小指の爪

 この日曜日は母の日でした。母だけではありませんが、思い出す事があります。

 小学校の頃、両親が爪を切っていました。横で見ていると2人とも、足の小指の爪がほとんど無いのです。どうしたのか聞きました。

 共に「毎日働いていると、ちびて無くなる」と言うのです。それを聞いて「大人になると有るものが磨り減って無くなってしまうのか……」と空恐ろしい気分になりました。

 実家はガラス屋でした。小さい頃は特に忙しかったので、住居下の仕事場からは、毎日遅くまで父の怒声が聞こえてきました。楽しい思い出ばかりではありませんが、足の爪が磨り減るまで働き、こうして生かされていることに感謝します。

 そう思えるようになったのは、ごく最近ですが。

 しかし母の日に、感謝の言葉を伝えた訳ではありません。妻に「カーネンションの一本でも買っといてえヤ」と。全く恥ずかしい限りです。

 いつか面と向って言える時が来るのでしょうか。そんな事も出来ない自分が恥ずかしく思いますが、真っ当な感情だとも思うのです。完全に言い訳ですが。

 その頃の母の年齢はとおに超えました。一生懸命働いてきたつもりですが、幸い足の爪は全部あります。