タイのペルソナ

 実家の階段にはお面が置いてあります。

 これは私が買ってきたもの。
 
 約10年前のこの時期。私はバンコクに居ました。

 事務所を立ち上げて5年。仕事は増え始めたのですが、精神的には疲弊しきっていました。一旦全ての仕事を終え、帰りの予定の無い旅に初めて出たのです。

 はじめに着いたのがタイのバンコク。空港からバックパッカーの街、カオサンストリートへ直行します。宿代は当時のレートで、1泊が1ドルか2ドル。その頃も、円が強い時期でした。

 数週間ここに滞在し、それから近隣の国を放浪し始めます。沢木耕太郎の小説「深夜特急」のような旅をしたいと思っていたのです。

 気になる街へ行き、安宿を探す事を繰り返していました。ベトナムのホーチンミン市にやってきた時、丁度旧正月の時期でした。中華街ではそれを祝う花火が上がり、あちこちで爆竹が鳴っていました。それをゲストハウスの屋上から眺めていた時、やっぱり日本へ帰って建築設計がしたいと思ったのです。

 3月の終わりには日本に戻ろうと決め、再びバンコクに戻ります。その時に買ったのがこのお面。資金はほぼ使い切っていたので、勿論安物です。怖い顔の面は魔よけの意味。お多福のような面にどんな意味があるのか、説明を聞いても分かりませんでした。

 パーソンの語源はペルソナ。仮面というラテン語でだと言われます。

 人は色々な顔をもつもの。旅に出る前は、何とも暗い顔をしていたと思います。しかし、日本に戻ってから、落ち込むこと、暗い顔をする事を辞めました。私はその仮面を捨てたのです。

 今年も残すところ10日を切りました。大晦日には「今年も精一杯頑張った」と言えるよう、残された2011年を全力でいきます。