運も、実力も、スーパードライも‐1558‐

 私はビール党です。

 もっと言えば、「スーパードライ党」です。

 勿論そんな党派はありませんが、アサヒスーパードライが世にでたのは、1987年の3月。私が16歳の時です。

 飲むほどにDRY 辛口、生。

 ノンフィクション作家の落合信彦が出演していたCMは今でも覚えています。

 牛肉であっても。

 魚であっても、その味を邪魔する事はありません。

 勿論、味は主観であり、嗜好ですから色々な意見があって当然です。

 アサヒビールは、市場調査によってビール需要の変化を感じとっていました。

 それまで主流だった苦味が強いビールから、より飲みやすいビールをと研究開発を進めます。

 そして苦味を減らした、「辛口」という新たなジャンルを確立しました。

 でしゃばり過ぎず、食事を引き立てるビールを、女性も含めた多くの人達が支持したのです。

 当時、私の実家にはビール専用の冷蔵庫がありました。中は、あの麒麟ラベルがついたキリンビールでいっぱいでした。

 アサヒビールは「夕日ビール」と言われるほどに、シェアの低下が続いていました。

 そんな時に社長に就任したのが樋口廣太郎です。

 彼のことを描いた、高杉良の「最強の経営者」を読みました。

 経済小説なのでフィクションということになりますが、ほぼ実話でしょう。

 住友銀行の副頭取まで務めた樋口廣太郎は、当時の頭取と対立。住友銀行を辞任し、顧問を経て1986年にアサヒビールの社長に就任します。

 スーパードライのことは、グルメ漫画のパイオニア「美味しんぼ」でも否定的に描かれていました。

 味は好みだとしても、私も含めた消費者の目はシビアです。

 一日働き、二百数十円のお金を払い、その日の晩酌の友を選ぶ時、妥協はないはずです。

 「最強の経営者」の中で、ビールは鮮度が命なので古いビールを全て破棄するという樋口廣太郎の英断がフォーカスされています。

 また、他社をまきこんだ「ドライ戦争」も取り上げられています。

 タイトルにケチをつけるつもりはありませんが、「スーパードライ」が美味しくなければ、「夕日」からトップシェアへの激変は無かったはずです。

 小説の中に、2つの建物が登場しました。

 1989年に完成したアサヒスーパードライホールは、浅草寺から吾妻橋を渡ってすぐにあります。

 フランス生れのフィリップ・スタルクの設計です。

 左は生ビールを満たしたジョッキ、右は燃えるような情熱を表していたはずです。

 1996年に改修が完成した、大山崎山荘美術館。

 こちらは安藤忠雄が設計を担当しました。

 アサヒビールとも縁の深い、ニッカウヰスキー設立にも参加した、加賀正太郎所有の洋館でした。

 ここにマンションが建つ計画が持ち上がりましたが、アサヒビールが買い取り、美術館として再生したのです。

 増築棟の円筒型の空間には、モネの水連が展示されています。

 いずれも、樋口廣太郎肝いりの計画でしたが、これらもスーパードライが売れに売れたからこそ、現実となったものです。

 樋口廣太郎が社長に就任したのは1986年3月28日。すでに「スーパードライ」の開発はスタートしていました。

 また、就任2ヵ月前に発売した「コクがあるのにキレがある」のコピーで売り出したアサヒ生ビールは予想を上回る売れ行きです。

 そして社員に向かってこう言います。

 「私は運の強さをいつもいつも自慢していますし、誇らしくも思っていますが、〝コク・キレ”が強運を証明してくれました。

 わたくしはアサヒビールのリーダーとして自信満々です……」

 その後のアサヒビールの躍進は周知のとおりです。やはり、全てを含めて最強の経営者なのでしょう。

 昨日の節分は家に帰れずでしたが、精一杯働き、晩酌のビールを口にするとき、小さな幸せを感じます。

 「全てはうまいのために」

 仕事の目的など、小学生でも分かることです。ただそれを純粋に貫くことは思いのほか難しいものです。

 こんなにうまいビールがあることにただ感謝しかないのです。

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