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80円で天国‐1665‐

 この冬一番の寒気だそうで、昨晩は革手袋をしていても指先がしびれる程でした。

 寒いのは辛いと言いながらも、少しほっとしたのが正直なところでしょう。

 やはり冬は冬らしくあって欲しいものです。

 庭木の老梅が満開です。

 お向かい宅のキンカンも、大きな実をつけていました。

 近所は古い家が多いのですが、季節ごとにバランス良く庭木が植わっているのが分かります。

 個人の庭ですから、どんな樹を植えるのも自由です。

 それでも、多少街の景色をイメージしながら庭木を選んでいたのでしょう。それが昭和という時代なのかもしれません。

 下町を車で走っていると「たこせん120円」という看板が見えました。

 「たこせん」は、せんべいでたこ焼きを挟んだものです。

 私が子供の頃は、満月ポン2枚にたこ焼きを2個で30円。

 それが亀田のカレーせんに変わっても値段は同じく30円。私はどちらかと言えば「カレーせん」派でした。

 大きなえびせんを2枚に割って、たこ焼きが3個の「えびせん」もありました。

 これは50円だったと思います。

 駄菓子屋のおっちゃんが、たこ焼き用の目打ちで中央にキズを付け、パリンと割ってくるのです。

 飲み物は「みかん水」で50円。あのビビッドな黄色が、自然の色ということはないでしょう。

 大阪の下町のガキンチョはこれらで成長したのです。

 そんなジャンクフードで育ったんですと言ったら、あるクライアントが「それはソウルフードですよ!」と。

 なる程、言葉は選びようだなと感心したのです。

 中国なら医食同源と言いますし、ソウルフードということは自身の精神性にも大きく影響を与えることになります。

 ロンドンならフィッシュ&チップス。

 バンコクならパッタイ。

 大阪ならたこ焼き。

 気楽に食べられると言うことは、高価すぎる物はNGです。

 リーズナブルだけどジャンクでない。

 ここに本質がありそうですし、商いの原点も全く同じでしょう。

 近頃はローコスト住宅のオファーが随分減りました。

 若い頃はびっくりする位の低予算でオファーを貰うことが結構ありました。

 とっても個性的なクライアントと、唯一無二の物語を創ってきたという自負もあったのです。

 社会は概ね三角形です。お金持ちが一番多い逆三角形にはなりません。

 そう考えると、コストが高い仕事が少なく、低い仕事が多い方が自然です。

 今もローコストの建物を設計したくないということは全くありません。

 ミース・ファン・デル・ローエが

 Less is more.

 と言った通り、少なきことは豊かなことでもあると思うのです。

 「厳しいですね~」などと言いながら、何とか建築を生み出して行く。それが私の日常でした。

 若い時に「君の得意はどっちなんだ」と聞かれたことがあります。

 「クライアントが本気なら、どっちでも構いません」と答えると、「そんなことでは差別化できないよ」とアドバイスを貰いました。

 それはそうだと思いますが、思っていないことを口にすることはできませんし、設計料には下限を設けているので、尚更なのです。

 小学生の時は、たった80円で天国へ行けました。今でも、220円のビールをプシュとやれば結構幸せです。

 本質は何も変わっていませんが、子供が受験をし、スマホを買えといい、海外研修など聞こえてくると、800円、8千円、8万円……

 もう我武者羅には働くしかないのです。そして分かったことがあります。

 少なきこと=豊かなこと

 ではなく

 少なきこと⇒豊かなこと

 なのだと。

 ピンチの中以外に、チャンスなどある訳がないのです。

■■■ 『Houzzユーザーが選んだ人気写真:キッチン編』2019年12月3日で「「中庭のある無垢な珪藻土の家」」が5位に選出

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【News】

『suumoリフォーム 実例&会社が見つかる本 関西版』2019年9月30日発売に「回遊できる家」掲載
『大改造!!劇的ビフォーアフター』7月21日(日)BS朝日で「住之江の元長屋」再放送
『建築家と家を建てる、という決断』守谷昌紀
ギャラクシーブックスから2017年11月27日出版
amazon <民家・住宅論>で1位になりました
『homify』5月7日「碧の家」掲載
『houzz』4月15日の特集記事
「中庭のある無垢な珪藻土の家」が紹介されました
『デンタルクリニックデザイン事典vol.1』4月1日発売に「さかたファミリー歯科クリニック」掲載
「トレジャーキッズたかどの保育園」
地域情報サイトに掲載されました

