タグ別アーカイブ: ヤマボウシ

クリスマスツリーとヤマボウシの半分物語‐1912‐

日曜日の朝、目を覚ますと真っ青な晴れ空でした。

梅雨入りするのかなと思っていたので、これ幸いとジョギングへ出掛けました。

コース途中にあるヤマボウシが、小振りな白い花を咲かせていました。

同じ日曜日、「Shabby House」のクライアントがヤマボウシの写真をSNSにUPされていました。

思わず「庭木の写真を送って頂けませんか」とお願いしてしまったのです。

実はこちらの庭には、竣工当時はドイツトウヒ、またはヨーロッパトウヒと呼ばれるモミノキの仲間が植わっていました。

コンセプトが「パリのアパルトメント」で、本物のパリを目指したのです。

法律的に防火扉が必要だったので、外にはスチールの扉があります。

そして内側に、アンティークショップで購入した、南仏で100年程前に使われていたこの扉をつけました。

この鍵穴と塗装の厚みが年月を感じさせてくれます。

照明、家具、フローリングもこだわりましたが、特に家具はジーンズでいうところのダメージ加工をほどこしているのです。

これらは基本奥さんの好みです。

ご主人のこだわりは、キッチン横にある「酒部屋」のみ。

冷蔵庫の横に躙り口があるのが見えるでしょうか。

この役割分担がはっきりしているところも、このお家の特徴だと思います。

ブンデンストウヒは、聖夜にクリスマスツリーの役割を存分に果たしてくれました。

ところが2013年。酷暑の夏に耐え切れず枯れてしまったのです。

再びご夫妻と庭木屋さんへ足を運びました。

パリの北緯は48度50分なので稚内より北にあることになります。ドイツトウヒには厳しい環境だったのです。

それらも踏まえ、常緑のヤマボウシを選びました。

2代目シンボルツリーとしてやってきたのですが、その現在が3枚目の写真です。

花の写真も一緒に届きました。

竣工して11年になりますが、変わって行く姿をみれるのは嬉しいものです。

ただ、あれだけこだわって選んだ庭木を枯らしてしまった後悔はあります。

何本かで植えたり、足下に灌木を配置すれば防げたかもしれません。

この物語も含めて、『ESSE-online』 に5軒の庭木の物語を寄稿しました。また公開が決まれば案内したいと思います。

建築に大切なのはストーリーだと思っています。

そこにある物はひとつでも、そこに至るまでの時間、試行錯誤、そしていくつかの失敗の上に存在しているのです。

劇作家の寺山修司はこう言っています。

物語は半分作って、後の半分は観客が補完して一つの世界を作っていく。余白が無いといけない。それが演劇の可能性だ。

建築家として作り込み過ぎないことは大切なことだと思っています。

実際に住むクライアントに補完してもらう。また、余白があれば、解釈は1つではありません。

これもずっとその家を好きでいられる理由になるはずです。

それで半分物語くらいが丁度いいと思うのです。

■■■6月9日 『住まいの設計チャンネル』 「おいでよ House」公開

■■5月13日『住まいの設計6月号』「おいでよ House」掲載

■ 『ESSE-online』にコラム連載

6月5日「擁壁のある土地」
4月11日「リビング学習」
2月27日「照明計画」
2月14日「屋根裏部屋」
2月1日「アウトドアリビング」
1月4日「土間収納」
12月6日「キッチン・パントリー」

■■1月6日『Best of Houzz 2022』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞

■6月11日『homify』の特集記事に「R Grey」掲載
■1月8日『homify』の特集記事に「光庭の家」掲載
■1月7日『homify』の特集記事に「白馬の山小屋」掲載◆メディア掲載情報

