先日、初期相談にみえた方が、新築かリノベーションかをかなり迷っていました。
候補の物件を見せて貰ったのですが、その1つが建築家・石井修の作品だったのです。
氏の作品は今まで5つほど見たことがありますが、大阪市内にも2つほど知っています。
本町にある、1970年完成の「ジェー・ガーバー商会大阪支店」。
日曜日だったので、内部は閉まっていましたが、パイプ状のスリットからみえる階段は、緩やかなカーブを描いています。
こういったデザインがオリジナリティがあると言うのでしょう。とても46年前の建築とは思えない自由さを感じます。
独創性、柔らかさ、そして美しさを備えた建築です。
もうひとつは、新世界にある「ギャラリー再会」。
さらに遡ること17年。1953年の完成です。
当時は1階が純喫茶だったようです。
ジャンジャン横町から北にある通天閣を目指します。
通天閣の真下を抜け。
北東に少し歩けば、「ギャラリー再会」。本当に、通天閣のすぐ足下にあるのです。
映画全盛のころ、劇場のオーナーからの依頼だとありました。
「建築に外観はいらない」という言葉の通り、後に彼は植物に覆われた建築を多くつくります。この建築でも、その一端を垣間見ることができます。
今から5年前、石井修の自宅、目神山の家1-回帰草庵-を見せていただく機会がありました。
この時ほど、日本建築家協会(JIA)に入って良かったと思ったことはありません。その住宅は、完全に緑に埋もれていたのです。
リノベーションの候補に挙がっている作品も、とても魅力的でした。
しかし、相談にみえた方の希望を聞いていくと、ある点でその建物は合わないかもと感じ、そう伝えました。
創り手として、彼の作品をリノベーションしてみたい、という気持ちは正直に言えば強くあったのですが。
動機善なりや、私心なかりしか
1984年、電気通信事業が自由化された際に、現・京セラ名誉会長の稲盛和夫さんは、毎晩自身に問うたそうです。
自分がいい格好をしたいから、参入すると言っているだけではないか、と。
しかし、ここで参入しなければ、日本の通信料金が適正な金額になることはない。日本国民のためにと思い決断したといいます。
鉄道網や高速道路網というインフラを持った当時のライバル会社は全てなくなり、KDDI(当時・第二電電)だけが現在も残っています。
お客さん第一主義、という言葉をよく聞きますが、これを貫くのは簡単ではありません。
私心をゼロにするのは簡単ではありませんが、動機が人として恥ずかしいものではないかを問うことは、私にもできます。
聖人君子ぶるつもりはありませんが、そうすることで、決断が随分シンプルになった気がするのです。