばないが、駄目だという明確な理由もない。

 よくよくイメージしてみると、案外いいかもしれない。トライしてみるか。そんな箇所なのです。

 全てがアドリブなら曲は成立しませんが、ところどころにそのような遊びや物語りが織り込まれているよほうがよい思うようになりました。

 さて、このアドリブはうまく曲のに乗るのか。

 私も楽しみにしているといえば、無責任に聞こえるでしょうか。

文責:守谷 昌紀

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築80年の長屋を「碧の家 」に〈リノベーション〉‐4‐「あお」は希望の色

 打合せに向かうと、クライアントの車が現場の前に。

 後ろに、碧(あお)の屋根材が立てかけてあります。

 赤と補色の関係にあるのは緑ですが、それに負けず劣らず、コントラストがとても美しいのです。

 「碧」は深い青や、青緑、光り輝く青など、様々な意味を持ちます。

 「紺碧(こんぺき)の海」という表現が一番よくつかわれるものでしょうか。

 2階窓の腰から上が全て碧に葺かれた景色がとても楽しみです。

 玄関を入ると、内部は随分すっきりしてきました。

 1階を担当するのは親子大工。息子さんは、設計事務所も開設しているそう。

 最奥、トイレの横にあるのは中庭です。

 この僅かな外部が暮らしに潤いを与えるのです。

 前時代なら、トイレや浴室は建物から出来るだけ孤立する状態でなければ、衛生を保てなかったという逆側からの理由もあります。

 それらが、長屋の中庭文化を引き継がせてきたとも言えるのです。

 2階のロフトもさらに工事が進んでいました。

 ハシゴで登り、外をのぞくと碧の屋根がほぼ出来上がっていました。

 建築家・白井晟一の最後の作品を訪れたのは2012年の2月でした。

 1983年、78歳時の最後の作品で、「生前から最も好きだった色、ペルシアンブルーのタイルに挑戦したのでは」とお孫さんは語っていました。

 白井晟一ほどの巨匠が、そこまで慎重だったことに驚き、また納得もします。

 それにしても青は「希望」の色とはよく言ったものだ。

 彼はエッセイでこう語っています。

 私もクライアントの希望を現実とする碧だと確信しているのです。

文責:守谷 昌紀

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