タグ別アーカイブ: 水上勉

お野菜、お大根、お芋さんと、三国一の幸せ者‐1973‐

昨日、近くを通ったので駒川商店をのぞいてみました。

シャッター商店街が増えるなか、ここは本当にいつも活気があります。

それで時々のぞきたくなるのです。

妻がいつも行く近所の青果市場は、昨日まで正月休みでした。

ここは本当に安いので助かっています。

これ程ではないにしても、近所のスーパーの正月休みが長くなっているのに驚きました。

確実に働き方、社会常識が変化していくのを身をもって感じるのです。

そんな事情もあって、先週末は道の駅「しらとりの郷・羽曳野」へ。

昼前に行くと、駐車待ちの車列ができていました。

中も広く、かなり賑わっています。

生花が沢山あるのも特徴でしょうか。

地元の野菜が多く並んでいました。

生産者が直接搬入して陳列することもできるそうです。

何せ「お野菜」が安いと妻の機嫌がよいのですから、来た甲斐があるというもの。

「野菜」なんて呼び捨てにできないのです。

お大根、お茄子、にお葱。

お豆さんと、お芋さんに至っては更に「さん」付けです。

少し前ですが、ラジオから『土を喰らう十二ヵ月』という映画が公開されていると聞こえてきました。

作家・水上勉の『土を喰う日々 ―わが精進十二ヵ月―』を原案に、沢田研二主演で、映画化された作品のようです。

水上勉は幼少期に口減らしのため、禅寺へ奉公に出されました。

そこで「ご馳走とは、旬の素材を探し、馳せ走ってもてなすことだ」という精神と、精進料理を学びます。

「土を喰う」が意味するのは「旬の物を食べる」ということです。

旬の野菜は値段も安いのですから、全ての物価が上がっているこの時期にこれ程適した言葉はありません。

私は全く好き嫌いがないのが自慢ですが、これは本当に幸せなことだと思います。

先日、長男に「全く無いのは、かなりのレアケースなんじゃない」と言われました。

ちなみに長男は頑張れば何でも食べれますが、魚があまり好きではありません。

子どもには小さい時から「好き嫌いせずに」と言ってきました。

しかし長男との会話をきっかけに、嫌いなものがない私に、彼らの気持ちを理解するのは不可能だったのだなと、改めて気付いたのです。

それでも思います。

食品と名の付く物で、この世に美味しくないものなど何一つ無いと。

三国一の幸せ者とは私のことなのです。

■6月16日 『ESSE-online』「おいでよ House」掲載

■ 『ESSE-online』にコラム連載

10月11日「テレワーク時代の間取り」
9月18日「冷蔵庫の位置」
6月18日「シンボルツリー」
6月5日「擁壁のある土地」
4月11日「リビング学習」
2月27日「照明計画」
2月14日「屋根裏部屋」
2月1日「アウトドアリビング」
1月4日「土間収納」

■11月28日『homify』の特集記事に「回遊できる家<リノベーション>」掲載
■11月17日『homify』の特集記事に「下町のコンクリートCUBE」掲載
■6月11日『homify』の特集記事に「R Grey」掲載

