「四丁目の家」-10-棟上げ、東京の下町にて

 日曜日は朝一番の新幹線で東京駅へ。

 そのまま地下鉄に乗り換え、現場へ向かいました。

 詳細な模型も作りますが、実際の構造体を見るのは初めて。

 私にとってもファーストコンタクトです。

 まずの印象は「大きい」です。

 前日が建て方だったので、大きな木槌が残っていました。

 2階にも上がってきました。

 休日、人のいないの現場に入るのは、最高に気分がいいのです。
 
 南側は間口いっぱいの一室空間。

 数字以上の広さを確信しました。

 「布団は、バルコニーに思いきり広げて干したい!」が奥さんの要望。

 木造なので、どれだけ張り出せるかと、屋根の形状には特に注意しました。

 現場を見た後、近くにあるクライアントの自宅で打合せ。

 都内のマンションなので、ある程度の狭さをイメージしていたのですが、1階で庭付きなのです。

 しかも広い。

 奥の菜園は奥さんのお父さん作。

 「四丁目の家」では1階に住まれます。

 今は、キュウリ、ナスの季節。

 トマトもそろそろ赤くなり始めていました。

 何とか、鳥や小動物に食べて貰おうと、美味しくなろうと野菜は進化してきました。

 少しでも離れた所に、糞の中にある種が運ばれるとその種は繁栄します。

 自分では動けない分、植物はとても純粋と言えるのです。

 建築も同じく動けないもの。

 動けない、変われないからこそ、特にに純粋であらねばならないと思うのです。

 何に対して純粋か。それは、住まい手の幸せ。
 
文責:守谷 昌紀

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「サンルームと吹抜のある家」-2-地鎮祭

 地鎮祭も色々な催し方があります。

 今回は、神主さんに来て頂きました。

 私が着いた時には、すでに立派な祭壇が出来上がっていました。

 四方払い。

 続いて私の仕事。

 「エイ、エイエイ」の掛け声で、刈り初めの儀。

 穿初(うがちぞめ)の儀は、クライアントが鋤(すき)を入れ。

 施工者が鍬(くわ)を入れます。

 式典は滞りなく終わりました。

 クライアントは小学生の頃、すぐ近所に住んでいました。

 一学年下でしたが、ソフトボールではバッテリーを組んでいたこともあります。

 お兄さんは私の一つ上の学年で、今でもあだ名で呼ばれます。

 必然的に、参列者も顔を知っている人の比率が高く……

 乾杯の発声が回ってくることがあるので、どんな話しをしようか考えていたのです。

 しかし、神主さんが流れの中で進めてくれました。

 いらぬ心配だったのです。

文責:守谷 昌紀

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「サンルームと吹抜のある家」-1-プロローグ

 大阪市東住吉区は、大阪を北に貫く上町台地の付け根にあたる。

 すぐ近くには古墳跡もあり、この敷地も文化財包蔵地域に指定されていた。

 大阪平野の中でも、早くから人が暮らしていたことが想像できる。

 近所には、なかなかの賑わいを見せる商店街がある。

 この商店街受難の時代に、頼もしい限りだ。

 ケーキ屋、魚屋、肉屋と安くて美味しいという評判の店も多い。

 暮らす便利さと賑わいを併せ持つ、大変魅力的な街だと分かるのである。

 敷地は、市内としてはかなり大きめ。奥行きもある。

 その形状を利用し、サンルームと吹抜けを中心に構成した。もうひとつ、大きな特徴がある。これが玄関。

 これはまた追って書いて行きたいと思う。

 いつもそうだが、今回も新たなチャレンジがある。

 今までの作品にない愛しい住宅になるはずだ。

 竣工は11月中旬。

 週末の地鎮祭後、本格的に工事はスタートする。

文責:守谷 昌紀

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「Shabby House」-28-撮影とハイボール

今週の月曜日、「Shabby House」の写真撮影に行ってきました。

前日の昼からかなり降って来ましたが、何とか晴れ。

今回は、写真家に撮って貰うので、そのサポートが主な仕事です。

ここにUPするのは合間に撮ったディティール写真ですが、外観がないと何か様にならないので載せてみます。

玄関脇にはベンチが増えていましたた。

100年以上は経っている玄関ドアと濃淡で映えています。

このあたりのこだわりは、生半可なものではありません。

酒部屋の撮影は、夜になりました。

外光が入ってこないほうが良いとの判断からです。

この選択肢は私には全くないもの。出来上がりが楽しみです。

