それはポーカー詐欺だ

 先月、若い頃の旅体験を書きました。と言っても31歳の時ですが。

 この春入所したスタッフ田坂は、大学を休学。7ヵ月を掛け、25か国を回ってきた筋金入りのバックパッカーです。旅の前半、ホーチミンでの事。

 中央市場あたりで、歳の頃は50歳、人の好さそうなおばさんと仲良くなりました。そのおばさんは東京に引っ越したいそうで、日本の情報を教えて欲しいと言って来たのです。

 また「ちょうど今日、ホームパーティーがあるから、遊びに来ないか」と誘われたのです。彼は助けてあげたいという気持ちもあり、その家に行ったそうです。普通はついて行かないものですが。

 家は、中心街からタクシーで15分程。密集した住宅街にありました。

 パーティーと聞いていたにも関わらず、客は居らず。いきなり100kgを越すような大男がでてきました。テーブルの上に並んだチキンは、今までみたことのない貧相さ。それを指し「さあ食べろ」と言ったのです。

 巨漢は「俺はカジノのディーラーをしているので、その技術を見せてやる」と言い出し、トランプのある個室に移されました。

 「いまからポーカーをするんだ。インド人のカモがやってくるので、俺たちででグルになって、金を巻き上げてやろうじゃないか」と言い出したのです。するとヨボヨボのおじいちゃんが
入ってきました。どう見てもインド人ではない。

 ここまでくると流石に彼も「これはヤバイ」と思い始めました。カモは自分だと。

 さあ始めようとなります。何度拒んでも受け入れてて貰えず、1回するはめになったのです。結果はスタッフ田坂の大勝。巨漢が目配せをしてきました。「さあふんだくってやろうじゃないか」的な。全く嘘ですが。

 何とかこの場から逃げ出さないとと「少し煙草を吸わせてくれ」と外に出ました。

 巨漢が追いかけてきて「早く戻らないと、カモの(ニセ!)インド人に怪しまれるじゃないか」と、しつこく再開を即してきたのです。

 「旅は始まったばかりなのに、ここで俺の人生は終わるのか……」スタッフ田坂は、遠い地で死をも覚悟したのです。

 結果的には何度も懇願し、何とか開放して貰ったそうです。

 彼に「深夜特急は読んだことある?」と聞くと「ありません」と。「だから詐欺にあうんだよ」と思わず言ってしまいました。バックパッカーは皆この本を読んでいると思っていましたから。

 もう「地球の歩き方」の出てくるダメな日本人例でした。人の良い、小金もちの日本人は、どこに行っても世界最高のカモなのです。

 長男は現在小学3年。勉強はそれほどではないようですが、本は目覚めと共に読み始めるくらい好きなのです。

 「どんな本が面白かったか」と聞くので沢木耕太郎の深夜特急と答えました。一度読んでみるそうです。さて、小学3年生が文庫本全6巻を読み切れるのか。

 いつか一人で旅にでればいいと思っています。少々の冒険はいいけれど、ポーカー詐欺にだけは引っ掛らないように。

 「深夜特急」著者、沢木耕太郎は26歳の時、香港からロンドンまでを乗り合いバスのみで繋ぐ旅にでる。一年に及ぶその体験を元に書いたノンフィクションのようなフィクション。

 日本人バックパッカーのバイブルとも言える?