【2】「建てるため」の土地探し
【2】「建てるため」の土地探し
(2021.11.19)
暮らしたい街や、自分たちにとって大切なことが分かってきたなら、今度は具体的な土地探しです。
リノベーションなら古家も含めて判断しなければなりません。
何より、その土地に自分たちが思い描いた家が建つのかを含めた検討が必要になってきます。
高低差のある土地は眺めが素晴らしいのですが、特に注意が必要です。実際に問題が起ったケースも含めて解説してみます。
1. この中古物件買っていいですか?
土地や中古物件を探すには、まずは情報が必要です。
Webサイトや、広告などで情報を探すことからスタートします。
候補をしぼり、若いご夫妻と直接現地へ向かいました。
その場で、「守谷さん、この中古物件買っていいですか?」と尋ねられました。
コンマ数秒迷いましたが「新築を視野に入れないなら、いいと思います」と答えました。
こうして「神戸の高台の家」は計画がスタートしました。
2. 「リノベーション一択なら」
裏手に擁壁があり、現行法規の下で建替えをするなら、その部分を全てやり替える必要があります。数百万は掛かると考えたので、「リノベーション一択なら」と答えたのです。
後にも書きますが、擁壁や高低差のある土地は、特に事前調査が大切なのです。
何千万もの買物を左右するアドバイスなので、重圧を感じなくはありません。
しかし、それを実務で経験させて貰ったからこそ私も鍛えられます。
建築基準法において、建物と土地の両方の安全を担保することを求められます。
上物だけに意識がいってしまうと、土地の調査がおろそかになり、「新築なら非常にコストが掛かる」または「建てられない」という最悪のケースまで起こり得るのです。
3. この土地買ったのですが
関西では北側に山が多く、南から日を受けるゆるやかな斜面地が多くあります。
南に向かって土地が下がっていくので、隣地の陰にはならず、光環境は非常に恵まれます。
しかし、擁壁があったり、傾斜がきつかったりする場合には、土地の安全を担保しなければならないのは先の話の通りです。バギーを押して、小さなお子さんと3人で見えたご家族は、すでに北摂の南斜面にある土地を購入されていました。
擁壁の上にあるとても見晴らしの良い土地で、不動産仲介会社からは「このくらいの家が建てれます」という、簡単な間取り図を貰っていました。
ただその擁壁の高さが5m以上あったので、「土地の安全ついての説明は受けましたか?」と尋ねると、「受けていません」と。
「プランの提案をして貰えますか?」という相談だったので、「まずはこの土地にこの大きさの建物が建つかの調査から始めてみます」とお答えしました。
写真で見る限り、擁壁の質があまり良さそうではなかったので、気になっていたのですが、調べていくと、完全にプライベートな擁壁だと分かりました。
4. 擁壁のメリットと絶対に気をつけるべきポイント
プライベートな擁壁とは何かを説明します。
例えば、山の斜面を住宅地として開発する場合は、半分を削り、半分を埋めたてることが殆どで、少なからず擁壁部ができます。
この擁壁が安全なものであるという、公的な証明書があれば問題なく建てることが出来ます。
しかし、これがなければこの擁壁に全く圧を掛けないように離して建てるか、荷重を掛けないような対処策を施さなければなりません。
先のご家族が購入されていた土地は、調査をしても安全を証明できるものはなく、何かしらの対処をしなければ、予定していた建物が建たないことが分かりました。
出来るだけ安く地盤を補強する方法は見つけたのですが、それでも300万円程掛かります。それでは聞いていた話と違うということで、結局仲介会社と裁判をすることになってしまいました。
その為に資料を、できるだけ安価で製作することしか私には出来なかったのです。
5. 安全な擁壁の成功事例
反対に、「高台の家」ではこの擁壁が安全だという資料が役所に保管されていました。
それで、擁壁ぎりぎりまで建てることができたのです。
まとめ
土地を売ることが専門の人と、土地に建てるのが専門の人の知識や意見が同じということはありません。
それは仕方がないのですが、さあこれからという、若いご家族がこのような目に会うケースを見るのは本当に忍びないものです。
私は「もし候補のひとつと思って下さるなら、遠慮なく相談下さい」と伝えます。
土地探しから新居を建てるという計画がスタートし、完成、そして生活が始まるまでは、夢の島を目指す長い航海のようなものです。
航海図を描いたり、船員を選んだり、舵を切ったりして、航海を成功させるのが、建築家の仕事だと思っているのです。