「滋賀の家」‐1‐プロローグ

 2013年も1ヵ月を切りました。電話があったのは3月下旬のこと。

 滋賀県で住宅の新築を考えているという相談でした。

 普段の流れとして、まずは事務所で話しを聞かせて貰います。そして、求めあえる可能性があると感じられれば、次の段階へ進みます。

 これは自分で作ったルールですが、今回はまず伺いました。理由の一つは遠いこと。もう一つの理由は、それ以上に敷地を見てみたいと思ったから。
 
 元城だったそうなのです。

 始めて訪れた時は、梅が咲いていました。しかし、スタートしてから、次々に課題が出てきます。

 まずは市街化調整区域であること。この城は、この場所500年以上存在しているよう。

 それが、後に地図上に引かれたラインによって、次々に規制が出てくることを、納得してくれるクライアントは居ません。

 行政の立場上、そう言わざる得ないのは分りますが「市街化調整区域に建物は建ててほしくない」という言葉をどう伝えればいいのか……

 思い出すと愚痴しか出てきませんが、最終的には行政の担当者も協力の上、何とか母屋を建て替える計画で、進むことになりました。

 山を背にした敷地は、背後に土塁がめぐらされています。高さ5mはあるでしょうか。

 正面には堀があり、合せてこの敷地を守ってきたです。

 この夏まで、堀には鯉が住んでいまいた。しかし、この地域を襲った秋の豪雨で土砂が流入。全滅したそうです。

 自然は過酷で、社会も過酷です。

 この地を守るという強い意思がなければ、この地が脈々と受け継がれることは無かったでしょう。クライアントもさぞかしと思いきや……以外にもさっぱりした方なのです。

 しかし私としては、ご先祖様に顔向け出来るよう、これからも受け継いで行きたいという家を設計しなければなりません。

 次の夏には、建物の奥深くまで光が届く、眺めの良い家がここに建っている予定です。

文責:守谷 昌紀

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