◇一級建築士事務所 アトリエ m◇
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記

プロとアマの違い‐1703‐

 今日、明日はしっかりした雨が降るようです。

 近頃の雨はまとまって降るので、できれば梅雨らしいシトシト雨が希望なのですが。

 天の気分が私の思うようになるはずもなく、今朝もパラパラと降ってきました。

 少し遠回りしてツバメの巣の前を通りました。

 昨日、巣立ったようです。

 寂しい気持ちもありますが、もう3匹が過ごすには狭すぎる感もありました。

 自然界には、一切無駄が無いのだと改めて教えられます。来年も見れると良いのですが。

 近くの保育園の植込みでは、ビヨウヤナギが花を付けていました。

 この時期に咲く黄色い花は少なく、自然と目に入ってきます。

 初めて植栽に採用したのは「下町のコンクリートCUBE」でした。

 大阪で住宅を設計する場合、1、2本の庭木を選ぶことはあっても、庭をデザインする機会はそれ程ありません。

 「下町のコンクリートCUBE」は敷地の半分が庭だったので、植栽の本を買ってきて、また実際に庭樹園まで足を運び、私なりに勉強しました。

 正面にある中木はアオダモで、塀越しに見えているのはヤマモミジです。

 キッチンに立つと目線の先には、左からシロヤマブキ、ヒメシャラ、ビヨウヤナギ、キソケイ、シロヤマブキ。

 右手にヤマモミジが少し見えています。

 2006年、植栽工事の時の写真です。

 一緒に仕事をした造園会社の社長は自らクワを持つのですが、色々と熱心に教えてくれたのです。

 同じく2006年完成の「サロンのある家」の奥さんも、庭木にとても詳しい方でした。

 植栽工事は金額が合わずだったのですが、正面、裏庭とも、ほぼご自身で完成させた程。

 正面右端に、ひょろっと伸びているのはジューンベリーです。

 花、実、紅葉と三拍子そろった庭木で、2010年の「イタウバハウス」でも採用しました。

 何と言っても、ご主人お手製のルーバーがポイントですが、遊び道具でもあり、正面のマンションからの目隠しでもあります。

 ジューンベリーというくらいですから、この時期に実をつけます。

 収穫し。

 ジャムになった写真を送ってくれたのです。

 3~4mの擁壁の上に建つ「高台の家」

 こちらのご主人も、建物と同様、庭木にもこだわりのある方でした。

 シンボルツリーは中央のヤマボウシ。

 「サロンのある家」と同じく、減額で植栽工事がなくなったのですが、近所の庭木屋さんに通い、こつこつと植樹されたのです。

 多様な木々を上手く組み合わせ、配置されています。

 何本かあるスラッとして、葉がカールしたような木はハイノキ。

 常緑樹にも関わらず葉が細やかという点ではソヨゴと合せて貴重な存在です。

 こちらのクライアントに教えて貰いました。

 初めは砂場だったところはミニ農園となりました。

 「高台の家」の植栽図面の一部です。

 植栽計画を私がした訳ではありませんが、伺った時にメモをとり、図面化しておきました。

 樹木名の後に、落葉か常緑か、広葉樹か針葉樹か、花の時期と花の色が書いてあります。この図面では外していますが、内部資料には100点満点での評価付けもしています。

 プロとアマの違いは、それに掛けられる時間の量、すなわち仕事として選ぶのか選ばないのか、その一点だけのような気がします。

 これだけ自在に情報が手に入る時代なので、こだわりの家を建てようかというクライアントは、私以上に知識を持っていることは普通にあります。

 インテリアに詳しい奥さんなら「今の流行は○○ですよね」と尋ねられ、その言葉を知らないこともありました。

 しかし、最終目標はクライアントにとって幸せな建築を創造することですから、私が知っていても、奥さんが知っていても、どちらでも構いません。

 重要なのは全てを踏まえ、何を選択するかです。建築は多くの部位があるので、その選択は組み合わせによって無限に変化もするのです。

 初めは不安ばかりだった植栽計画ですが、今はむしろ楽しみにしています。最後の仕上げといった感じでしょうか。

 そもそも悪い庭木などないので、余程うがった見方をしなければ、失敗などあり得ないのですが。 

 お代を頂いて設計、デザインをさせて貰っているクライアントから、学ばせて貰ったことがどれだけ沢山あったことか……

 ビヨウヤナギを見かけてはYさんを思いだし、ジューンベリーを見てはTさんを思い出し、ハイノキをみてはHさんを思い出します。