1階は主に来客用の部屋。

建具を引き出せば、間仕切れるようになっています。

一年で、最も日の長い時期です。

全ての撮影が終わったのは8時過ぎでした。

そのあと、夕食に誘って貰いました。

オーブンで焼かれるミートパイ。

さっきまで火に掛かっていたパエリア。

もう見ての通り。ビールまで頂き、幸せな時間でした。

ご主人の希望は、ほぼ酒部屋だけ。勿論お酒が大好きです。

この日は、角ビンでハイボールを作ってくれました。

「黄金比があるんですよ」の言葉通り、とても飲みやすく、最高に美味しかったのです。

正直に言って、ウィスキーを心から美味しいと思ったのは、初めてでした。

「ここは人をもてなすあばら家です」とはご主人の弁。

来客が増え、娘さんが初対面の人と打ち解けるのが早くなったと、教えてくれました。

今ここにある、普通の幸せ。

そんな言葉に、偽りのない仕事をしたいと思うのです。

文責:守谷 昌紀

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「頑張れる家(イタウバハウス)」-20-取材

 『SUMAInoSEKKEI』の取材が、日曜日の10:30amからありました。

 編集長、ライター、写真家と近くの駅で待ち合わせ、すぐに現地へ。

 昼すぎから雨の予報だったので、挨拶もそこそこに撮影が始まります。

 まずは外観と家族写真。

 カメラマンは結構若く気さくな人でした。

 今まで会った写真家は、どちらかと言うと職人肌の人が多かったでしょうか。

 「ご主人!もっとくつろいで下さ~い」みたいなリクエストもあったりして、緩やかな感じで撮影は進みます。

 一番のお兄ちゃんは、ルーバーを登ってくれたそうで「とてもいい絵になった」と聞いたのです。

 私は編集長と話をしており見れなかったのですが、おそらく採用のされるでしょう。

 ライターの方も、今回で3回目。取材は私へもあります。

 撮影の邪魔にならないよう、ライター、編集長と階段で話します。 

 初めて竣工写真を撮って貰った時、ベテラン写真家に「コンセプトが一番大事」と言われました。

 その時は「建築の出来上がりが一番大切だろう」と思っていました。

 取材されて分かります。「何故こうなったのか」「どんな工夫をしたのか」などの質問に、スッと答えられないようではプロ失格です。

 仕事に大切なのは永続性。環境や偶然に頼っているのでは、確実性がでません。

 その際、通常行うコストダウンの進め方に、2人とも驚いていました。

 これは紆余曲折を経て現在の形に至ったものです。魔法のような方法ではありませんが、クライアントが納得出来る唯一の方法とも思っています。

 今回はこの家が誕生するストーリーに注目した記事になりそうです。これらの方法も含めて、全金額が公開された記事になります。

 掲載は9月21日発売号です。またお知らせします。

文責:守谷 昌紀

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「四丁目の家」-9-私が現場で見るところ

 梅雨にしては、雨の日は少なめ。

 しかし降る時はまとまって、というのが近年の傾向と言えます。現場は若干の遅れが出ていますが、先週配筋検査が終わりました。

 6月4日(土)に捨てコンの打設が終了。

 捨コンとは基礎のコンクリートの下に打つコンクリート。

 現場には行けていないのですが、写真を見ると人力による打設です。

 コンクリートを撹拌しながら運ぶミキサー車と、それを打設するポンプ車が必要ですが、道が狭いので人力になったようです。

 昔はこの一輪車(ねこ車)をあちこで見たものです。

 捨コンが固まれば、その上に基礎の鉄筋を組んで行きます。

 設計図書に記載されている直径の鉄筋が、既定の本数入っているかなどをチェックするのが配筋検査です。

 一昨年の秋、全ての新築住宅に住宅瑕疵保険への加入が義務付けられました。

 主に構造体の安全と、雨漏りに対して10年間の保証を義務付けたものですが、6月10日(金)はその中間検査でした。

 もちろん問題なく合格。

 鉄筋は細い針金で緊結します。それらが下に落ちていたり、ゴミが落ちていたりするのは駄目な現場です。

 仕事にとって大切なことは沢山ありますが、もし1つ上げるなら「整理整頓」でしょうか。言葉は定義が大切です。

 【整理】⇒ 要不要を区分けし、不要なものを処分すること。
 
 【整頓】⇒ 理にかなった配置にすること。

 子供の頃から言われて続けたことですが、建築現場に置いても全く同じです。必要なものだけが機能的に配置されている現場なら、ミスが起こる確率は最小値まで下がるはずです。

