「伊東内科クリニック」-6-地鎮祭

 無事解体が終わり、本日は地鎮祭。

 ここ数日、大阪は季節はずれの寒さでした。

 しかし今日は、暑いくらいの青空に。

 祭壇やお供え物は神主さんが、竹や砂山等は施工会社が準備してくれます。

 設計者、施工者はお酒を供え、合わせて図面や模型も清めてもらいます。

 神主さんの「それでは、地鎮祭ならびに工事の安全祈願祭をはじめます」の声で式は始まりました。

 祝詞奏上のあと、土地の四方を清めます。

 全て神主さんが進めてくれますが、施主、設計者、施工者が役割を担うところがあります。

 はじめに設計者は、砂山の上にある草を鎌(カマ)で刈り取ります。これが「苅初め(かりぞめ)の儀」。

 次は施主が砂山に鋤(すき)をいれ、三度に分けて左、右、左と砂をよけます。これが「穿初(うがちぞめ)の儀」。 

 最後に施工者が鍬(くわ)で盛砂をします。これが「鎮物埋納の儀」。文字通り、鎮物を埋めるのです。

 いずれも「エイ、エイッ、エイ」と掛け声を発しながらが一般的。

 その後、玉串奉奠(たまぐしほうてん) ですが、これも「時計回りに3/4回転して根元を祭壇へ向けて……」と全て説明してもらえるので、心配は無用です。

 と、書きましたが、務めていた期間が2年の私は、自分の現場で初めての地鎮祭を経験しました。

 「苅初めの儀」は一番はじめにやってきます。

 どのくらいの声を出して良いのか分からず、小さな声で「えぃ…えぃ…えぃ…」のような感じで。

 思い出すだけで、顔が赤くなります。その後の施工会社の社長の声の勇ましかったこと。

 手順を覚えたからと言って、緊張しない事はありませんが、まずは元気よくです。今日も大きな声で「エイッ!エイッ!エイッ!」と。
 
文責:守谷 昌紀

建築家 / 大阪  一級建築士事務所 アトリエm

「伊東内科クリニック」-5-解体

 地鎮祭の日取りが、5月15日(土)に決まりました。

 解体も基礎の底版、ベースと言われる部分の撤去に入りました。

 鉄筋をより分けるため、コンクリート塊をクラッッシャーという重機で砕きます。資源として再利用するためです。

 先頃開幕した上海万博が建設ラッシュの頃。鉄が不足し、鉄骨の値段が跳ね上がりました。私が仕事をはじめた15年前と比べて1.5~1.8倍です。

 その他の物で、そこまでの変動したものは無いので、最も市場に影響され易い材料と言えます。

 より分けた鉄筋を、ガスバーナーで焼きる部分は、また手仕事。

 解体は、本当に危険な仕事です。  

 地鎮祭に向けて、現場は急ピッチで進んでいます。

文責:守谷 昌紀

建築家 / 大阪  一級建築士事務所 アトリエm

「伊東内科クリニック」-4-解体

 建物部分の解体は、ようやく目処がつきました。

 次は基礎部分の撤去です。

 これは、やってみないと分からない部分もあり、解体の中では最後の難関です。

 勿論問題なく進むと思っていますが。

 既存の壁を一枚だけ残し工事は進みました。隣地建物を痛めないよう、現場が配慮したものです。

 解体工事は潰すのが目的だけに、考え方で時間や手間の差がでるところと言えます。今回は、非常に丁寧な仕事でした。
 
 形あるものはいつか壊れますが、解体の現場とはいつも壮絶なものです。

 今回、クライアントが海外在住だったので、打合せは電話とメールでと思っていました。

 しかし「skype」を教えて貰ったのです。パソコンさえ立ち上がっていれば、無料で会話できるインターネット電話のことです。

 パソコンにマイクとwebカメラを付ければ、テレビ電話にもなります。安いものなら2,000円程度で揃い、通話料は全て無料。これには感激しました。

 こちらが春なら先方は秋、地球の裏側と無料でつながるのですから。

 現在までの打合せ回数はおよそ30回。うち20回がskypeです。無ければ無いで何とかしますが、顔が見えると見えないでは随分違います。

 この体験で、世界中のクライアントと仕事が出来るじゃないか、と思ったのです。オファーを貰わないと始まりませんが、誰にも無限の可能性があるはずです。

 しかし、便利すぎて怖い気もします。ただより高いものはないと言いますから。

文責:守谷 昌紀

建築家 / 大阪  一級建築士事務所 アトリエm

「池を望む家」-21-家族訪問

 1ヵ月前に外観撮影が終わった「池を望む家」。今回は家族で招待して貰いました。

 こちらのお子さんはもうすぐ3歳の男の子と、7ヶ月の女の子。我が家は長男が5歳で娘が2歳。ちょうど2歳ずつ大きいのです。

 はじめは長男もやや恥ずかしそうにしていました。