メディア掲載情報

受継がれていくもの、無くなっていくもの‐1951‐

少し前の新聞に、公園の遊具が減っているという記事がありました。

遊具と言えば子どもが遊ぶものですが、ブランコはかなりの運動速度になります。

昔は、球体の鉄カゴが、軸を中心にしてグルグルと回せるものもありました。

何と言う名称かは分かりませんが、本気で回せばかなりのスピードになり危険だったと思います。

こちらは最近見たことがありません。

滑り台も樹脂性が増えましたが、一様に刺激は低下傾向です。安全を求めるなら仕方ないのですが。

「警察小説の傑作」という刺激あるコピーを見て手に取ったのが「孤狼の血」。

その文字に偽りなし、でした。

僭越ながら、本を読んだあとは点数をつけていますが、98点をつけました。

著者、柚月裕子は1968年生まれで同じような年代です。女性が書く警察小説も珍しいなと思い読み始めたのですが、あっという間でした。

警察小説とありますが、ヤクザ小説でもあります。

広島を舞台に繰り広げられる暴力団抗争と、警察との関係を描いているのですが、「仁義なき戦い」を思わせる雰囲気があります。

広島弁でのセリフまわしが、とても良いのです。

ベテラン刑事と新人のコンビが、そこに割って入っていくのですが、その人間臭さと、きな臭さが読む者を惹きつけます。

巻末の解説を読むと 、深作欣二監督の映画「仁義なき戦い」がなければ、この小説が生まれることはなかったと、著者が語っていると分かりました。

一気に柚月裕子ファンになったのです。

続けて読んだのが、「蟻の菜園 ‐アントガーデン‐」。

結婚詐欺容疑で捕まった介護士の円藤冬香。

40代前半の美しい彼女は、複数の男性と付き合っていることが分かります。

そして、彼らが次々と不審死をとげていくのです。

彼女には完全なアリバイがありますが、この事件を取材していたフリーライターの今林由美が、北陸との小さな関わりを見つけました。

僅かな情報から、彼女の北陸での過去をたどっていくと……というストーリーです。

小説としては85点を付けましたが、お勧めはしません。特に娘を持つ男親には。

彼女たちが体験していた幼少期が、目を背けたくなるほどの凄まじさだったのです。

北陸の自殺の名所がでてきたり、そこでの過去に事件の背景が隠れている展開が、松本清張の「ゼロの焦点」に似ているなと感じていました。

こちらも巻末の解説を読むと、松本清張の「砂の器」へのオマージュが色濃いとありました。


確かに、登場人物の方言から北陸に行きつく「砂の器」のほうが色濃いかもしれません。

年代的には、松本清張の2作品のすぐ後になりますが、水上勉の「飢餓海峡」も同じような色合いを持った小説です。

戦後の苦しい時代に、寒村での暗い過去が次々と明らかになっていくという展開ですが、いずれ劣らぬ傑作です。

物は危険を理由に受け継がれませんが、優れた小説のモチーフは受け継がれていくんだなと考えていました。

日本では表現の自由が約束されています。内容としては、より過激になって行くでしょう。

危険でも良い、とまでは言いませんが、多少スリルがなければ子供が喜んで遊ぶことはありません。

以前読んだ本より、刺激の少ない本を読みたい人が居ないのと同じです。

責任と成長。

このあたりに、受け継がれていくもの、無くなっていく物の分水嶺があるのだと思います。

■■5月13日『住まいの設計6月号』「おいでよ House」掲載

■6月16日 『ESSE-online』「おいでよ House」掲載

■ 『ESSE-online』にコラム連載

10月11日「テレワーク時代の間取り」
9月18日「冷蔵庫の位置」
6月18日「シンボルツリー」
6月5日「擁壁のある土地」
4月11日「リビング学習」
2月27日「照明計画」
2月14日「屋根裏部屋」
2月1日「アウトドアリビング」
1月4日「土間収納」
12月6日「キッチン・パントリー」

■■1月6日『Best of Houzz 2022』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞

■6月11日『homify』の特集記事に「R Grey」掲載
■1月8日『homify』の特集記事に「光庭の家」掲載
■1月7日『homify』の特集記事に「白馬の山小屋」掲載

