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うだつを上げろ‐1554‐

 昨日の日曜日は大寒。

 暦の上では寒さのピークですが、現実的にはもう少し先になるでしょう。

 今日は現場にでていましたが、道中に古い町並みが残っていると知り、少し立ち寄ってきました。

 聖徳太子が建立したという久宝寺跡に建つのが顕証寺。

 その周辺を久宝寺寺内町と呼ぶようです。

 顕証寺の白壁は高さが3m程もあり、かつ長く続きます。

 なかなかの迫力でしたが、 中世から環濠都市として栄え、その中心であった寺の威光をうかがい知ることができるのです。

 本堂は改修中のようでした。

 久宝寺寺内町には、江戸時代から戦後までの様々な町屋が残っています。

 表情豊かな焼き杉板ですが、酸化して炭となった表面部は耐久性が増します。

 しかし思い切った方法を考えついたものです。

 屋根の両端を支える袖壁を「うだつ」と言います。

 「うだつ」の上がっている建物が何軒もありました。

 こちらの黒壁の家にも「うだつ」が上がっています。

 諸説ありますが、防火の機能も備えたうだつを、富裕層は競って上げたと言います。

 それが富の象徴となり、反対の意味で「うだつの上がらない」は、出世しない、金銭にめぐまれないとなりました。

 こちらのうだつは、漆喰で縁取り装飾された上、鶴の飾りつけまであります。

 木の彫り物に漆喰を塗ったものでしょうか。

 いずれにしても、品のある大変に美しいうだつでした。

 建築は富や権威の象徴でもありますが、それを「うだつ」だけにフォーカスしているのが、面白いところです。

 日本人は様式美を重んじる民族です。

 様式美とは、何らかのルールの中で表現するということですし、歴史や他者を重んじることでもあります。

 アメリカのメジャーリーグにはアンリトンルール(明文化されていないルール)があるといいます。

 例えば、大差のついたゲームでは盗塁をしないなどですが、日本もアンリトンルールの多い国だと思います。

 それらを尊重しても、自分が設計した建物にうだつを上げることはないと思いますが、「うだつが上がらない」なんて言われるのはまっぴら御免です。

 心の中で、極めて美しいうだつを上げたいと思うのです。

■■■『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀
ギャラクシーブックスから2017年11月27日出版
amazon <民家・住宅論>で1位になりました

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■4月1日「トレジャーキッズたかどの保育園」開園

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大阪ガス『住まう』11月22日発行に「中庭のある無垢な珪藻土の家」掲載
『住まいの設計05・06月号』3月20日発売「回遊できる家」掲載
『関西の建築家とつくる家 Vol.2』2月1日発売「阿倍野の長家」掲載
『homify』6月29日「回遊できる家」掲載
『homify』6月2日「イタウバハウス」掲載
『houzz』5月28日の特集記事「あちこちでお茶できる家」掲載

メディア掲載情報

◇一級建築士事務所 アトリエ m◇
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記

物語は半分だけ作る‐1107‐

 先週から今週にかけて、当事務所のwebサイトに4つ作品をUPしました。住宅が2つ、店舗が2つ。

011西夕景

 「黒壁の家」は、若い夫妻と大阪に建てたコートハウスです。

11 LDK

 「神戸の高台の家」も、若いご夫妻とのリノベーション。

 この家が古家だった時、ご主人と現地視察に行きました。「この家、買ってもよさそうですか」とご主人。

 プレッシャーの掛かる質問ですが、「良いと思います」と答えました。いい家になるだろう、するしかないと考えていました。

 キッチンの上にロフトを設けています。元は屋根裏の部分で、神戸の街と大阪湾を一望できるよう考えました。

21

 先週水曜日、10月8日は皆既月食。

 クライアントが、その写真を当日送ってくれました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 こんばんは。今日はロフトから月食が見えたので写真を撮ってみました。夜景と赤い月がいい感じに収まったのでお送りします。

 夜景がきれいなのもいいですが、こういう特別な絵が見られるとロフトの価値が最高に高まりますね。
 
 本当にいい設計をして下さりありがとうございました。

 「黒壁の家」の和室は、中庭に面しています。

115ダイニングから中庭

 当面は子供の遊び場ですが、将来は奥さんの両親がここで暮らす予定です。

 サイトには、奥さんのコメントを掲載さて貰いました。

 構想2年、建築まで計3年の月日を費やした我が家。オシャレな家が好きだったのもありますが、その次に、いつか親と一緒に住むためのものでもあり、色々思い入れがあります。

 お年寄りと接する仕事をしてる関係、色んな人の老後を見ます。幸せな人、そうでない人。現実は厳しいもんです。

 わが親だからケンカするときもあるけど、良かったと言える最期を迎えてほしい。親にそうさせてあげれたら、自分もそうなれるかなと。先のことは分からないけどそうあってほしいなと思います。

 とりあえずは目の前の生活を一生懸命頑張ります!ローンの為に…☆

 何と表現すれば良いのか……清々しい気持ちになります。

111ダイニング

 元リッツカールトン日本支社長の高野登氏は「哲学とストーリーは両輪」と言いました。

 お客様から聞かせて貰ったストーリーをストック、共有することで、よりクレドを浸透させて行く。

 リッツカールトンでは哲学を、ラテン語で「志」「信条」「約束」を意味する「クレド」と呼びます。

 建築設計、デザインにおいて、余白が大事だと考えてます。作りこみすぎたり、技のオンパレードになると、感情移入したり、ストーリーが入り込む余地が無くなってしまうのです。

 劇作家、寺山修司はこう言いました。

 物語は半分作って、後の半分は観客が補完して一つの世界を作っていく。余白が無いといけない。それが演劇の可能性だ。

 多くのストーリーを共有させて貰い、それを糧に新たなクライアントと未来の幸せを約束する。幸せとプレッシャーもまた両輪です。

 店舗にはまた違ったストーリーがあります。こちらは、次の機会に。