メディア掲載情報

◇一級建築士事務所 アトリエ m◇
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記

絵コンテ‐1307‐

 週末、夕食後は出来るだけ映画を観るようにしています。

 一番人気の「名探偵コナン」は、全て観終わりました。「ドラえもん」の映画シリーズもほぼ完走。

 いよいよ宮崎アニメに入りました。

 満を持してと言えば良いのか 「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」を2周続けて観ました。

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 ナウシカを解説する必要はありませんが、1984年に劇場公開された宮崎駿監督のアニメ映画です。

 特典として絵コンテがついていました。

 ここに載せてよいものか迷いましたが、載せてしまいます。

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 絵コンテは、映画の設計図なのでストーリー、キャラクターが皆に分かるよう描かれたものです。

 初めて見たのですが、絵コンテの状態でここまでイメージが出来上がっているものかと、驚嘆しました。

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 世界最高峰のアニメーターで、ストーリーメーカーである宮崎が描くものなので、素晴らしいに違いないはずですが、ここまでのものとは。

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 ラピュタは1986年、スタジオジブリの初作品。

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 私の最も好きな映画のひとつです。

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 冒険、ドタバタ、使命感、友情と愛情。

 ありとあらゆるものが、最高の物語として描かれていると思っています。

 アニメは全て人の手によって創られるものなので、答えは絵コンテしかありません。

 考えてみれば当たり前ですが「ここまで絵コンテ通りに創られているのか」と驚いたのです。

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 子供達も、圧倒的に楽しんでいました。

 しかし残念なことが一つ。長男は、なぜか「ムスカ」や「バルス」を知っていました。

 今時、YouTubeで公開されていると言います。彼はスマホを持っていないのですが、友人から聞いたと。

 小学6年になり、当然色々なことを知って行きます。無菌培養などあり得ないので、こんなことはいくらでも起こるでしょう。

 しかし、下の娘も楽しめて、初めて観るタイミングを計っていたのは事実です。当たり前ですが、初めては1回しかないのです。

 楽しみにしている映画があったなら、予告編は目をそらします。近ごろは、感動、感激を少なくすることばかり起こると言えば、言い過ぎでしょうか。

 知ることは可能性を広げます。

 しかし、建築家、ミース・ファン・デル・ローエの50年以上前の言葉が更に迫力を増して聞こえてきます。

 Less is more. (少なきことは豊かなこと)

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 動画ではない、宮崎の絵コンテのほうが美しいと言っても、間違いではない気がします。

 改めて、その力量に感服するのです。

アメリカの旅③ <シカゴ・ファンズワース邸編>

 前日の11月4日(金)は、遅くまで友人と飲んでいて、宿に帰ったのが明け方5:00am。

 この日はシカゴ行きの予定で、マンハッタンの西にあるニューアーク空港を7:55amに発つ予定。

 朝が早いので、友人が個人タクシーを予約してくれました。

 6:00amにタクシーが迎えに来た時は寝ていました。下で待って貰い、急いで身支度をして出発。

 何とかフライトに間に合いました。

 気を失うように寝て、アナウンスで起きるともうシカゴの上空。

 すぐにシカゴの超高層ビル群が見えてきました。

 シカゴのミッドウェイ空港には、定刻の9:30amに到着。予約してあったタクシー会社へ電話しました。

 ここから余談が長いのですがひと悶着。

 プリペイドの携帯電話を借りて持って行きました。それがなかなか繋がらず、ようや運転手と会えたのが10:00am。

 目的地はミース・ファン・デル・ローエ設計のファンズワース邸。相当に辺鄙な所にあるようで、先に全条件を伝え、所要時間1時間半で50$で交渉して貰っていました。

 しかしいざ乗ると、行先を聞いていないとか、住所を言えだとか。住所を伝えると、GPSに入れても表示が出ない、だからナビゲートしろだとか。まあ文句しか言わないのです。

 こちらも頭に来ていましたが、地図を渡し、ここに行ってくれと放っておいてのです。

 そんなに複雑でない道程ですが、地図をくるくる回しながら見て、全く分からないと嘆いているのです。無視していると、近くに来ていると判断すると(それも間違っているのですが)、曲がれそうな角を1つずつ曲り始めました。