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毎回、食事は真剣‐1707‐

 明日からは雨が続くようで、今のうちにと現場を回ってきました。

 商店街の入口に昔ながらの八百屋さんを見掛けました。

 こちらの商店街もシャッターが目立ちますが、奮闘しているお店もちらほら見えます。

 左に見えるバケツはおつり入れでしょうか。

 ゴムで伸びるザルからおつりを取り出し、新聞紙を巻いてくれる風景もすっかり見なくなりました。

 手書きの値札に、発泡スチロールの陳列台。

 これなら、季節季節の変化もた易いでしょう。

 イチジクの甘い香りに誘われて、近所の畑をのぞいてみます。

 カボチャの黄色い花が咲いています。

 実は葉に隠れて上手く撮れず。

 トウモロコシ。

 ナスビ。

 そしてトマト。

 まだ熟していませんでしたが、夏野菜が勢ぞろいです。

 夏野菜、何とも美味しそうな響きなのです。

 2004年に亡くなっった、作家・水上勉の「土を喰う日々-わが精進十二カ月」は、食に関する珠玉のエッセイです。

 軽井沢での四季の食卓を綴ったものですが、その暮らしぶりには、幼い頃を過ごした禅寺で経験が生かされています。

 貧しかった家庭の事情で、京都の禅寺に預けられたのですが、寺の畑には何もないような寒い時期、来客に食事を準備する場面で、師にこう教えられます。

 「ご馳走とは、旬の素材を探し、馳せ走ってもてなすことだ」

 料理であれ、仕事であれ、全ては心の所産です。

 気持ちの入ったハードワークの先に、悪い結果など出るはずがないのです。

 ある女性クライアントのお母さまが、「下の娘は、仕事が終わると『今日のご飯は何?』と必ずメールしてくるのよ」と笑いながら教えてくれたことがあります。

 こちらの女性、クラッシックバレエのダンサーで、ロシアへの留学経験もある方。

 「毎回、食事は真剣ですから」と言われていました。

 その気持ち、よく分かります。

 出来る限り体を動かすようにはしていますが、それでもバレエダンサーと比べると雲泥の差。

 それで、月水金は出来る限り粗食にし、火木土日を「食べて、飲んで良い日」にするというシステムを思いつきました。

 打合せの関係もあるので完全ではありませんが、15年位は概ねのようなリズムとしています。

 今日は木曜日。

 妻からタイの昆布じめとトンカツだと聞いています。聞いているということは、私にとっても「毎回、食事は真剣」なのです。

 冷えたビールと美味しい肴。適温のキャンティとカマンベールチーズが少しあれば、そこは私にとっての天国。

 今日はもうそんな口になってしまったので、そろそろ上がることにします。

■■■4月8日『Sumikata』東急リバブル発行
巻頭インタビューが掲載されました

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【News】
■2月13日 『Best of Houzz』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞
■2月3日『Houzz』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載■12月3日 『Houzzユーザーが選んだ人気写真:キッチン編』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が5位に選出
■9月30日発売『suumoリフォーム 実例&会社が見つかる本 関西版』「回遊できる家」掲載
■7月21日BS朝日『大改造!!劇的ビフォーアフター』「住之江の元長屋」再放送
「トレジャーキッズたかどの保育園」
地域情報サイトに掲載

■2017年11月27日ギャラクシーブックスから出版『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀がamazon <民家・住宅論>で1位になりました

メディア掲載情報

◇一級建築士事務所 アトリエ m◇
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記

馳せ走ってもてなす、ご馳走‐1400‐

 7月も最終日になりましたが、暑さは増すばかり。

 夏に花をつける樹は限られますが、サルスベリと夾竹桃がその代表格でしょうか。

 ともに濃桃色。この気温の中で咲き誇るのですから、何ともタフな花弁です。

 昨日は、ある計画のプレゼンテーションでした。

 その際に、夏野菜のお土産をいただいたのです。


全て採れたての手作り野菜。美しいことこの上ありません。

 この暑い中、打合せ前に収穫していただいたと聞き、申し訳ないのと、有り難いのと……

 早速、その日のうちにいただきました。

 塩が少しあれば十分です。

 ゴーヤの淡い苦味は、食欲が増します。暑い地域の知恵はさすが。

 美味しい野菜の嬉しさは、若い頃の比ではありません。

 作家・水上勉は「飢餓海峡」、「雁の寺」など知られます。

 「土を喰う日々-わが精進十二カ月」は食にかんするエッセイで、軽井沢で暮らす水上氏の、四季の食卓を綴った本なのです。

 氏は家庭の事情で、小さい頃から禅寺へ修行に出されます。

 そこでの体験から、自然にあわせ、野菜と相談しながら料理をするという考えに導かれていきました。

 寺の畑に何もないような、寒い冬の来客に、心を砕いて「ご馳走」を用意する場面があります。

 「ご馳走とは、旬の素材を探し、馳せ走ってもてなすことだ」

 師のことばに、全てが表されているのです。

 精進料理の「精進」とは、精進するための料理ではなく、精進して作る料理だとありました。

 中心は自分ではなく、常に相手。

 その考えかたが心を育み、自分を成長させてくれるのでしょう。

 トマト大好きの娘は、モリモリと赤ばかり食べていました。

 これこそ幸せのいろどり。四季の味です。

 そして、心ある人になって欲しいと願うのです。