Tと Spoon cafe

 大学時代の後輩が、昨日結婚しました。披露パーティーはライブハウスで催され、新郎は歌います。彼は私にとって、独立してから3番目のクライアントでもるのです。

 ’96年の夏に私はアトリエmを設立しました。なんとか一軒目の家を建て終えたのが’97年の秋。2つ目は長野県の山小屋の改修。’98年の春先、3つ目の仕事として、西宮にあるカフェの改修計画が始まりました。

 10年前は”カフェ”より”喫茶店”のほうが通り良かったと思います。改修前の店も、ファーストフード店、パン屋さん、喫茶店を合わせたような店でした。後輩のTは、ある企業に就職していましたが、家業であるその店をテコ入れする為、呼び戻されます。彼は現場責任者として、旧店舗で頑張り実績を上げますが、この先は店をリニューアルするしか無いと考えるに至ります。そして私に声を掛けてくれたのです。

 飲食店を設計した経験は無かったのですが”お客さんの幸せ”と”もてなす側の幸せ”とは何か自分なりに模索しました。2人とも若かったので、理想のカフェ像を熱く語り合い、色んな店を見に行き、新店舗の計画を詰めて行きました。

 彼はその頃からカフェ、サロン、バー(バール)の概念を理解していました。最終的には食べ物と空間を売るんだから、真面目に本物を目指すしかないと言う結論に至ります。本物の紅茶(フレーバーティー)、本物のコーヒーとエスプレッソ、本物の空間。厳しい予算でしたが、安価であっても”嘘や見栄のない”素材を追求しました。お皿、店内に置く雑誌、ユニフォーム、スプーン、ゴミ箱などなど、想像できる限りコンセプトに合うのか検証しました。そしてスタッフが愛し、プライドを持って働けるカフェを目指したのです。

 カフェではあるが料理も本物を提供したい。その軸になるものを考えていたTが”東京の広尾に、ハンバーガーを1000円で売っている店がある。お客さんの半分は領事館に勤める外国人だが、凄く繁盛している”と。時にチェーン店はハンバーガーを60円で売っていた時代です。早速2人で見に行きました。

 広くは無い店内でしたが、確かに流行っています。体の大きな外国人が、大きなハンバーガーを頬張っているのです。私も人気のアボガドバーガーを頼みました。分厚いパテ(ハンバーグの事)の上にタルタルソースの掛かったアボガドを、芳ばしく焼けた大きなバンズ(パンの事)が挟んでいます。これがもう、美味しくて、美味しくて。しかも大人の男性が昼食として十分満足出来るボリューム。帰りの新幹線で、”これを軸に据えれば、関西のカフェが変わるんじゃないか”とか、興奮しながら話していたのです。

 早速、スタッフの人が試作品を作りますが、上手く行かないのです。薄いパテなら鉄板で焼けるのですが、肉汁が溢れるような分厚いパテは、中まで火が通らない。そう言えば広尾のお店は炭火で焼いていました。炭からでる遠赤外線が無いと上手く焼けないようなのです。

 設計の過程でも、数え切れない程問題は起こりましたが、何とか工事も終え、オープンを向かえたのが’98年の冬でした。こうして、入口正面に炭焼きコーナーのあるカフェが誕生しました。初日、2日目くらいまでは、炭火のコントロールをスタッフが練習する時間が無く、私が店で焼いていました。そのお陰で、一人目のお客さんが入って来る所に立ち会えました。その光景と喜びは、今でもはっきり覚えています。

 店が軌道にのった現在、Tは店を離れ新しい事業を立ち上げました。そして結婚。心から祝福します。そして、全力でぶつかれる場を与えてくれた事に感謝し、Spoon cafeを誇りに思っている事も合わせて記しておきます。

 随分長くなってしまいましたが、Tと Spoon cafeの思い出を書きました。実は昨日、急にスピーチを求められたのです。思い出は書いた以上にあるので、話が長くなり始め……途中でまとめに入ったのですが。いやはやスピーチって本当に難しい。

「Tと Spoon cafe」への3件のフィードバック

  1. SECRET: 0
    PASS:
    昨日はお疲れ様でした。T君の本当にうれしそうな笑顔が印象的です。もう1つの印象的な笑顔は守谷氏の笑顔でした。いつもより落ちついておられるように見えましたが、その分Spoon Cafe立ち上げのT君との思いが詰まっていたのでしょう。妻も子供達も披露パーティーを楽しんでいた様子です。私にとってT君と守谷氏のお話しは心打たれるものがあり年に数回しか合えませんが楽しみにしています。次ぎに合えるのは白木の海でしょうか?お仕事がんばってください!私もがんばります!

  2. SECRET: 0
    PASS:
    >そうめん屋さん
    こちらこそお疲れ様でした。家族みんなで来てくれると、Tもより嬉しと思います。

    つい感情が先にたってしまって、あんな事もこんな事もとなってしまいました。友人であり、後輩であり、クライアントでもありと、思うところも3倍で……。でも何か反応を貰えると嬉しいです。

    年に数回会う、ほとんどは海ですが、守谷も楽しみにしています。そうんめん屋さんの役割が更に大きくなって、会社の中でのやりがいと責任も増える一方だと思います。多くは話せなくとも、また次のステージに上がって、頑張っているんだろうなと感じます。

    そんな姿を見ると”さあ、頑張ろう”と思います。たまにはゆっくり話せる機会があれば尚良いのですが、白木で会えるだけでも良しとしましょうか(笑)。梅雨が明けたらもう夏。ジリジリした太陽が恋しい限りですね。

  3. SECRET: 0
    PASS:
    あっ、そうめん屋さん!元気してるの?
    お墓が天理と桜井にあるから会社の前を時々通るよ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA