デラシネ

 大阪の下町は、この時期裏路地が賑やかです。丁度ネコの繁殖期。

 朝一番、洗濯物を干しに上がった妻から「ネコの赤ちゃん生れてる」と。

 寝ぼけ眼の長男を連れ、2階バルコニーへ行きました。

 裏家のバルコニー下から、ギョロッと睨みつけられました。

 真っ黒の母ネコの下に、眠る3匹の子ネコ。

 母ネコは背中を丸め、こちらを威嚇してきます。

 その間、およそ2.5m。かなりの迫力です。

 しかし、完璧な条件を選んでいます。

 雨は掛からず、子ネコがオシッコしても水下へ流れ清潔。

 もしタカなどの外敵がくれば(居ませんが)瓦屋根との隙間に逃げ込め、そう簡単には見つかりません。但し私達家族を除けば。
 娘も目を覚まし、再び見に行きました。母ネコは狩りに出掛けたのか、子ネコだけでした。狩りと言っても狙いは残飯ですが。
 
 子ネコ達は娘の足音に気づくと、一目散に瓦下へ逃げ込みました。要するに、子ネコが寝ている時しか見れないのです。

 それから、毎朝のようにバルコニーへ行っています。

 後日、1匹だけが起きていました。

 母ネコが子ネコを守ろうとする様に、種の保存の根源を見る思いがします。

 子ネコの大きな瞳に、生物としてなんら変わることのない、愛おしさを感じます。
 
 しかし私に何か出来ることは何もありません。

 デラシネとは浮き草、根なし草という意味から、故郷を失った人を指します。そんな言葉を想い浮かべました。

 これはクロネコ一家に限った話ではないかもしれません。自分も含め、都会にすむ多くの人々はデラシネなどと思います。

 しかしそれは寂しいと言う意味ではありません。逞しいことなのです。