 見ていると、少しずつ距離が近づいて行きます。

 しかし、リビングからの眺めはいつ行っても飽きません。

 一番下のお子さんはまだオンブ。あと半年もすれば、一緒に遊べるでしょうか。昼食の頃には、みな調子が出てきました。

 ハンバーグ、トマトとモッツァレラチーズ、ポタージュスープ、ニンジンとじゃがいものサラダ、アボガドのサーモンの和え物。とても美味しかったです。

 最後のアドガドはどちらかと言えば、ワインと一緒に……という話になりました。

 夜景を見ながら一杯。とても楽しみです。

 お土産には、シュークリームを持って行きました。

 とても気に入ってくれたようで。

 池に面して、デッキと斜面になった庭があります。休みの日にはここで昼食を食べる時も。ここがなかなか良いのです。
 
 子供達はいつだって、自然と刺激を求めているのです。 

文責:守谷 昌紀

建築家 / 大阪  一級建築士事務所 アトリエm

「伊東内科クリニック」-3-解体

 今週のはじめ、工事が始まりました。まずは解体からです。

 敷地に住まいが有った場合、愛着あるものが沢山あります。

 簡単に捨てるのは難しいのですが、これが解体費用に影響を与えます。リサイクル法が施行され、手作業の分別が必須になりました。

 これ自体は素晴らしいことですが、費用はかさみます。

 家具や家電は、解体業者が捨てれば産業廃棄物。高い処分代が掛かかります。

 住人が市町村に引き取って貰えば、大阪市なら1個につき200~1000円。文字通り桁違いに安く済むのです。要、不要の判断は難しいですが、私は迷ったら捨てて下さいとアドバイスします。

 「これからも一緒に暮らしたい」という積極的理由が大切で、「必要なことがあるかも」という、二次的な動機では、結局不要なものに埋もれて暮らすことになるのです。無難は感動を生みません。

 現在クライアントは、ペルーに戻っています。着工前、モノの選別をしている現地でお会いした時のこと。

 「娘の傘を捨て辛くって。もし守谷さんが嫌でなければ」と見せてくれました。

 娘さんは今年から大学生。10年以上大切に使われていたことになります。有り難く2歳の娘に頂きました。

 同じモノでも、ストーリーのあるなしで、全く違うものになるのです。

文責:守谷 昌紀

建築家 / 大阪  一級建築士事務所 アトリエm

「伊東内科クリニック」-2-敷地

 地下鉄谷町線の野江内代(のえうちんだい)駅から歩いて2分。

 敷地は駅のすぐ東にあります。今回は解体工事があるので、施工会社との打合せに行って来ました。

 大阪市内には、埋蔵文化財包蔵地域に指定されている場所が多くあります。

 遺跡があるかもしれないので、建て主の費用負担で、発掘調査をしなさいといと市が地域を指定するものです。今回は「榎並城跡伝承地」に指定されていました。

 この説明をして、納得してくれるクライアントはまずいません。

 自分が建てる場合でも、当然納得できないと思いますが、まずその事前協議をしないと、建築基準法の審査に入れないのです。今回は基礎の深さが浅かったので、実際の調査は不要。無事建築確認がとれました。

 しかし土地の歴史には大変興味があります。城東区役所のwebサイトにはこうありました。

 「榎並城跡伝承地」
 天文2年(1533年)に三好政長が築いた榎並城は、小さいながら東成郡随一の要衝であった。

 戦国時代の天文17年(1548年)、室町幕府の管領職にあった細川晴元の打倒をめざす家臣の三好長慶は、晴元方に属し榎並城を居城としていた三好政長とその子政勝を攻撃する。

 翌、天文18年6月政長は、城から討って出て、江口で戦死。晴元の軍は敗れ、政勝の拠点榎並城は陥落した。細川晴元は、三好長慶に京都から追われ近江に脱出し、明応2年(1493年)以来続いていた細川家の管領職は事実上終了した。

 現在は、築城の際に水害を被むった三好政長が水火除難のため城内に建てたと言われる野江水神社が近くに立つのみで、この地に城があったことを偲ぶものは何も残っていない。

 野江水(すい)神社まで歩いて1分ほど。戦国の世には城内だったかもしれません。

 そう考えると、やはり調査くらいは……いやいや、この場合こそ、公費を投入すべきでは。

文責:守谷 昌紀
建築家 / 大阪  一級建築士事務所 アトリエm

「伊東内科クリニック」-1-プロローグ

 2009年の1月、設計相談のメールが届きました。

 内科医院を併設した住宅の計画で、送り先はペルーのリマから。循環内科医のクライアントは、その時点で日本を出て10年。スーダン、ポーランド、ペルーと、海外で働いてきたのです。