 プロとアマの違いは、仕事として選ぶかどうかだけと書きました。もう一点だけ付け加えるなら、悪い木などないと知ることでしょうか。

 結果を出す為に皆が全力を尽くし、結果が出ないということの方が矛盾するのです。 

■■■4月8日『Sumikata』東急リバブル発行
巻頭インタビューが掲載されました

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【News】
■5月16日『homify』(英語)の特集記事に「下町のコンクリートCUBE」掲載
■5月10日『Houzz』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載
■2月13日 『Best of Houzz』「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞
■2月3日『Houzz』の特集記事に「阿倍野の長屋」掲載 続きを読む プロとアマの違い‐1703‐

木となった聖樹‐1621‐

 近畿地方も、昨年の台風ではかなりのダメージを受けました。
 
 泉南地方は停電が長引き、設備設計事務所がなかなか仕事ができないと嘆いていました。

 現代において、電気がなければ仕事も全く進みません。関東地方において、少しでも早い復旧を願うしか出来ないのです。

 9月24日(祝・火)に移転、オープンする「うえだクリニック」。竣工一歩手前までなんとかこぎつけました。

 外構工事は足場がとれた後になります。

 外部土間の打設だったり、サインの準備だったりと、暑い中を真っ黒に日焼けした職人達が黙々と働いています。

 こういった人達の日々の仕事の上に竣工がある訳で、「必ずこのプロジェクトを成功させる」という強い気持ちになるのです。

 近くを通ったので「中庭のある無垢な珪藻土の家」の庭樹を見に行ってきました。

 こちらは建物前のヤマボウシと中庭にヤマモミジが植わっています。

 ヤマボウシは一度葉が落ちたことがあり、この暑さで少し気になっていたのです。

 足下まで日を受ける一本立ちは、最も条件が厳しいのですが、元気に育っていました。

 「Shabby House」においては、一度枯れてしまったことがあるのです。

 「Shabby」の言葉通り、「着古した」家を目指したこの住宅ですが、庭樹にもテーマがありました。

 シンボルツリーにはヨーロッパでクリスマスツリーに使われるオウシュウトウヒ(ドイツトウヒ)が選ばれました。

 2011年春の竣工後、奥さんと「古川庭樹園」まで行き、この一本を探してきたのです。

 これは2012年のクリスマスの写真。

 ライトアップされ、見事なクリスマスツリーとなっていました。

 しかし2013年の猛暑で元気を失い、2014年に枯れてしまったのです。

 2014年の5月、再度「古川庭樹園」へ。

 こちらの専務も一緒に回ってもらい、奥さんとこの一本を見つけました。

 一本立ちなので、もう少し日に強い方が良いだろうと常緑のヤマボウシ、「マウンテンムーン」という樹種にしたのです。

 少し土も改良して貰いました。

 最後に伺ったのは2015年の秋で、元気に育っているだろうかと思い出したのです。

 うえだクリニックにも植栽をします。僅か1本、2本の樹々が街に潤いを与え、建物に物語を付加してくれるのです。

 「Shabby House」はパリのアパルトメントを本気で目指そうと、ドイツトウヒを選択したのですが、今の日本は暑すぎたようです。

 あの樹には悪いことをしてしまいましたが、本物のクリスマスツリーがあったその景色は、心に残っています。

 むしろ、今は無いからより長く残るのかもしれません。

 「樹」は生きているものだけを指し、木材の言葉がある通り、「木」はあらゆる状態に使える言葉です。

 クリスマスツリーは「聖樹」とも言うそう。

 「木」となってしまったあのドイツトウヒを、何かの形で残す方法を考えれば良かったと、今更ながら悔いが残るのです。

 たった3ヵ月で本当にクリスマスがやってくるのかと訝りたくなる程の暑さですが、それがこの日本の魅力です。

 また、自然や宇宙は人知を超えたものである証拠かもしれません。

■■■『suumoリフォーム 実例&会社が見つかる本 関西版』2019年9月30日発売に「回遊できる家」掲載

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【Events】
■9月15日(日) 9:00~12:00 高槻高校文化祭にて
「頼れる卒業生」による無料相談コーナーに参加