 これでは着かないと思い、ひたすらに嘆く彼を励まし「ここは地図でココ。次の次を曲がって……」などという始末。

 もう最後の道に入っており、徐々に住所表示も近づいているのですが、シットだのファ○クだのと喚いているのです。

 適当な英語で、問題ない、真っ直ぐ行ってくれと更に励ましていると、ようやく到着しました。すると笑顔で、「グッド トリップ マイフレンド!」と。

 ふざけるな、と言いかけましたが、まあこれが旅の醍醐味です。何故か料金は79$でした。

 長いアプローチを歩いて行きます。

 本当に先にあるのかと思う程。

 ファーストコンタクトは東の側面でした。

 軽やかに持ち上げられた、小さな白とガラスの家が見えてきました。

 ミース・ファン・デル・ローエ設計、ファンズワース邸。1950年の作品です。

 webサイトにもあったのですが、ファンズワース邸は現在改修中。

 真正面に黒いビニールに覆われた工事部分。

 向かって左に伸びたトラバーチンのテラスには工事用の赤いコーン。写真的に、ここは切っておきます。

 ファンズワース邸はミースのアメリカにおける、最初で最後の独立住宅でした。

 建物を外部から支える8本のH鋼で、全てが持ち上げられ、限りなく自由なプランになっています。

 テラスも同様に待ちあげられています。

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その他で地面に接しているのは配管スペースのみ。

 快晴の林の中で、まずはディティールをつぶさに見て回ります。

 内部に入り、ガイドをしてくれるツアーでしたが、内部撮影は禁止。

 撮って良いツアーもありますが、今回は時間が合いませんでした。

 正面は南向きで、北側にはキッチンがあります。

 キッチンも至ってシンプル。

 しかし、工事としては大変な精度が要求され、費用は膨大なものになりました。

 クライアントとミースとの間では裁判になった程なのです。

 目の前は湖。

 内部からは開口部によって切り取られた景色が、我が物になるのです。心地よい余韻を残しながら、帰りのタクシーに乗りました。

 行きとは反対に、とってもフレンドリーな運転手はマイク。

 少し時間があったので、シカゴ市内にある、同じくミース設計の集合住宅、レイク・ショア・ドライブ・アパートントへ寄って欲しい、チップは出すと言ったのですが、遠いからと難色を示しました。

 滅多に来ることがないので、食い下がったのですが、私の英語力ではそこまで。ちょっと残念でした。

 6:30pm頃シカゴを発ち、9:30pm頃マンハッタンの西、ラ・ガーディア空港着。

 ニューヨークとシカゴには1時間の時差があり、しかもこの日を境に夏時間から冬時間へ移行したようです。

 何が何だかわからず、何時間掛かったのかもよくわかりません。

 まあ無事に戻れればそれでいいかと。バスに乗り宿に戻ったのが11:00pm頃でした。

 明日はレンタカーでペンシルバニヤまで車で500kmの旅。急いでベットに入ったのです。

細部に

 甥っ子が幼稚園で竹馬をするらしく、父に頼んでいました。

 弟には竹を買ってくるよう言ったそうですが「なかな買ってこないから、店にある材料で作った」と。

 店とは、実家のガラス屋のこと。厳密に言うと竹馬ではない竹馬です。

 

 以前は、若干つめの甘いところが有りました。

 しかし、孫のものを作るようになり、精度が上がった気がします。

 馬の足先には、馬蹄が付いていました。

 God is in the details 「神は細部に宿る」

 これは、ミース・ファンデルローエが好んで使っていた言葉。

 ミースは、ル・コルビュジエ、フランク・ロイド・ライトと共に、近代建築の三代巨匠と呼ばれる建築家。彼の言葉は想像力を掻き立てます。

 Less is more 「少なきことは豊かなこと」

 言葉自体が「少なき」で、様々な解釈が可能。それこそが、豊かな事とも言えるのです。

 結論に大して意味はありません。しかし、仮説を立て、考えるのは過程であり、意味のあることだと思います。

 「神」を良心と仮定します。良き心、正しい心は、細部、最も複雑で難解な部分に現れてくる。

 これが私の解釈です。