 私が現場監理に行った時、注意するのはもう一点。「最も面倒な箇所に十分注意が行き届いているか」です。

 専門の知識がなくても、大概のことはこれで分かると思っています。難しい事は出来るが、簡単なことはしない事など、あり得ないのです。

文責:守谷 昌紀

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「四丁目の家」-8-根切と根切り

 先月末から、掘方が始まりました。

 今年の梅雨入りは特別早く、やや気にはなります。

 現場では根切が始まりました。

 この写真はクライアンより。携帯で送ってくれたのです。

 距離が離れているので、写真を見ると安心できます。

 監督にも催促しようと思っていると、届きました。まさに以心伝心。

 根切が終わり、砕石を敷いているところ。

 「根切り」でなく「根切」。

 建築用語は、送り仮名を出来るだけ省く風習があります。

 読み違いなどを無くす、知恵だったと思いまが、他にも色々な専門用語があります。

 これが代用のきかない言葉なら当たり前なのですが、そうでもないのです。

 また敷地が「バチッている」といえば『直角がでていない』ことを指します。漢字の八から来ているのです。

 また「矩手(かねて)」もしくは「矩の手(かねのて)」という言葉も良く使います。直角を意味し「矩が出ていない」というと『直角が出ていない』を意味します。

 25歳で独立した私は、現場経験が少なかったこともあり、何故「直角と言わないんだろう」とか「斜めになっているでいいんじゃないか」とか思っていました。

 しかし、今その意味が分かる気がします。

 世間では「直角」という言葉に変わって行っても、建築現場でそれが変わらなかった。それだけ重要だったからだと思います。

 直角が出ていない根切など、何の意味も持ちません。目指していなければ別ですが。  

 瞬くまに15年が過ぎました。若者に「みつけ」と言うのは……などと教えているのです。
 
文責:守谷 昌紀

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「頑張れる家(イタウバハウス)」-19-第3子誕生

 計画中「頑張れる家」と呼んでいたこの計画。

 現在「イタウバハウス」となり、webサイトにもUPしています。

 正面を覆うルーバーが「イタウバ」という木です。

 竣工から5カ月。良い感じに色褪せてきました。

 この木製ルーバーに塗装をせず、自然に色褪せて貰うのも、重要なコンセプトなのです。

 前庭に植えたジューンベリーの葉も青々と葉を付けていました。

 先日、第3子が誕生したとお聞きし、ご夫妻に会いに行って来たのです。

 着工したのが昨年の8月。上棟式が終わってすぐの10月中頃、ご懐妊が分かりました。

 3階の子供部屋は、将来2部屋に分割出来るよう計画していました。

 「今から3部屋に分割出来るよう、窓を配置することは可能ですか」と、ご主人から連絡があったのがこの頃。

 すぐに施工会社へ連絡すると「まだ大丈夫」と。

 大げさに言えば、ハプニングとトラブルこそが家づくりの本質です。それらが物語に味付けをしてくれるのです。

 喜び勇んで、すぐに立面と窓の関係を検討し直したのです。

 お子さんが熟睡していたので小一時間程お話しをしていました。

 夜も良く寝てくれるとても賢い男の子は、帰る前に元気な泣き声も聞かせてくれました。

 小さい頃、近所のおばさんが「赤ちゃんは泣くのが仕事」と繰り返し言っていた事を思い出しました。

 ジューンベリーはその名通り、6月を前に赤い実をつけていました。

 美味しいと聞いていたのですが、期待させるに十分な色あい。これは鳥も狙っているでしょう。

 もうすぐ生まれるかなと思っていた頃、住宅雑誌の編集長から連絡がありました。

 これこれの特集で「イタウバハスウス」を取り上げてくれるとの事で、そのオファーで誕生が分かったのです。

 ご家族には負担を掛けることになりますが、快くOKして貰いました。むしろ楽しみにしていると。

 候補日は2日、決まり次第夫妻に連絡します。 

文責:守谷 昌紀

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「四丁目の家」-7-手作りでする地鎮祭

 昨日は朝一番の新幹線に乗って東京へ。

 まず施工会社の事務所へ向かいました。

 東京駅から御茶ノ水までは地下鉄で3駅。

 地鎮祭までの時間を使って、電気設備、水道設備の工事担当者、そして現場監督、社長と初回打合せです。