【News】
『大改造!!劇的ビフォーアフター』7月21日(日)BS朝日で「住之江の元長屋」再放送
『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀
ギャラクシーブックスから2017年11月27日出版
amazon <民家・住宅論>で1位になりました
『homify』5月7日「碧の家」掲載
『houzz』4月15日の特集記事
「中庭のある無垢な珪藻土の家」が紹介されました
『デンタルクリニックデザイン事典vol.1』4月1日発売に「さかたファミリー歯科クリニック」掲載
「トレジャーキッズたかどの保育園」
地域情報サイトに掲載されました

メディア掲載情報

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「いま、ここ」だけを生きる‐1380‐

 先週末、「中庭のある無垢な珪藻土の家」の2ヵ月点検に行ってきました。

 3月末の引っ越しを実現するため、ギリギリの工事が続いていたのは2ヵ月前。

 もとより閑静な住宅街です。

 それらが嘘のように静かな週末の風景でした。

 正面のヤマボウシ。

 あまり道路にはみ出すのも良くないだろうと、少し低めのものを選びました。

 後ろに見えるのは、リビングにつながる中庭です。

 中庭のヤマモミジはなかなか立派な枝振り。

 ご夫妻とも「中庭はとってもいい」とのことでした。

 親族が集まっての、BBQもすでに開催されたと。

 写真がとてもよかったので送ってもらいました。

 炭火を起こすのはたいそうだけど、カセットコンロやホットプレートなら気楽だという方はとても多いのです。

 45cmほどの縁側に腰掛けての昼食はとても楽しそう。

 ちょっと木陰があるだけで、中庭が全く違うものになるはずです。

 こちらのご家族は、お子さんが4歳と2歳で最も親との時間が必要な時期です。

 点検のあと四方山話をしていたのですが、ご夫妻ともフルタイムの共働きということもあり本当に大変そうです。

 私ができることと言えば、一緒に創り上げたこの家が、少しでも日々の暮らしに貢献してくれればと願うだけです。

 ここで書く家創りのストーリーは、「大変だったけどやっぱりよかった」が中心です。

 時には少し叱られることもありますが、最終的には何が何でも、「よかった」まで行くしかありません。

 そう考えると、やはり全てよかったとも言えるのです。

 「うちのお客さんは皆喜んでくれている」というような言葉を聞く場面は結構あります。

 もちろん、不満な状態のまま仕事を終えるなど論外ですが、クライアントは心の底から「喜びたい」と思っています。

 何千万、何億円ものお金をかけて、「まあまあで十分」という人はたったの1人もいません。建築において、喜んでいただくは最低条件だと思っています。

 「特別に喜んで貰っている」と思いたいですが、それは私が決めれることではありません。

 ニューヨーク在住の友人が、「嫌われる勇気」が、すごく面白かったと教えてくれました。

 2014年から2015年にかけてのベストセラーで、タイトルくらいは聞いたことがありました。

 哲学者と現実を嘆いている若者との、対話型式で話は展開していきます。

 結論で言うと、凄い本だと思います。

 人生における最大の嘘、それは「いま、ここ」を生きないことです。

 (中略)

 ありもしない過去と未来ばかりに光を当ててこられた。自分の人生に、かけがえのない刹那に、大いなる嘘をついてこられた。

 (中略)

 さあ、人生の嘘を振り切って、恐れることなく「いま、ここ」に強烈なスポットライトを当てなさい。

 「いま」という一瞬を精一杯生きる。それ以外にできることは何もありません。

 それらを積み重ね、感激、感動してもらえるところを目指すしかないのです。

 自由、幸せ、孤独、そして勇気。これらの言葉は、常に意識してきました。

 「嫌われる勇気」。この本については、また一度しっかり書いてみたいと思います。