カテゴリー別アーカイブ: C56 築80年の長屋を「碧の家 」に〈リノベーション〉

築80年の長屋を「碧の家 」に〈リノベーション〉‐3‐最後は勘

 梅雨が明け、「碧の家 」も屋根工事が始まりました。

 クライアントからの現場レポートで、屋根瓦を降ろす写真が届きました。

 これが鬼瓦。

 中央は家紋をいれることもあります。

 これだけ工事に興味を持ってもらえると、現場の士気も間違いなく上がるはずです。

 今日現場へいくと、屋根下地の工事がほぼ終わっていました。

 左上にロフトの窓が見えています。

 1階のダイニング・キッチンから見返すと、右が玄関で左がキッチン。

 キッチンエリアは天井高さを上げるため、構造体からやり替えています。

 反対の建物1番奥には中庭があります。

 そこにトイレ部分が突き出しているのですが、これも天井高さを上げるため、基礎からやりなおすことにしました。

 リノベーションは既存の構造体をできるだけ活かし、足らずのところに新たな構造体を加えていきます。

 しかし解体してみて、予想以上に遣り替えが必要な部分もやはりでてきます。

 それらをなんとか現場でやり繰りするには、監督、大工など、現場チームの「良いものにしたい」という気持ちが大切です。

 そういう意味では、誰に仕事をしてもらうかはとても重要なのです。

 正面からみえていた、2階のロフト部分。

 かなりの高さですが、クライアントにハシゴで登ってもらいました。

 その眺めのよさに、「PLの花火が見えるかも」と歓声まであげてもらいました。

 建築を設計するのが建築設計ですが、それはあくまで物を中心にした考え方です。

 そこに立った人の目に映る風景を設計することこそが、本来の目的なのです。

 まだないものを想像することを生業にして四半世紀。

 根拠にしているのは、高さ、方角、寸法など、いわゆる数字ですが、最後はそれら全てを合わせた勘です。

 これを書いてしまって大丈夫なのか心配ですが、本当のことなのです。

文責:守谷 昌紀

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築80年の長屋を「碧の家 」に〈リノベーション〉‐2‐100年を紡ぐ物語り

 「碧の家 」の近所は、現在建築ラッシュです。

 基本的に閑静な住宅街なのですが、半径20m内に4件の建築現場があります。

 まさに現場銀座。

 工事中、クライアントは近くの賃貸マンションで暮らします。

 通勤前、ほぼ毎日現場に顔をだしてくれるそうです。

 そして、時々私に写真を送ってくれるのです。

 土間コンクリートの打設が終わったので、この日は現場打合せとしました。

 思いのほかしっかりした梁が残っていたり、屋根裏の空間が大きかったり。

 リノベーションは現場での対応力が全てです。

 ここから施工会社と詳細を詰めていきます。

 エントランスは南向きにあり、2階窓からも質のよい光が入ってきます。

 壁の無い状態は、高い位置から光が差し、まるで教会建築のような美しさがあるのです。

 解体前、床下は土でした。

 床下の防湿対策をしていないと、どうしても床板が柔らかくなってしまいます。

 耐震補強も兼ねて土間コンクリートを打つのですが、床下から面白いものがでてきました。

 火鉢です。

 私より一回り上の監督は、「掘りごたつの底に埋め込んだのでしょうねえ」と。

 クライアントのお母さんも「知らなかった」とのことなので、以前の住人がこうして暖をとっていたようです。

 昭和10年代から20年代、市井の人々の暮らしがイメージできる瞬間です。

 キッチンの出窓に工具箱が置いてありました。

 これは、クライアントが若い頃に亡くなった、お父さまのもの。

 引越しの際に処分するつもりだったのが、「便利なので使わせてもらっています」と監督が残しておいたそうです。

 クライアントから「 ほら工具箱役にたつやろぅと、天国の父の声が聞こえるようです。父親も家作りに一役かってるようです」とメールを貰いました。

 もし、物創りの過程に意味がないとしたら、人がここまで物に愛情を注ぐことはないと思います。

 リノベーションとはその過程を紡ぐことと考えるなら、「碧の家」は100年を超える物語りをもつことになります。

 それは創り手としても嬉しいことだし、天国のお父さまもきっと喜んでくれるに違いないと思うのです。

文責:守谷 昌紀

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築80年の長屋を「碧の家 」に〈リノベーション〉‐1‐プロローグ

 敷地は上町台地の西端に位置する。

 海からの玄関口でもあり、早くから多くの人々が居住していた。

 古くからの住人が多く、クライアントはご近所とお互いの家の鍵を持ちあっていたという。

 今回は、昭和10年代に建った四軒長屋の1住戸をフルリノベーションする計画だ。

 まずは内部壁の撤去から工事は始まる。

 この年代の階段の角度はかなり急だ。

 後ろの柱をみると柱2本分、1間(約1.8m)で登りきっていることが分かる。

 私が設計するなら、3mほどかけて登りきるので倍近い勾配となっている。

 1階はLDKと水回り、そして個室が1部屋。

 2階は個室、客間が1部屋ずつとなるのだが、奥の腰窓の外にバルコニーがある。

 ここが洗濯干場となっていたのだがクライアントのお母様は、踏み台を置いて外にでていたそうだ。

 バルコニーは後付けなので、やむを得ないとも言えるが、こういった上下移動の障害がリノベーションの動機になることは多い。

 人は重力には抗えないのだ。

 瓦屋根の下に隠れる空間は、やはり大きく気持ちよい。

 よく見ると、野地板の上には檜皮が敷かれているのか。

 クライアントは、まとまった休みにあちこちと海外へ出掛ける。

 特に北欧が好きだという。その中でも青に惹かれるというのだ。

 青というのは奥行きの深い色だ。この計画が目指すのは「碧(あお)の家」。

 テーマカラーとなった濃い青が随所にちりばめられている。

 設計期間1年8ヶ月。

 この秋には、醸成された「碧(あお)の家」を見てもらうことができると思う。

文責:守谷 昌紀

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