 2時間では時間が足らず課題は残りましたが、内容ある打合せでした。

 そのまま現場までは車で30分ほど。

 雨模様の中、地鎮祭の準備が進められます。

 かなり激しく降っていたのですが、クライアントの到着と同時にピタリと上がりました。
 
 今回は手作りの地鎮祭ですが、こちらの施工会社はカマ、クワ、スキを持っているのです。

 自社でこれらを持っているのは初めて聞きました。

 まずは私がカマで忌み草を刈り取ります。

 親世帯のご主人にクワをいれて貰います。

 こちらのお家は二世帯住宅なのです。

 形にはこだわらないので、皆さんもいかがですかと社長。
 
 皆さんにも順に手伝って貰うことに。

 まずは子世帯のご主人。

 次に奥さん。

 一番上のお姉ちゃんは小学4年生。 

 2番目のお姉ちゃんは小学2年生。

 一番下の妹さんは、ちょっと恥ずかしくて辞退。

 その後、四隅にお神酒をまき、最後に乾杯。

 何とか天気も持ち、無事式典は終了しました。

 その後、ご自宅に伺い打合せに。

 当たり前の事ですが、私は工事中の追加金額をださない事に、こだわり仕事をしてきました。
 
 しかし、午前中の打合せで議題に上がったのは、やはり震災の影響による資材不足、資材の高騰の話。

 金額、納期が全く読めない物も結構あるという話でした。

 まずは最悪の場合を想定し、施工会社の社長から現状を報告して貰います。
 
 その上で、さらに削減出来るところがないか、代替品はないかを探し、出来る限り追加を出さないよう、全力であたるとお伝えしたのです。
 
 本音を言えば、最終的には何とかなると思っています。

 これから全てが改善する方向に動くでしょうし、国民の総意として「何とかしないと」という気持ちがある以上、驚くべき速さで復興、正常化は進むと思います。
 

 それ程、人の意思は大きな力を持っていると思うのです。

 現場へ直接行ける回数は、残すところ6回。時間を惜しんで現場、人と関わって行きたいと思います。

文責:守谷 昌紀

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「四丁目の家」-6-さあ再開!

 前回「四丁目の家」の現場日記を書いたのが2月15日。

 東京は大雪でしたが解体も終え、3月の地鎮祭を待つのみとなっていました。

 敷地はきれいに整地され、いよいよと言う時……

 合板、断熱材をはじめとする、建築資材の不足は大きな問題です。

 しかし何時までも立ち止まっている訳にはいきません。

 まだ余震が続く中、自粛ムードもありますが今週の土曜日、地鎮祭をとりおこなう事になりました。
 
 地鎮祭は、土地の神様を鎮め、工事の安全を願うもの。これだけ多くの命、街が失われたいまこそ、最も大切な儀式と言えます。

 建築と都市に係わる仕事をしていて「今頑張らずしていつ頑張るのか」と思ったのは今回で2回目です。1度目は16年前の阪神・淡路大震災の時でした。

 当時はこの世界に入って1年目。建築に携わっているのもも関わらず、その無力さを痛感したのです。しかし、今なら出来ることがあります。

 頑丈で、人類の幸せに真っ直ぐつながる建築を作る。

 その積み重ねが、必ず日本を、世界を良くすると信じます。

 何の問題も起こらなかった街と、火事で全てが焼失した街があったなら、10年後は後者の方が発展を遂げる、という話しを聞いたことがあります。

 亡くなった方には心がらご冥福をお祈りする事しかできません。しかし、人類は何度もこのような危機を乗り越えてきました。全ての試練は、私達を進歩、発展させる為にあると考える他ないのです。

 今ほど仕事に使命感を感じた時はありません。そして、全力に悔いなしと言い聞かせるのです。

文責:守谷 昌紀

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◇一級建築士事務所 アトリエ m◇
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記

1996年、25歳の時に生まれ育った大阪に設計事務所を設立しました。関西を中心に、東京、長野まで、注文住宅、クリニック、別荘、店舗、オフィス、保育園と、直接依頼頂いたクライアントにおよそ100件の作品を持たせて貰いました。 形態も新築、リノベーション、コンバージョンと様々で、 物づくりの現場より面白い所を私は知りません。ダイナミックな現場を、動画を交えてあますところなくお伝えします。