 1ヵ月後の2月。帰国時にお会いし、3週間後に企画の提案。出国の2日前と慌しくはありましたが、正式な依頼を貰いました。

 医師というよりは、町のお医者さんでいたい。クリニックとはピットのようなもの。治すというよりは、癒す感じ。ただ、手助けするよりは積極的に。

 当初から、クリニックのコンセプトは明確でした。

 自身のキャリアの最後は、育った地域に恩返しをする。その中に、クリニックの新築計画があります。私達も貢献のできる仕事をしなければなりません。

 敷地は大阪市城東区です。以前は町工場も多かったようですが、現在は住宅とマンションが混在しています。9月末の完成、11月初めのオープンを目指します。

 コンセプトは、木の葉が揺れるクリニック。4月中旬に着工します。

文責:守谷 昌紀

建築家 / 大阪  一級建築士事務所 アトリエm

「池を望む家」-19-写真撮影

2010年 3月17日(水)

 竣工から1年3ヶ月。外観を撮影に行ってきました。

 もう工事が終わるという時期に、隣地の新築工事が始まりました。ずっとシートが掛かっていたのでこの時期になったのです。

 2008年末の竣工時から、その間に娘さんが一人増えました。本当に嬉しいことです。

 2歳になった上のお兄ちゃんは、熱烈歓迎してくれました。

 彼は設計している最中に生まれたので、生まれた時からの付き合いです。今回はオープンデスクの学生と機嫌よく遊んでくれました。

 こちらの家は、名前の通り池のほとりに建ちますが、外観は池越しのカットで決まりです。

 望遠レンズになるので、アナログだとジャバラが風を受けるからと、道具がデジカメに変わりました。

 この道数十年の著名な写真家ですが、内部はアナログ、外部はデジタルと、その分岐点になりました。

 2日ほど前から満開の対岸に咲く桜。

 1階の書斎から、2階のリビングからと、どこからも目を引きます。

 池の急な斜面に張り付く様は、野生ならでは。

 クライアントは、これも含めてこの敷地を選んだのです。

 写真の出来上がりまで、1、2週間。池越しのカットはどんな出来上がりになっているのか。楽しみにです。

文責:守谷 昌紀

建築家 / 大阪  一級建築士事務所 アトリエm

「光庭の家」-1-その後

2010年 3月16日

 先週の中頃、クライアントから封筒が届きました。開けると、インテリアショップ、アクタスのカタログでした。

 アクタスは、関西なら心斎橋、大阪空港にあるインテリアショップで、カタログに『家がすき』という別冊がついています。そこに、お家が掲載されていました。

 奥さんは、もとはアクタスで働いていました。

 子育てを機に惜しまれながら退社。社長直々にかなり慰留があったそうです。現在はインテリアコーディネーターとして、活躍されているのです。

 2006年頃、設計をしている際にも、そのお話をされていました。目標を実現されたのです。ブログも開設されていますが、楽しく働いている様が伝わってきます。

 やはり、自分が楽しまないと、クライアントには楽しんでもらえないのです。しかし、流石にプロの手が入いると違います。スッキリとシンプルで楽しそうです。

 こちらのお家は光庭の家。光庭のある家ではないところにこだわりました。

文責:守谷 昌紀

建築家 / 大阪  一級建築士事務所 アトリエm

「ドタバタ広場のある家」-24-写真撮影

2010年 1月16日(土)

 昨年の10月に竣工したこちらの住宅。引越しなどもあって、撮影は年が明けてからになりました。

 どうしても無理な場合を除き、住宅の場合は、出来るだけ引越しが終わってから撮らせて貰います。

 実際の暮らしに近い状態で、良い写真を撮りたいという、完全にこちらの都合なので、クライアントの理解無しには成立しません。 

 ただ、空間を撮る場合、やはり物が多過ぎると、その良さが伝わりません。

 それで、美しく飾られている物を、あっちへ動かし、こっちへ動かし、しながら撮影するのですが、この日もポインセチアを……

 失礼と分かっているのですが、良い写真に仕上がれば喜んで貰えるだろうと言い聞かせながら。

 日中をメインにした撮影を終えると1:00pm頃でした。

 土曜日だったので、お子さん達の昼食を待って貰ったことになります。にも係わらず、お疲れだったでしょうとコーヒーを。

 急遽出勤になったご主人が、夕方の撮影が終わった頃に戻られました。

 少しだけお会いしてと言っているうちに、食事まで用意して頂きました。お子さんも一緒に、食卓を囲ませて貰ったのです。本当に有難いことです。

 撮影を写真家に頼む場合、スムースに進むようサポートしていれば良いのですが、今回は私が撮りました。プロと同じようにとはいきませんが、楽しそうな感じは撮れたと思います。 

文責:守谷 昌紀

建築家 / 大阪  一級建築士事務所 アトリエm

1996年、25歳の時に生まれ育った大阪に設計事務所を設立しました。関西を中心に、東京、長野まで、注文住宅、クリニック、別荘、店舗、オフィス、保育園と、直接依頼頂いたクライアントにおよそ100件の作品を持たせて貰いました。 形態も新築、リノベーション、コンバージョンと様々で、 物づくりの現場より面白い所を私は知りません。ダイナミックな現場を、動画を交えてあますところなくお伝えします。